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第2話 完全に、感動の再会だった
受領を終え、物資を抱えて同じ共用廊下を戻っていた時だった。
人型化準備区域の扉を覆っていた香の膜が、薄く光る。
扉が開き、記録板を抱えた職員が区域内から出てきた。身につけた職員衣は以前と少し変わっていたが、歩き方も、袖を肘まで捲る癖も変わっていない。
職員は二人の横を通り過ぎかけ、狼を見て勢いよく振り返った。
「……お前か!?」
狼も足を止めた。
「久しぶりです」
「本当にお前か! いやあ、見違えたな!」
職員は駆け寄り、狼の肩を二度叩いた。戦闘任務用の衣も、腰の武具も、落ち着いた立ち姿も、目に入るものすべてが嬉しいらしい。
「その節は、本当にお世話になりました」
「何年ぶりだ。会わない間にすっかり――いや、本当にな」
職員は言葉を探すように、もう一度狼を上から下まで見た。目が少し赤い。
「立派になったなあ」
それだけ繰り返す職員に、狼も硬さの取れた表情を返す。
「あなたたちのおかげです」
「よく頑張ったよ、お前は。最初はほんと、大変だったから」
懐かしむような、柔らかい声だった。狼も自然と頷く。
「ここでの生活は簡単ではなかったので」
「だよなあ。人型に慣れるだけでも一苦労で、俺も毎日どうしたもんかと」
職員がしみじみと目を細める。狼もつられて目を細める。
完全に、感動の再会だった。
「そういえばお前、遠吠えで揉めたことあったよな」
狼の口元が緩んだ。
「……ありましたね」
「夜中にやるもんだから、鳥由来の利用者が寝られないって怒鳴り込んできて」
「あの方は朝が早い方でしたので」
「お前も引かないんだよなあ。『これは挨拶だ』って」
「事実、挨拶でした」
「三日連続でやったろ」
「三日目で理解しました」
同行者が横で吹き出した。
「お前、怒鳴り込まれたのか」
「文化の違いだ」
狼も肩をすくめる。悪くない気分だった。この程度なら、笑い話として差し出せる。
職員はそんな狼を見上げ、しみじみと目を細めた。
「そのお前が、今じゃこんなに頼もしい男になってなあ……」
「……あなたたちに教えていただいたおかげです」
狼も、少し照れたように笑った。
「あと、寝台な」
「寝台?」
余韻は一瞬で終わった。
「お前、最初のうち寝台で寝なかっただろ。床の隅で丸くなってさ」
「……壁際の方が落ち着いたので」
「毎朝、寝台だけ綺麗なままなんだよ」
「はは。そんなこともありましたね」
狼は素直に笑った。同行者も笑っている。職員も嬉しそうだ。
和やかだった。
「衣も苦労したよなあ」
「……ええ」
笑いが、少しだけ小さくなる。
「最初、袖に足を通そうとして」
「あれは構造の問題です」
「二回やった」
「一回です」
「二回だ。記録にある」
「記録を出さないでください」
同行者が声を上げて笑った。狼も笑ったが、先ほどより一拍遅れた。
「まあ、皆そこは通る道だからな。誰でも最初はそうだ」
職員の声は優しかった。実際、優しかった。
「ただお前は真面目だったから、できないことがあると一人で抱え込んでな。手伝ってくれって言えないんだよ」
「……昔の話です」
「紐が外れたのに黙っててさ。俺の手のひらに、紐だけそっと乗せてくるんだ」
同行者が「うわ」と声を上げた。
「はは、俺も見たかったな」
「笑うな」
「だって、今のお前からじゃ想像できないだろ」
「可愛かったなあ」
職員も嬉しそうに重ねる。
「その話は、もういいでしょう」
狼が止めても、同行者はまだ笑っていた。
「――ああ、そうだ。厠な」
時間が止まった。
コメント
1件
いやあ、感動の再会かと思いきや、徐々に過去の恥ずかしいエピソードが掘り起こされていく流れが絶妙でしたね。「厠」の一言で時間が止まるラスト、思わず笑っちゃいました。狼の成長と、それでも変わらず気さくに接してくれる職員さんの関係性が温かくて、ほっこりする回でした。