ーーー某年・帝国王宮ーーー
-エオーネ帝国皇帝・フェデリーコ-
「オギァァ!オギャァァ!」
1人の男がこの世に爆誕した。
名はフェデリーコ。父ダニエーレ、母グレータの間に生まれた。
-ダニエーレ-
「良かった、本当によく頑張ったよグレータ」
-グレータ-
「いいえ。あなたのおかげよ。」
-助産師-
「おめでとうございます」
-ダニエーレ-
「これで、なんとか帝国も長く続けられそうだな…。ひとまず安心だ。」
ーーー7年後ーーー
-フェデリーコ-
「パパぁ、ここどこ〜?」
-ダニエーレ-
「あ〜、ここはねぇ〜
フェデリーコを良い子にするために10年かけて作った”研究所”だよ。
-フェデリーコ-
「けんきゅうじょ?なにそれ」
-ダニエーレ-
「もう少し大人になれば分かるさ」
僕は人間として扱われなかった。
生まれた頃から僕の人権なんてない。
ただ、お父様の言うことに従うだけのロボット。そうしてここまで過ごしてきた。
恋人も遊びも自分の時間も
全てお父様が管理している。僕はそれでも構わない。お父様がいなければ僕は死ぬ。
数年後、妹が生まれた。名前はサムエル。サムエルも僕と一緒で、ただの人形のように扱われている。僕は感情がなんなのか知らない。子供の頃から人の死を目の当たりにして、人が死ぬことに悲しいとも感じなくなってしまった。僕は気づいた。いや、気づいてしまった。
お父様は僕をこき使ってる悪者
お父様は僕がいなければ何もできない無能
この時
僕の人格は変わったような気がした。
-ダニエーレ-
「お前の使命は
地下神殿に眠るアルカンジェロを見守ることと、この島の平和の維持を保つことだ」
-フェデリーコ-
「はい、分かってます。」
-ダニエーレ-
「それと」
-ダニエーレ-
「君の結婚相手が決まったよ。名前はベラ。
挨拶しなさい」
-フェデリーコ-
「よろしく」
-ベラ-
「はい、よろしくおねがいします」
-ダニエーレ-
「しばらく2人で話しててくれ
少し出かけてくるよ」
2人きりになると、僕はベラに質問をいくつか投げかけた。
-フェデリーコ-
「ねぇ」
-ベラ-
「はい?」
-フェデリーコ-
「君は、人が死んだ時
どう思う?」
-ベラ-
「そうですねぇ…それはもちろん、悲しいですよ」
-フェデリーコ-
「そうか
では、人を雑に扱う人は?」
-ベラ-
「んー…どうでしょう」
-フェデリーコ-
「答えよ」
-ベラ-
「嫌…です」
-フェデリーコ-
「そうか」
フェデリーコはフカフカの椅子から立ち、窓の外の景色を眺めた。外は相変わらずいつも通り賑やかだった。
-フェデリーコ-
「私はお父様によって生み出されたロボット
私は君と共にこの平和を維持したいと思う」
-ベラ-
「平和…私たちは平和の世界しか知りませんから、暴力の世界を知ってみたいものですね」
-フェデリーコ-
「暴力をしずめて平和を維持するのが私の役目だ。」
-ベラ-
「えぇ。私もできる限り協力します」
ーーードルミーレ地方・東ーーー
カキィィン!
-エルゼオ-
「中々悪くない太刀筋じゃのう
じゃが
このままじゃあ貴様
死んでしまうぞ?」
-セレーノ-
「それはどうかなぁ」
セレーノは息を荒くしながらひたすら剣を振るった。今まで戦ってきた者とは段違いで強いやつと分かっていながらも、自ら戦うことを選んでしまったことに後悔した。右に回ってきたエルゼオの剣を躱し、剣を振りかえす。
-エルゼオ-
「どうした
剣に身体が振り回されておるぞ
貴様
子供の頃に稽古をしていたはずじゃろう
まさかこの程度とは、驚いたわい」
-セレーノ-
「くっ…」
-エルゼオ-
「貴様はここまでじゃ」
エルゼオは一直線にセレーノの胸目掛けて襲いかかる。その瞬間
ギギィィッ!
