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井川奎
87
未熟者が作った物語
247
シオン
75
2,324
そして翌日。美智子はフルールに陣取っている。変わらず青山は園子マダムと世間話ばかりしていた。
ただ、美智子の視線を気にしてか、時折テーブル席で腕組みしながら何か考え込んではいた。
「もう……。結局今日も仕上がらない。これ間に合うのかしら?」
下宿の部屋で美智子は一人愚痴る。仕事を終えて帰ってきても正直、後味の悪さが尾を引いている。
ただ、いつもなら苛立ちを持て余してしまうのだが、今は違っていた。
はあっと息を鏡面に吐きかけ手ぬぐいで磨く。
そう、例の手鏡を何の気なしに磨き始めていたのだ。
「……なんとなく、曇りが取れてきている気がするんだけど……そう見えるだけなのかしら?」
唸りながら美智子は手鏡を見た。
すると、磨いたはずなのに、曇りが増している。
いや、モクモクと膜のような、霧のようなものが現れ、曇って見えるのだ。
何が起こっているのか美智子にはわからない。磨いたはずの鏡が曇り始めたのだから。
「……え?!」
驚く美智子をあざ笑うかのように、今度は鏡の曇りがゆっくり晴れはじめた。
次の瞬間、息を呑む。
そこに映っていたのは、自分ではなかった。
見知らぬ青年が、こちらではなく、どこか遠くを見つめている。
「……!」
とっさに美智子は部屋を見渡した。
誰もいない。美智子一人きりだ。
「ど、どういうこと?!」
再び鏡に見入る。が、青年の姿は消えていた。
美智子はとっさに鏡を磨いた。何故かもう一度青年の姿を見たいと思ったからだ。
……それほど、鏡の中の青年は美しかったのだ。
美智子が、手ぬぐいで鏡を磨く。
すると、青年が現れる。今度は瀟洒な部屋で本を読んでいる。しかし、またすぐに鏡は曇り、青年は消えた。
「……磨かないと」
美智子は執拗に鏡を磨いた。
その夜から、美智子は鏡を磨くことが日課になった。
「青山先生。相澤さん今日も来ませんね」
五日後のカフェ、フルール──。
「そうだなあ。せっかく原稿仕上げたのに」
徹夜して約束の期日に間に合わせたんだと青山は自慢げに、園子マダムへ言った。
「何言ってるんですか。日のべしてもらってるんだから、間に合わせるのは当然ですよ」
「いや、園子マダム。手厳しいなあ」
青山は、頭をかきながら小さくなった。
「まっ、出版社はここから近いし。相澤君も忙しいはずだし。ちょっと原稿届けて来るよ」
青山は、原稿が入った封筒を持って席を立った。
「あっ、行き違いで相澤君がここに来たら園子マダム、原稿は持っていったと伝えてくれるかい?」
「ええ、構いませんよ」
マダムは頷いて、青山を見送った。
暫く後、青山が息せき切ってフルールに戻ってきた。
「園子マダム!聞いてよ」
編集局から戻ってきた青山は、意外なことを言った。
美智子が、五日間、無断欠勤しているのだと──。
コメント
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うわぁ第4話もめっちゃ気になる展開!!😳✨ 鏡を磨くと現れる見知らぬ美青年…美智子が「もう一度見たい」って執着しちゃう気持ち、すごくわかる〜!読みながらドキドキしたよ💕 でも最後の「無断欠勤」で一気に不穏な空気になって…続きが気絶するほど気になる!!次話いつ読めるの?待ちきれないよ〜😭🌸