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「眩しい……」


久しぶりに地下から陽の光の下に出た私は、その余りの明るさに目が焼かれてしまいました。

その眩しさに耐えきれずうつむくと、ぼさぼさのほつれ乱れた髪が前に垂れる。今の汚れ不潔な姿も相まって、私は幽鬼のように見えたのではないでしょうか。


「こっちだ!」

「あっ……」


手枷の鎖を城兵が強引に引っ張り、弱り切っていた私は引き摺れるように一台の護送馬車の前まで拘引されました。


「これは……」


その馬車を見て私は言葉を失いました。


それは荷台に鉄格子を嵌め、幌もなく完全に晒された一般の罪人を移送するものだったからです。とても貴族を護送する為に使われるものには見えません。


「本当にこれに?」


地下牢の件もそうですが、明らかに私に対する殿下達の悪意を感じる扱いです。これでは貴族籍を剥奪された令嬢と言うよりも、最初から貴族ではない者であったかのような振る舞い。こんなに冷酷な仕打ちがあるでしょうか。


「さっさと乗れ!」

「きゃっ!」


問いかけを無視して城兵は無理矢理に私を檻の中へと押し込めました。そして私を乗せると護送馬車はゆっくりと動き出しました。


馬車の周囲を固める護送の者は魔獣討伐を共にしたこともあった騎士達でした。


彼らは決して私と目を合わせようとはせず、ただ無表情に前方を見据えながら馬車に合わせて馬を歩ませていました。


やがて、馬車は城門をゆっくりと潜り、私はその大きなアーチを見上げて城外へ追い出されているのだと実感しました。


召喚されて来城した時には、まるで獣か何かの様に鉄格子に囲まれた状態で追放されるとは夢にも思いませんでした。


大きな城門を抜けると、馬車は止まることなく跳ね橋を渡り街の中へと進んで行きました。そして、檻の中から私の目に入った光景はとても信じられないものでした。


「――っ!」


あまりの驚きに私は言葉を失いました。


「あれがお触れにあった罪人か」

「酷く醜い姿ね」

「聖女を騙った悪女らしいぞ」


なんと馬車が進む道の両脇に多くの人が群れを成していたのです。そして、集まっている民衆達は明らかに私がこの日、この時に護送されると知っている様子でした。


「聖女エリー様を殺害しようとした悪党らしい」

「とんでもない女ね」

「なんで死刑にしないんだ」

「まったくだ。追放なんて生温い」

「生きる価値もない最低の女だ」

「死ねばいいのに」


衆目にさらされながら馬車はゆっくりと進みました。


こつん――

「つっ!」


突然、私の額に何か硬い物が当たりました。

そのまま落ちてコロンと私の前に転がったのは小さな石。


「そうだ死んじまえ!」

「エリー様に仇なす悪魔め!」

「やっちまえ!」


私に向けて周囲の群衆から次々と石が投じられました。


「いたっ……やめ……」


周囲から投げられる石から自分を守るように手を前に翳しながら周囲を見た私は息を飲みました。それは大勢の人々から向けられる敵意と蔑む視線が私に突き刺さったからでした。


その衝撃に私の頭は真っ白になり、胸の内には黒い苦しみと痛みが噴き出てきました。


「うっ……ぁ……はぁ、はぁ、はぁ……んっ……はっ、はっ、はっ……」


急に呼吸が速くなり、あまりの苦しさに胸を押さえうずくまりました。私は自分の身に起きたことが理解できずにその苦痛の中で涙を流し身悶えました。


何故? 何故? 何故? 何故? 何故?


この時、その言葉だけが私の頭を占めていました。


慣例なら貴族には最低限その矜持を守る権利が与えられるものです。身なりを整え、護送には姿を隠せる馬車、そしてひっそりと人知れずに運ばれます。


しかし、今の私はどうでしょう。牢の中で汚れたままの姿で着替えさえ許されず、護送の為に用意されたのは剥き出しの檻の馬車、そして陽の光の下に私の醜態を晒し、人々の蔑視の中を護送されています。


これは明らかな私に対する悪意の発露。


私はこんな仕打ちを受ける程に殿下達に憎まれていたのでしょうか?

私は殿下達にここまで憎まれる何か酷い悪事を働いたのでしょうか?


その自問の中であの子の……エリー・マルシアの言葉が思い起こされました。


――『悪役令嬢』


悪事を働き、不正を行い、人々から憎まれる主人公の敵役。最後は主人公の手によって成敗されて、観客を喜ばせる役回り。だけどそれは物語の中だけの話です。


何も悪さをしていない現実の者に悪役を押しつけたなら、それは明確な人格の否定ではないでしょうか。


なぜエリーは彼女自身の物語の為に悪役を私に押し付けたのでしょうか?

なぜそんな非道を彼女は何の罪も無い他人に平気で行えるのでしょうか?


石で傷つき額から流れる血と、息の出来ぬ苦しみから溢れた涙が混じり、滲んだ視界の端を薄い桃色がよぎりました。


ひらり――


その一欠けらが鉄格子の隙間から馬車の中へ入り込み、私の目の前に舞い降りたのは薄桃色の可憐なひとひら――スリズィエの花びら。


それは殿下との顔合わせの時に咲き誇っていた麗らかな春の象徴。

その花が散り始めるのは穏やかな春の終わりを告げているのです。


そう……

春は終わったのです。


こうして私は犯罪者の様に群衆の中を晒し者にされながら、護送馬車で辺境へと送られたのでした。貴族としての矜持も、聖女としての誉れも、人としての尊厳も、何もかもを踏みにじられたのです。


王都の民の悪意を孕んだ冷たい視線と侮蔑を含む険しい表情を私は今でも忘れる事ができない――

転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。

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