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今回の話し長くて楽しかった! 最高すぎます...! 続きが気になるo(^▽^)o
わぁ〜っ!(≧▽≦)ありがとうございます!本当に今回マジでボツになってそうで怖いんだけど、気に入ってもらえて良かったっ!!
すごい……好きすぎます!ほんとに尊敬します!続き待ってます!
こんばんわ〜っ!
今回ちょっと探偵社側(国木田さん)の視点も入れたから長いかも!
まぁそっちの方が読み応え(?)あるよね!
それじゃあLet’s Go!
↓↓↓
あの“おかしな夢”を見なくなってから二週間が経った。
夢は見なくなった。抑々眠る事がなくなったのである。
それでも“耳鳴り”は止まず、常に私の頭には針が刺さるような痛み───頭痛が起こり、何時も私を苦しめた。
頭痛を鎮める為に、一日に何錠も頭痛薬を呑むのが習慣になってしまっている。
それだけではない。
「っ、は…はぁっ……はぁ…」
ザシュッ!
私の自傷は治まらず、それどころか回数が多くなっていった。
──────依存。
──────罪悪。
***
私には「空腹」という感覚が判らず、食事とる時は何時も時計を見て食べていた。
然し自傷行為が続き、それ以外は倦怠感で布団の上に居る為、二週間の間、私は食事を片手の指で数えられる程度しかとっていなかった。
それによって私の躰は痩せ細り、より一層布団の上から起き上がれなくなっていた。
仕事は五時間近くの遅刻。無断欠席。
よく国木田君が電話で怒鳴ってきた事もあった。
そういう日は仕事に行くが、取り繕う事に疲れ、日に日に道化の仮面の重さに耐えられなくなっていた。
──────辛い。
正に、私の人生は“破滅”に向かっていた。
***
「太宰っ!」
後から荒い足音共に国木田くんの声がする。
ゆっくりと振り返る。
「やァ、国木田君」
「其奴等は………」国木田君はやや落ち着きがない声で、私の後ろに居る気を失った男───依頼内容である密輸業者を見て云った。
「気を失ってるだけさ、後は軍警に引き取らせるだけ」外套のポケットに手を収めながら国木田君とすれ違う。
「太宰…」
何処か震えた声で国木田君は私の名を呼んだ。「なに?」と後ろへ視線を移す。
「俺はお前の相棒だ。仕事仲間だ。だからお前に云われた通り、“密輸犯が来る場所”へと向った。だが何故だ?其処には誰も来なかった…………如何いう事なんだ太宰」
「いや?密輸犯はちゃんと国木田君の所に行ったよ」
「何?」
「でも敵は国木田君が居る事に気付き、別のルートの逃げ道を利用した。其処を私が抑えたって云う訳」
片手を掲げながら国木田くんに云う。
「それならそうと云え。貴様は日頃から要点が抜けてる所はあるが今回は違う。何故俺まで騙す必要があった?」
私は国木田君の質問に少し黙った。
そして一呼吸おいて。
「別に?そうした方が作戦の成功率が上がっただけ」
「なっ……」
「何事も合理的にだよ国木田君?味方を最適な位置に配置して、敵を陥れる。それで十分だ」
国木田君の方から歯を食いしばる音が聞こえる。其の瞬間。
───────ガシッ!
少し荒く、国木田君に胸倉を掴まれた。
「成功率だと…?確かにお前は頭が切れる。だがもしお前の予測が少しでも外れて、何かあったら如何していた!?」
「……………何が云いたいの?」
「少しは仲間を信頼しろっ!!」
信頼…?
信頼ねぇ……。
そっか。
「ソレができないんだから仕方ないでしょ」
「は?」国木田君が声をもらし、目を丸くする。
私の胸倉を掴む国木田君の手が、少し緩んだ。国木田君から離れる。
「悪いけど、少し体調悪いから早退するね」
私はそう云い残して、其の場を後にした。
「………………太宰?」
***
「はっ……はぁっ…はぁ…!」
気が付くと左手には「切った」痕。右手には血だらけのカッタァ。
私は深い溜め息をつく。
「…………」左手で布団のシーツを握りしめた。
『戒めをするくらいなら自傷なんてしなきゃ佳いだろう?』
“耳鳴り”がそう囁いた。
「……煩い」
───ギュウゥッ
「っ…痛いよ……」
肺腑から絞り出した声は震えていた。
泣いている子供の声。
誰にも届かない儚い言葉。
嗚呼……誰も“助けてくれない”。
目を丸くした。
「“助けてくれない”……?」
私は助けを望んでいるのか?人に?
「───ははっ…」乾いた笑い声を響かせる。「莫迦みたいだ……」
布団の上に、私はうずくまった。
睡眠をとっていない所為か、頭がおかしくなったのだろう。
今の自分は醜い。
誰にも云えない。頼れない。
『違うよ。信頼してないから頼れないんだ』
再び“耳鳴り”が私に毒を注す。
「違う。違う。私が──────」
私は言葉を切らした。
そして全てを諦めたかのような目で、右手に持つカッタァを見た。
「……そうなのかなぁ」
何処かで、“オレ”が笑みを浮かべた。
腕に力を入れて躰を起こす。
「……………」
傷だらけの左手を見た。カッタァを近付ける。
この儘深く切ったら、死ねるかなぁ?
またもや莫迦な考えが、私の脳裏を過ぎった。カッタァを強く握り締める。
そして─────カシャンッ!!
何かの音が室内に響いた。「切った」音ではない。それは、カッタァが畳の上に落ちた音だった。
私は目を見開く。
何故、“カッタァが落ちた”……?