-エルゼオ-
「…!?」
-セレーノ-
「!?」
-???-
「ガキの遊びに付き合うとは
珍しいな
エルゼオよ」
-エルゼオ-
「貴様…!!」
-???-
「このガキは俺がいただく」
-セレーノ-
「お前は…この前の…!」
-???-
「話はまた後でにしろ
今はともかく安全な場所に送ってやる」
マヌエルに殺されかけたときに助けに来てくれたあの謎の男がまた助けに来た。
“話はまた後で”とか言って、またどこかへ消えていく。
ーーー帝国王宮本部ーーー
-フェデリーコ-
「…」
フェデリーコは母親の遺体を前に呆然と立ち尽くしていた。
-フェデリーコ-
「なぜ死んでいる
誰が殺した」
ガチャッ
-ダニエーレ-
「どうした、フェデリーコ」
-フェデリーコ-
「お母様が お母様が 死んでおられます」
-ダニエーレ-
「な、なに!?」
グレータ(母)の胸には、包丁が突き刺さっていた。泡を吹いていて、見るに耐えない状態にまでなっている。ダニエーレは絶望して座り込み、泣き崩れた。そんな父を見て僕は、なぜ泣いているのか不思議だった。
これが洗脳の恐怖
僕は異常だ
大切な人を失っても
悲しいと思えない僕の心は
異常だ
翌日、貴族内で会議が行われた。
グレータ王妃殺害事件として、島全体にも情報が行き渡った。このニュースは島全体に大きな影響を与えた。すぐさま犯人の特定活動が行われ、捜査も開始された。
さらに、グレータ王妃殺害事件によってネーヴェ内戦の状況が悪化し、再びマルティは血と涙に染まった。
ーーー帝国王宮本部ーーー
-幹部-
「ダニエーレ様、伝令です!」
-ダニエーレ-
「今度はなんだぁ!」
-幹部-
「ネーヴェ内戦の偵察に騎兵を80人ほど出兵させたのですが…全員、”謎の飛行物体を見た”と口を揃えていっております!」
-ダニエーレ-
「謎の飛行物体とはなんだ」
-幹部-
「それが…まるで鳥のようで、ブゥゥンと大きな音を立てながら、両翼から謎の小さい粒を街に向けて放出する…と」
-ダニエーレ-
「街はどうなった」
-幹部-
「一瞬で火の海と化してしまったようです…
とりあえず、ネーヴェ内戦に関係する団体は、我々には敵わない強力な兵器を持っているということが確信しました」
-ダニエーレ-
「そうか…帝国もついに滅ぶのか…」
ーーーネーヴェ地方西部ーーー
-アンドレア-
「あの男…知ってるのか?」
-セレーノ-
「うん、前にも助けられたことがある」
-アンドレア-
「いいやつってことでいい?」
-セレーノ-
「いや、あいつの目的がわからない限り、いいやつとは言い切れない」
-サムエル-
「いいやつそうではありますけどね」
-セレーノ-
「うん」
ウゥゥゥゥゥゥ
-アンドレア-
「な、なんだ!?」
-セレーノ-
「警報…?聞き馴染みのない音だな…」
-サムエル-
「伏せましょう」
不気味な警報音が響き渡った。次の瞬間
ドルルルルルルルルルズゴォォォン!!
