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「何があったん?」
「……」
連れて来られたのはらっだぁさんの家だった。
確かに外よりは全然人目は気にならない。
話すべきか話さないべきか。
すごく迷った。
けど、この心の重荷を少しでも軽くしたくて、逃れたくなった。
「……じ、つは」
ぽつりぽつりと事の経緯を話す。
らっだぁさんは相槌を打ちながら静かに聞いてくれていた。
「……あの3人がねぇ」
「おれも、信じたいです…けど、こうも続けて、あったら…」
今までそんなことなかったから余計に。
「寂しい?」
こくりと頷く。
「悲しいし、…置いてかれた感じがして…」
「そっか」
涙は止まったけど、そのせいで頭痛がする。
昨夜の痛みを思い出して更に増していく気がした。
「ぅう…」
「なんか冷やすもの取ってくるよ。あと、飲み物」
立ちあがろうとしたらっだぁさんの服を咄嗟に掴んだ。
「ぁ」
「?、すぐそこだから大丈夫。トラゾー置いてどこにも行かねぇから」
子供みたいなことをしてしまって恥ずかしさでパッと手を離す。
「トラゾーは可愛いな」
頭を撫でて、冷蔵庫の方に行くらっだぁさんの背中をぼんやりと見ていた。
「……」
「…ん、お茶しかねーけど、飲みな?あと、これ」
すりっと赤くなった目元を撫でられて冷たい濡れたタオルを渡される。
「ありがとうございます…」
受け取ったタオルを目元に当てる。
ひんやりとしたそれは熱くなった目元だけでなくてざわついている心も落ち着かせてくれた。
「トラゾー」
「、?…はぃ?」
「嫌なことは嫌って言っていいんだぜ?」
「ぇ?」
「トラゾーだけが我慢する必要なんてないし、1人つらい思いすることもない」
らっだぁさんの真剣な声にぎゅっとタオルを握る。
「…あの3人が何考えて何してるのかは、なんとなく分かんだけど、ごめんけど俺からは何も言えない。でも、それでトラゾーが傷付くのは違うじゃん」
「…けど、俺なんかが、そんなこと、言ったら……き、らわれ…る…ッ」
止まっていた涙がまた溢れ出る。
「そんなことねーって。寧ろ本音言ってもらえてあいつら喜ぶんじゃないか?」
「けど…っ、」
「トラゾーのわがままなんて可愛いもんだろ。ぺいんとやしにがみくんなんて図々しいにも程があるし、ノアもノアで爆弾投下してくることあるし」
優しい顔に優しい声。
俺のことを慰めてくれようとしているらっだぁさんに泣きながら笑う。
「ぁりが…とう、ご、ざぃます…」
「…ぅぐ…」
「?、らだ、さん…?」
「…お前はホントに守られてたんだなぁ…」
「へ?守られ…?」
「今日、よく無事だったな」
なんのことか分からなくて首を傾げる。
頭痛は少し落ち着いてきた。
「どういう…?」
「さっきの奴みたいなのに声かけられんかった?」
「………あ、」
「いたんか。大丈夫だった?」
大学生くらいの女の人のことか、と鈍る頭で思い出す。
「い、ましたけど…逃げました。…あと、外を歩いてたら周りの人にすごく見られてた気が…」
「そりゃ、トラゾー可愛いしかっこいいからみんな見てんだろ」
「俺が?俺なんかよりらっだぁさんの方がかっこいいですよ。…てか、可愛くはないです」
度々、確かに可愛いと言われていたけども。
「あんま見慣れない服着てるから、物珍しさのお世辞じゃないですかね」
「うーん、無自覚な感じかぁ」
クロノアさんにも過去同じことを言われたことがある。
「ま、トラゾーが嫌だなとかしんどいなぁって思った時は俺んとこおいで」
「先輩の教室には行きにくいです…」
「ともさんもいるし、大丈夫だって。それに喜ぶと思うよ?」
ね?とにこりと笑うらっだぁさんに頷く。
今はあの3人といると、言いたくないことを言って傷付けてしまいそうだから。
「…逃げ場みたいなことにしてごめんなさい」
「え?俺は頼られてるって思って嬉しいけど。多分、ともさんも同じこと言うぜ?」
「…ぺいんとたちに酷いこと言いそうで、だから逃げてらっだぁさんたちに迷惑かけるのも…」
