「昭人とは『気が合いそうかも』と思ったから付き合ったし、まあまあ相性は良かったから九年続いたんだと思う。……でも『この人以外愛せない』っていうほど、昭人に夢中ではなかった」
昭人は難しい顔をして溜め息をつき、テーブルの下で脚を組む。
「そういう反応するけど、昭人だって私にベタ惚れじゃなかったでしょ。フッたって事は私に魅力を感じなくなったんだろうし、別れてすぐ新しい人に鞍替えできたなら、その程度の気持ちだったって事でしょ」
「いや……、それは……」
昭人はうろたえて言葉を濁し、落ち着かなく視線を泳がせる。
「言いたい事があるなら言えば? 多分、もう会う事はないと思うから、お互いスッキリしとこ?」
昭人は私を見て、怖い物でも見たような顔をしていた。
「……朱里って、前から物事をスパッと切り捨てるところがあったけど、今日は冴え渡ってるな」
「傷つけたならごめん。でも最初に言ったように、私は今、昭人とよりを戻したいって、まったく思ってないから、自分を良く見せようと思う気持ちもないんだよね」
左アッパーが効いたらしく、昭人はしばらく黙っていた。
やがて彼は、ポツポツと自分の気持ちの移り変わりを語り出した。
「……学生時代、朱里はいつも一人だったし、美人で気になっていたから『近づきたい』って思って声を掛けた。とっつきにくい雰囲気はあったけど意外と普通に話せて、『もっと知りたい』と思って沢山デートに誘った」
やっぱり外見ありきなのか。
第一印象の半分は外見で決まるっていうから、ある意味仕方ない事なのかな。
「朱里はいつも澄ましてるけど、笑ったら可愛い。良さを見つけたあと、もっと好きになってほしいと思って色々頑張ったけど……、お前はいつまでも心の中にラインを引いたままだった」
「そんなラインあったっけ」
多分、ずっと〝忍〟を気にしていたからだと思うけど、その辺りを昭人に言うつもりはない。
「朱里はいつも〝クールビューティー〟だったよ。笑い転げる事もないし、怒りや悲しみも激しく表さない。家庭の悩みは持っていたけど、俺に『こうしてほしい』と求める事はなかった。『距離感の気持ち悪い兄貴を一発殴ってくれ』って言ってくれたら、俺だって朱里のために動いたのに」
あー……。私、そんなふうに思わせてたのか。
というか亮平が昭人に殴られなくて良かった。
「確かにそういうところはあったけど、……泣いても笑っても何かが変わるわけじゃないのは分かってた。私はある意味、色んなものを諦めてたんだよ」
言いながら、昔の私は〝忍〟に救われたとはいえ、今ほど幸せルンルンで生きていなかったなと再度思った。
幸せを噛み締めている今だからこそ、昔の自分がいかに根暗で自分にも周りにも期待していなかったのかを思い知った。
昭人は私を少しの間見つめていたけれど、やがてボソッと言う。
「だから俺は『何をやっても反応の少ない朱里を夢中にさせて、俺に依存させたい』って思ってたんだ」
「おお……」
思わず声を出してしまったので、昭人はばつが悪そうな顔をする。
「朱里は美人だし胸が大きいから、男子の間でもひそかに人気があった。だから俺はいつも他の奴に盗られないか不安で、繋ぎ止めるのに必死だったんだ」
さっきも思ったけど、私に価値を感じる部分がまずそこっていうの、結構キツイな。
(尊さんなら、もっと内面の事を言ってくれるのに)
つい尊さんと比べてしまい、私は昭人に気取られないように静かに溜め息をつく。
(別れたから嫌いになる……ってわけじゃないけど、『こんな人と付き合ってたんだ』って思い知るのしんどいな)
少なくとも付き合っていた当時は〝大切な彼氏〟と思っていたし、フラれたあとはショックでヤバい状態にもなった。
なのに今はカエル化現象っていうのか、昭人に何も魅力を感じないし、彼が言い訳を重ねるほど心が冷えていくのを感じる。
そういう自分を「やだな」と感じるいっぽうで、尊さんが『DV彼氏と付き合っていて、やっと目が覚めた状態』と言っていたのも思い出す。
(何はともあれ、付き合っていた当時のフィルターは完全に外れたって事だよな……)
私が特に表情を変えずに話を聞いていたからか、昭人はなおも焦ったように言葉を続ける。
「……必死になったらダサいって思っていたから、バカップルみたいな事は言わなかったし、しなかった。朱里もベタベタした関係は好きじゃなさそうだし」
そうでもない。
私は今、尊さんといるとバカップルみたいな反応をするし、彼とならめちゃくちゃベタベタしたい。
コメント
3件
いやいや....🤭ミコティとなら、しゅきぴ。♡のバカップルにもなれるよー👩❤️👨💖
亮平よかったねー😅亮平よりもヤバキモに殴られなくて😆 昭人〜相手によってバカップルにもなんにでも慣れるだよ〜知らないの?(๑¯ ³¯๑)
フフフ🤭ミコアカ💕バカップル(*´v`)いいよね(*´ω`*)💕