「聞かれるとちょっと迷っちまうな。『なんでもいい』って言ったら失礼だし。……けどそれほどこだわりがないから、基本的に朱里が気に入ったデザインでいい。……強いていうなら、プラチナがいいかな」
「うんうん、私も結婚指輪はプラチナがいいと思ってました」
そのあとも色んなデザインを確認し、実際に指に嵌めてみて、とりあえず別の店と比べてみる事にし、お店を出る。
「緊張したらお腹すいちゃった」
「ははっ、ランチ食うか」
そのあと二丁目のショッピングパーク八階にある、ニュージーランド料理のお店に向かった。どうやらいつものように、尊さんがセレクトして予約してくれたらしい。
私の胃袋はいつでも挑戦を待っている。
「ホワイトデーじゃないけど、お望み通り肉」
「肉!」
店内に入ると大きな窓の向こうには銀座の街並みが見え、壁際には棚の上にニュージーランドのアートや国旗が飾られてあった。
席はモスグリーンを使って自然を意識している感じで、お洒落だけど郷土愛を感じさせる内装になっている。
席につくまで他の人のテーブルをチラッと見ると、みんな鉄板の上でジュージューしてる骨付きのお肉や、ゴロンとしたお肉を食べていた。
他のアラカルトメニューも美味しそうで、ワクワクしてしまう。
窓際の席に案内され、お水を出されたあと、私はワクワクしてメニューを開く。
「アルコールメニューが多いけど、昼間だしソフトドリンクにしておくか」
「はい。ピンクグレープフルーツジュース」
「早ぇな」
尊さんはドリンクメニューを見て、流れるように決めた私の言葉を聞き、笑い崩れる。
ニュージーランドワインも沢山あって興味があるけど、今日は昼も夜も大切な日だからまた今度にしておく。
「さて……」
飲み物をオーダーしたあと、私は心してメニューを開く。
「どうしよう~。どれも美味しそうでときめいちゃう……! 涎がジュビジュバ」
目を輝かせてメニューを見ている私を見て、尊さんは呆れ半分、感心半分で溜め息をついた。
「……お前、俺といる時だってそんな高い声をあげないよな……。肉、すげぇな」
「肉は最高のスパダリですから」
「食っちまうの?」
「愛する人を食べて血肉にする……」
両手を合わせて片頬に添え、うっとりと目を閉じると、尊さんが「怖ぇって」と突っ込んで笑った。
そのあと、彼はメニューを指さして言う。
「この盛り合わせだと、羊も牛も食えて良さそうだな」
「ですね。……あぁ、牡蠣も気になる。ん? フルーツソースの掛かったブラータチーズ! しゅてき……!」
メニューを見ながら味を想像しているので、本当に涎が零れそうになって、思わず手で口元を押さえる。
ちなみにブラータチーズとは、ざっくりとモッツァレラチーズに似たタイプの物だ。
「夜に影響しない程度なら、なんでも食えよ」
「いい? 頼んでいい?」
「いいってば。でも野菜も食えよ」
「はーいシーザーサラダ」
私はまた流れるように即決する。
「デザートは?」
「んーと、これ! 大将、ホーキーポーキー一丁!」
ホーキーポーキーとは、ニュージーランドのアイスクリームのフレーバーで、バニラアイスにトフィー……、キャラメルやヌガーみたいな物が入ってるやつだ。
「……ホント、食べ物を前にすると、すげぇ元気だな」
尊さんもお肉の盛り合わせと牡蠣を頼み、チーズとサラダはシェアして食べる事にした。
パスタも美味しそうだったけど、また今度……。
オーダーし終わったあと、私はルンルンして両手を拳にしてトントンとテーブルを打つ。
「ガキか」
尊さんは呆れたように笑い、そんな私の様子を動画に撮っている。
「おっにく♪ おっにく♪ おっにくっは正義♪」
しばらくルンルンしていたけれど、尊さんが神妙な面持ちになったので、「ん?」と首を傾げる。
「……いや、今日は女子の憧れのハイジュエリーの店に入ったから、てっきりそっちでテンションぶち上げてくれると思ってたんだけど、肉の足元にも及ばない事が分かった」
コメント
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指輪とかドレスって明確にこのデザインが!って思ってないと悩むよね… だし、このデザインが良いと思っていても似合う似合わないがあるし難しい😓 やっぱり朱里ちゃんはお肉が一番🫢