謎の鳥のような形をした鉄の塊がこちらを目掛けてなにかを放ってくる。2発ほど、セレーノの下腹部に命中した。まるで自由に飛び回る鳶のように、何度も往復して街を徹底的に潰していくその姿は、まるで悪魔だった。
-セレーノ-
「な、なんだこれ…痛い…」
さっきまで立派に建っていた大きい木製建築の家も、跡形もなく消えていく。周りはまさに地獄そのものだった。セレーノは逃げ道を探すために必死に周りを見渡す。火の煙のせいで酷く咽せる。服の袖に口を当てて移動し、なんとか出口を見つけることができた。
-セレーノ-
「あれが…内戦…」
-アンドレア-
「帝国軍は何してるんだよ!」
-サムエル-
「あいつらはきっと楽しみながらこの内戦を眺めているんでしょうきっと」
-セレーノ-
「とりあえず、早くここから出るぞ」
3人は海沿いまでたどり着いた。すると、あの謎の男が大岩の上で座っていた。
-セレーノ-
「おーい!」
-???-
「おう、君たちか」
ここにくると思ってたよ」
-セレーノ-
「こんなところで、何してるんだよ」
-???-
「ちょうどいいとこにきた
だいぶ申し遅れたが、俺はクローチェ
君たちと同じ”国家転覆”を企んでる者さ」
-セレーノ-
「だから毎度毎度助けてくれたのか、あんた」
-アンドレア-
「結局いいやつやんけお前!」
-サムエル-
「ですね笑笑」
-クローチェ-
「そう言ってくれると嬉しいよ
ちなみに、今世界を揺るがせている”グレータ王妃殺害事件”の犯人は俺さ
パンテオンの書はグレータが持ってるって思ったんだけど、そうではなかったらしい」
-アンドレア-
「じゃああんた、やばいじゃん!」
-クローチェ-
「確かにそうかもしれないが
もう手はうってある。」
-セレーノ-
「というと?」
-クローチェ-
「内戦を引き起こすようにわざと殺しやすい王妃を殺したのさ
本当はダニエーレかフェデリーコも殺すつもりだったんだけど
やはりあの2人は隙がないから少し手間がかかる。今帝国は、内戦にしか目がいっていないからその内に地下神殿に潜り込む。そしてある程度偵察したら、パンテオンの書を持っているであろうフェデリーコを絞める。」
-セレーノ-
「なるほど…かなり作戦を練っているんだな。ここまで全て1人でやってきたのか?」
-クローチェ-
「いいや
あと他にもう1人いるんだけど
今はデゼルトとドルミーレの国境で帝国の動きを観察してもらってるから
まあ、明日にでも紹介する」
-クローチェ-
「それに
協力してくれるなら、君たちに魔力を与えてあげてもいいだろう」
-アンドレア-
「おお、まじで?」
-クローチェ-
「まず
オンブラの力といって
3つ魔力が残っている
1つ目は
“死者蘇生”
2つ目は
トラスパレンテ
3つ目は
ルナー」
-セレーノ-
「死者蘇生…」
-クローチェ-
「選ぶには、よく考えて慎重に選んでくれ
ちなみに、アルカンジェロを起こすために必要な力は3つ目のルナーが必要さ
トレスパレンテは透明化ができる。
偵察においてとても必要とされる力だ」
-アンドレア-
「透明化!?イヒヒィ」
-セレーノ-
「変なこと考えてんなこいつ絶対」
-サムエル-
「あはは〜^_^」
-セレーノ-
「俺は…ルナーの力でアルカンジェロを起こす」
-クローチェ-
「2人、いいかい?」
-サムエル-
「はい」
-アンドレア-
「うん」
-アンドレア-
「俺トラスパレンテで」
-セレーノ-
「ダメ(即答)」
-クローチェ-
「じゃあ、サムエルでいいね!」
-サムエル-
「はい^_^」
-アンドレア-
「おぃぃ!じゃあ俺は…?」
-クローチェ-
「死者蘇生が残ってるよ」
-アンドレア-
「…ってだれも蘇生したいやつなんかいねぇよぉぉ!」
アンドレアのおかげで、その場の空気が和んだ気がした。向こうでは
血と涙が流れているのに
笑っていられるのは
幸せなことなのだろうか
つづく
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!