急にほっぺを包まれて顔を上げされられた。
目の前にらっだぁさんの整った顔。
「そうやって周りのことばっか考えて我慢するから倒れるんだよ」
「ゔ…」
「俺らが迷惑じゃないって言ってんだからいいの。先輩が嬉しいって言ってんだから後輩は素直に甘えてなさい」
「うぁい」
ピロンとらっだぁさんのスマホの音が鳴った。
と、思った途端に通知音が立て続けに鳴り始める。
「うっるせ」
スマホを手に取ったかと思うと、動きを止めるらっだぁさんに声をかけた。
「らっだぁさん?」
「トラゾー、ちょっとこっち寄って」
「?、はい」
「…素直すぎてお兄さんは心配だよ」
画面をタップしたかと思うとあの時のように肩を引き寄せられた。
「わっ」
「画面見て」
「へ?」
パシャっと音がした。
どうやら写真を撮られたようだ。
「ん?え、らっだぁさん?なんで…?」
「んー?意趣返し的なやつかな」
画面を見ると、しっかりキメ顔のらっだぁさんと呆けた俺の顔が写っていた。
「…なんか、俺アホみたいな顔してませんか」
「え?可愛いじゃん。…よし、送信と」
「え、ちょっ、送信って誰に…⁈」
「ひみつ」
笑って誤魔化されてむっとする。
「なんかいっつも帽子かぶってあんま顔見えんからさ、なんか新鮮だわ」
じぃっと俺を見るらっだぁさんは真剣にそう言った。
「…………俺、あんま顔見られたくなくて…」
「なんでよ。可愛い顔してるのに」
不思議そうに、尚且つまた可愛いと言う先輩に首を横に振った。
ぎゅうっと手を握りしめる。
「………中学生のとき、学校で…、っ、先生に、その……襲われ、かけて…」
これはぺいんとたちにも言った事のない秘密である。
こんな事言えるわけない。
「は?」
突然の低い声にびっくりする。
「…いや、えっと、すぐに友達が助けてくれたから、その、未遂?と言いますか…」
「そのクソ教師は?なんでトラゾー襲ったの」
今でも覚えている。
あの顔と声。
「……『そんな顔で見られたら、誘ってるとしか思わないだろ』って」
「……」
「当然、その先生の言ってる意味は俺には分からなかったし、勿論そんな気は全く無かったですし…。純粋に授業で分からなかったことを放課後、準備室にいた先生に聞きに行って、普通に話をしていただけだったのに……む、向こうは…そんな風に………っ、結局その先生は捕まって、俺は転校。親は仕事で地元を離れられないから支援してもらいながら一人暮らししてるんです」
中学生の頃だから、大人に対しての抵抗する術が乏しかった。
友達が助けに来てくれなかったら俺は、
「…それで、顔を隠してるんだな」
「はい。…今更そんなことなるわけないって分かってても……まぁ、トラウマみたいなものです」
「今日帽子被らなかったのは?」
「……気分転換?気が滅入ってたんでちょっとでも外の光を浴びようかと思って」
その結果、あんなことになるとは。
「ふむ。…よし、トラゾー、今日は泊まっていきな。外も暗くなってきたし」
「え、でも…」
「そんな話聞いて、はいさようならなんて言えねぇって。現に逆ナンされて連れてかれそうになってたじゃん」
「ぅぐ…」
「俺が心配だからさ、泊まっててほしい」
そんな顔をされたら断ることができない。
「わ、かりました…」
そう返事をするとらっだぁさんは嬉しそうに笑った。
どんな表情もイケメンだなぁと羨ましく思う。
「明日も休みだし、一緒に遊びに行こうか?映画でも観に行く?」
「あ、だったら、俺気になってるのがあって…」
スマホをタップすると、すごい通知の数が画面に表示されていた。
「うっわ、ほぼぺいんとじゃん」
「……」
通知を開かずに消して、映画のサイトを開く。
「これなんですけど」
そんな行動にらっだぁさんは何も言わず、俺が開いた画面を見る。
「…お!これ、俺も気になってたんだぁ。話の内容が面白そうなんと脚本立てた人のこと結構好きでさー」
「俺もです!この人の話、すごく好きで」
「俺ら、気ぃ合うな」
「嬉しいです」
「これからもっと一緒に遊び行こうぜ!トラ」
呼び慣れない愛称に戸惑いながらも頷いた。