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第12話「はじまりの名前」
トントンに呼ばれ、軍本部の一室に案内されたセツナは、
そこで初めて、“幹部候補”としての衣服を手渡された。
深い黒の軍服。
胸元に金糸で名前が縫われていた。
「Kurose Setsuna」
誰かが書いた、ではない。
自分自身で「名乗ること」を許された、その名前だった。
⸻
「これ……本当に、僕が着ていいんですか」
セツナの問いに、トントンは静かに答えた。
「“名前”を持ってるやつは、自分で選べる。
兵として沈むことも、生きて過去を暴くことも、誰かを守ることも。
お前はそれができる場所に来た。……それだけだよ」
⸻
軍服に袖を通したセツナの姿を見て、鬱先生は小さく笑った。
「……似合ってねぇよ、まだ」
「それ、褒めてないですよね」
「当然だ。まだ“中身”が追いついてないんだからな。
その制服、ただの布だ。“黒瀬セツナ”って名をどうするか、お前次第だ」
⸻
幹部会議の通達から数日後。
セツナの所属は「特別監査局」へと変更された。
任務は——軍内記録の調査、作戦の記録精査、情報保全の監視。
そして、“国家が見逃したままにしていた歪み”を拾い上げること。
⸻
セツナは、夜の自室で古い手帳を開いた。
そこには、過去に呼ばれていた番号が書かれていた。
「R-Z7」
その数字を、赤ペンで横線で消す。
そして隣に、しっかりと書き込んだ。
「黒瀬セツナ」
⸻
「この名前で、生きていく。
“僕の記録”は、僕が選ぶ」