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女装男子は恋したい 番外編2
柔太朗の背中。
勇斗が少しずつ近づく。
電話越し。
「ありさ」
柔太朗は振り向かない。
「今どこ?」
「……教室」
震える声。
勇斗は数歩手前で止まる。
目の前にいる。
黒パーカーの男。
横顔。
さっきからずっと見ている。
似すぎてる。
ありえないくらい。
勇斗はスマホを耳に当てたまま言う。
「なあ」
柔太朗の背中がビクッと動く。
「振り向いて」
呼吸が止まる。
振り向いたら終わる。
全部。
でも。
勇斗はもう確信に近い。
「ありさ」
少しだけ声が柔らかくなる。
「こっち見て」
沈黙。
芝生の広場のざわざわだけが聞こえる。
柔太朗の手が震える。
スマホを握る手。
勇斗はもう一歩近づく。
「…逃げんな」
低い声。
その瞬間。
柔太朗が振り向く。
ゆっくり。
目が合う。
完全に。
数秒。
世界が止まる。
勇斗の目が見開く。
「……え」
柔太朗の喉が鳴る。
声が出ない。
勇斗の頭が整理できない。
ありさ。
でも男。
完全に男。
沈黙。
勇斗が小さく呟く。
「……ありさ?」
柔太朗の胸がぎゅっとなる。
否定しない。
できない。
勇斗は一歩近づく。
距離、1メートル。
目を逸らさない。
「……嘘だろ」
柔太朗の目が揺れる。
周りの学生の声が遠くなる。
勇斗の声が少し震える。
「お前……」
言葉が出ない。
整理できない。
でも。
一つだけ確かなこと。
この顔。
この目。
何度も見た。
デートで。
笑った顔。
泣きそうな顔。
勇斗が息を吐く。
「…ありさだよな」
柔太朗の唇が震える。
逃げ場ない。
小さく。
小さく。
頷く。
その瞬間。
勇斗の表情が固まる。
完全に。
空気が止まる。
数秒。
十秒。
勇斗がやっと言う。
「……男?」
柔太朗。
震える声。
「……うん」
勇斗、目を閉じる。
情報多すぎる。
頭パンク。
「ちょっと待て」
額を押さえる。
柔太朗の胸が痛い。
怖い。
嫌われる。
終わる。
勇斗がもう一度顔を上げる。
今度は真っ直ぐ。
柔太朗を見る。
「…いつから?」
「最初から」
静かな答え。
勇斗が苦笑する。
「最初からかよ…」
空を見上げる。
そして。
もう一度柔太朗を見る。
「名前」
柔太朗が小さく言う。
「……山中柔太朗」
勇斗が小さく笑う。
「ありさじゃねーじゃん」
柔太朗の目が潤む。
「……ごめん」
勇斗の目が少し揺れる。
その時。
後ろから声。
「柔太朗ー!」
友達。
最悪のタイミング。
勇斗の視線が友達へ。
「柔太朗?」
名前を繰り返す。
もう完全に繋がる。
勇斗が小さく呟く。
「……マジかよ」
柔太朗の心臓が壊れそうになる。
勇斗は数秒黙る。
それから。
一歩近づく。
そして低い声で言う。
「あとで話す」
柔太朗を見る。
まっすぐ。
「逃げんな」
勇斗の言葉。
「あとで話す」
「逃げんな」
その目は怒っているわけでもない。
でも。
明らかに混乱してる。
理解しようとしてる。
でも追いついてない。
柔太朗はそれが一番怖い。
友達が近づく。
「柔太朗ー?誰?」
勇斗を見る。
「…知り合い」
柔太朗が答える。
勇斗は何も言わない。
ただ柔太朗を見ている。
さっきまで“ありさ”だった人。
頭がまだ処理できない。
柔太朗はそれ以上耐えられない。
「……ごめん」
小さく言う。
そして。
走る。
「おい!」
勇斗が呼ぶ。
でも止まらない。
大学の門を抜けて。
角を曲がって。
消える。
勇斗は追いかけない。
その場に立ったまま。
深く息を吐く。
「……は?」
頭の中ぐちゃぐちゃ。
ありさ。
女の子。
好き。
でも。
男。
柔太朗。
全部一気に来る。
勇斗は髪をぐしゃっと掴む。
「なんなんだよ…」
怒りじゃない。
裏切りとも違う。
ただ。
理解が追いつかない。
その夜
勇斗のスマホ。
トーク画面。
ありさ
既読つかない。
メッセージを打つ。
《話そう》
送る。
既読つかない。
しばらくして。
もう一通。
《逃げんなって言っただろ》
既読つかない。
電話。
出ない。
勇斗が小さく舌打ちする。
でもすぐ後悔する。
「……違う」
怒りたいわけじゃない。
ただ。
整理したい。
聞きたい。
でも。
相手が消えた。
柔太朗の部屋
スマホ。
机の上。
通知。
勇斗
勇斗
勇斗
見れない。
怖い。
胸が痛い。
柔太朗はベッドに顔埋める。
「終わった…」
わかってた。
いつかこうなる。
でも。
想像よりずっと怖い。
涙が滲む。
「……好きだったのに」
自分で壊した。
⸻
3日後
勇斗。
限界。
既読つかない。
電話出ない。
「……はぁ」
スマホ握る。
そして。
あること思い出す。
大学。
勇斗が立ち上がる。
「逃げんなって言ったろ」
⸻
柔太朗の大学
講義終わり。
柔太朗が外に出る。
帽子深く被る。
目の下少し赤い。
その時。
門の前。
立ってる人影。
黒ジャケット。
腕組み。
佐野勇斗。
柔太朗、固まる。
心臓が跳ねる。
勇斗がゆっくり顔上げる。
目が合う。
逃げようとする。
その瞬間。
勇斗が腕を掴む。
「捕まえた」
低い声。
柔太朗の心臓が壊れそう。
「……離して」
小さい声。
勇斗は離さない。
真っ直ぐ見る。
数秒。
沈黙。
そして。
言う。
「一個聞く」
柔太朗、震える。
勇斗の声。
真剣。
「俺が好きだったの」
少し間。
「ありさ?」
胸が締め付けられる。
「それとも」
目を離さない。
「柔太朗?」
涙が溢れそうになる。
柔太朗が言う。
「……ありさ」
勇斗の眉が少し動く。
「だよね」
苦笑。
でも次の言葉。
柔太朗は予想してない。
勇斗が少し近づく。
そして言う。
「でもさ」
静かに。
「俺が会いたかったのは」
一瞬間。
「お前なんだよ」
柔太朗、目が揺れる。
勇斗が続ける。
「女とか男とか」
少し困った顔。
「正直まだ整理できてない」
正直な言葉。
「でも」
手を強く握る。
「好きなのは変わんねぇ」
柔太朗の涙が落ちる。
勇斗が小さく言う。
「だから」
「もう一回ちゃんと話せ」
逃げるな。
って顔。
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