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リフェアリー
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三週目。証が、紙になりかけた。
新しい発行は、止まった。上限の千五百枚に、届いた。薪を割った者に、米で払った。米で払えば、証は要らない。証が要らなければ、証を受け取る者が減る。受け取る者が減れば、証を持っている者は、早く使おうとする。早く使おうとすれば、米屋に、証が殺到する。
米屋の米が、減った。
「今日、三百枚」つむぎが、夜、言った。「三百キロ、出た。蔵の米は、あと八百キロ」
「三日で、空になる」
「空になったら」
「証が、紙になる。米屋で米にならない証は、ただの和紙だ」
去年の冬と、同じ形だった。でも、逆だった。去年は、証が、引き出しに貯め込まれて、動かなくなった。今年は、証が、一斉に、米屋に吐き出されて、米が、動かなくなる。
貯め込みの逆。取り付けだった。
「期限は、効かないの」ひかりが聞いた。
「効かない。期限は、貯め込みを防ぐ。取り付けは、防げない。むしろ、期限があると、取り付けは速くなる。紙になる前に、米にしておこうと思うから」
要は、相場の板を見た。孫が、毎日、書き換えていた。
『米一枚 味噌四枚 薪二枚』
米一枚は、変わらない。証は米一キロの約束だから。でも、味噌は、二枚から四枚に。薪は、半枚から二枚に。証が、米以外のものに対して、半分の価値になっていた。
証を、誰も、欲しがらなくなっていた。
*
要は、組合の蔵を開けた。
木曽の二百枚。隣村の二百枚。四百枚。これを、米屋に入れて、米の代わりに証を渡せば、米の流出が、少し、止まる。
「それ、意味あるの」ひかりが言った。「証を持ってきた人に、証を渡すの?」
「意味は、ない」要は認めた。「証を持ってきた人は、米が欲しい。証は、要らない。四百枚を入れても、米は増えない」
「じゃあ」
「米を、増やすしかない。でも、米は、秋にしか、増えない。今は、冬だ」
要は、ノートを開いた。ロードマップ。十一の段。全部、動いていない。動いているのは、〇の目と、一の顔だけだった。
仕組みは、止まった。
「お兄ちゃん」ひかりが言った。「御殿の米は」
「御殿の米?」
「塩尻峠に、トラックがある。米の袋が、一台分。権田さんが、持ってきた。あれは、まだ、峠の上にある」
要は、ひかりを見た。
「あれは、御殿に入ったら、くれる米だ」
「入らなくても、買えない?」
「何で」
「証で」
要は、動きを止めた。
証で、御殿の米を買う。御殿は、証を受け取らない。御殿は、現金と、御殿の台帳で回っている。木曽の証は、御殿では、紙だ。
でも、権田は、穴のリストを持っている。瑠衣が書いた回し方も。権田は、一ヶ月後、市が回っているかを見ると言った。
権田は、市を、見ている。試している。
「……御殿が、証を受け取ったら」要は、ゆっくり言った。「御殿が、市の中に入る。市が御殿に入るんじゃなく、御殿が市に入る」
「権田さんが、受け取る?」
「受け取らない。権田さんは。でも、権田さんの百人は、どうだろう。塩尻峠の二十人は、雪の中で、三週間、松明を焚いてる。御殿の米と、御殿の現金で、食ってる。でも、塩尻の現金で買えるものは、塩尻にしかない。峠の上には、何もない」
「峠の上に、何がほしいの」
「わからない。酒か。乾いた靴下か。妹の作った水車で搗いた、白い米か」
要は、立ち上がった。
「ひかり。つむぎ。明日、峠に登る」
「何をしに」
「売りに。御殿の二十人に。米と、味噌と、薪を。証で」
*
翌朝、要と、つむぎと、ひかりと、孫は、峠を登った。
背負っていたのは、米、二十キロ。味噌、五キロ。薪、二十束。それと、証、五十枚。
塩尻峠の封鎖の、二十人は、トラックの周りにいた。火を焚いていた。要たちを見て、立ち上がった。
「通れない」若い男が言った。半年前、要の似顔絵を持っていた男だった。
「通りません」要は言った。「売りに来ました」
「売る?」
「米、味噌、薪。あなたがたに」
二十人が、要を見た。要は、荷物を、雪の上に置いた。
「権田さんの米は、トラックにある。でも、三週間、同じ米だ。味噌は、ないでしょう。薪は、峠で切ってるでしょう。生木は、燃えにくい」
若い男は、答えなかった。でも、目が、味噌の袋を見ていた。
「現金で」男は言った。
「現金は、受け取りません。証で」
「証は、持ってない」
「持ってない。だから、渡します」
要は、五十枚の証を、出した。
「あなたがたは、三週間、峠で、道を塞いでる。それは、仕事です。仕事をした人に、証を払う。それが、市の決まりです。塞がれてる側が、塞いでる側に払うのは、変だと思うでしょう。でも、仕事は仕事だ。五十枚。二十人で、二枚半ずつ。その証で、米と味噌と薪を買ってください」
二十人は、動かなかった。
つむぎが、前に出た。二十人の顔を、一人ずつ、見た。
「覚えました」つむぎは言った。「二十人。全員」
若い男が、つむぎを見た。
「……何を」
「顔を。市の台帳に、載せます。『塩尻峠で、三週間、道を塞いだ者、二十名。証五十枚、支払い』。あなたがたは、今日から、市の台帳に、名前がある。御殿の台帳にも、名前があるでしょう。両方にある人が、二十人、できる」
若い男は、長い間、黙っていた。
それから、証を一枚、取った。味噌の袋を、指した。
「……味噌、一キロ」
「二枚です」孫が、相場の板を思い出して言った。「今、味噌は、証二枚」
「高いな」
「道が塞がれてるから、高い」
若い男は、笑った。乾いた笑いだった。それから、もう一枚、証を取った。
御殿の二十人が、市の証で、市の味噌を、買った。
塩尻峠の上で。雪の中で。
コメント
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うわあああ第51話読み終わった…!🌸 証が紙になりかけて、米が減って、峠で証で売りにいく…この展開エモすぎる!😭💕 「仕事をした人に証を払う。それが市の決まり」って言葉、グッと来た…塞がれてる側が塞ぐ側に払うって逆転の発想、要らしいなあ。でもつむぎが二十人全員の顔を覚えて台帳に載せるって宣言したところ、鳥肌立ったよ!笑 証がただの紙じゃなく、実際の仕事と交換されて動き出す瞬間、やっと物語が動き出した感じがしてすごく熱くなった…!次どうなるの!?もう待ちきれないよ~~!!🔥🔥