「____…」
右手に視線を移す。右手は酷く震えていた。
この時私は理解した。
心の何処かで私は“死を拒んでいる”のだ。
“死に恐怖を感じている”のだ。
「…く……っ、う……ぁ…あ゛………」
体温程の温度に近い雫が瞳から溢れ出て、シーツにこぼれ落ち染み込む。
あぁ……最悪だ。
正に地獄と化した。
私は、私は────自死すらできない躰になってしまった。
***
「太宰さんの様子がおかしい?」
敦が目を丸くしながら云う。
「嗚呼」
「何時も通りに見えるんですけど………あ、でも、最近の太宰さん…何かフラフラしてますよね」
「お前もそう思っていたか………」俺は先程の依頼についての報告書を書きながら云った。
そう。最近の太宰は少しおかしかった。
以前より遅刻する時間が伸び、かつ無断欠席も多くなった。
敦が云った通り最近は足取りが何処かふらついていて、少し痩せたようにも思える。元々色白だったが、顔色が悪そうで、目元には隈があった。
一度、食事と睡眠を取っているのか聞こうとしても、太宰はまるで何事も無いように気の抜けた顔でサボったり、俺をからかってくる。
正に“何時も通り”だ。
「それで、その太宰さんは……」
「体調不良で早退すると云っていた。サボる為に云ったのか、それとも本当に体調が悪いのか……」
「太宰さん…………大丈夫でしょうか…?」
「生命力がゴキブリ並の彼奴だ。サボりだと思うが、明日起こしに行くか……」
俺はそう云って、無断欠席されては困るしな、と付け加える。
「僕も手伝います!」
敦が元気よく手を上げながら云った。
「頼んだぞ」
「はい…!」
「……………」
────仕方ないでしょ。
あれは一体………。
エンターキーを押す。報告書を提出した。
溜め息混じりの息を吐きながら、パソコンを閉じる。
彼奴は俺達を、信頼しているのだろうか。
***
甲高い風の鳴き声が響く。
夜の冷たさが、肌を通して伝わった。
────カツンッ
靴音が響く。私は屋上の隅まで歩いて行った。あと一歩進めば堕ちる所まで。
「…………」
使われなくなったビルの廃墟の屋上に、私は居た。
あと一歩。あと一歩進めば……。
心の中でそう呟く。
然し一向に躰が動かなかった。
左手を握り締める。包帯の下で傷口が開くのが判った。ジワッと包帯に血が滲む。
「……はぁ」
溜め息をついて、私は重心を後ろに向けた。
────ドサッ!
地面に寝転ぶ。
瞳に映ったのは満天の星空だった。誰であろうと「綺麗」と感じるだろう。
「私の心中など気にしない、か……」
かすれた声を絞り出すりゆっくりと瞼を閉じた。
入水。
自絞。
服薬。
投身。
様々な自殺をしようとした。だが全てシュッパイでは無く、する前の未遂で終わってしまった。
シュッパイの未遂ではない。
できなかったのである。
「…なん、で……?」
その言葉は夜の静けさに呑み込まれた。
ふと、私は懐から携帯を取り出す。特に何も意味はなかった。
強いて云えば、“この胸にある虚無感を私は埋めようとした”のかもしれない。
携帯を開く。ピッと釦を押した。
───プルルル
私は携帯を耳元に近付け、電子音が途切れるのを待ち続けた。
ぶつっと電子音が途切れる。代わりに声が聞こえてきた。
「やァ、中也」
『よぉって云いてェが、何で手前俺の電話番号知ってンだよ』
「君について知らない事が私に在ったかい?」
『あー…ねェな、俺の家の合鍵何故か持ってる程だし』
「ピッキングよりマシだろう?」
『マシなんてねェわ、何方にしろ犯罪だろボケ』
「それ君が云う?」
微笑しながら私が中也に聞くと、中也は少し黙り込んだ。
何か、ほわほわしたものを感じる。
温かくて優しい感覚。
『ンで?何の用だ太宰?』
その言葉に、私は星空に視線を移した。ゆっくりと瞼を閉じて、そして開く。
「別に?暇だからかけただけ」
『はぁ……?』
「でもまぁ、強いて云えば…」
息を吸い、吐く。
私は云った。
「中也。私ね、自死ができなくなったんだ」
『──────は?』中也が声をもらす。
沈黙が生じた。
『なァ、太宰』
「うん?」
『エイプリルフールは過ぎた。寝言は寝て云え』
「事実云ったのだけど、中也酷くない?」
『ンじゃあ、虚言だなそりゃあ。自殺嗜好の手前が自死できねェなんて雪が降るレベルの迷言だな』
「迷言ってねぇ、君……云っとくけど最近は本当に自死ができないのだよ?」
『そんな悩みの種持ってンの手前だけだわ。もう切るぞ』
中也の声が遠くなる。
「えっ……」この時、少し久しぶりに“焦り”という感覚に陥った。
「一寸!話、最後まで聞いてよ…!」
『あ”ぁ!?こちとら仕事中なんだわ!!』
「佳いじゃないか一寸くらい」
『手前なァ………』中也が溜め息混じりの声で云う。
それでも中也は電話を切らなかった。
私はもう一度夜空に視線を移す。
「私、信頼っていうのが判らなくなっちゃったんだ」
『は?』
「信頼する。信頼されるって云う感覚が、何一つ判らなくなった。判ろうとしても何時も“耳鳴り”が邪魔してくる」
「酷いよね。でも私、本当は信頼してなかったのかなぁ……皆のこと」
中也は静かに私の話を聞いていた。
『太宰…手前に一つ聞きたい事がある』
「なに?」
『____…』少し間を空けた後、中也は云った。『俺の事は信頼してるか?』
私を包み込んでいた虚無感が、唐突に晴れた。
「如何だろう……判らない。でも………」
私は小さく微笑しながら云った。
「でも、何故か君と居る時は───」
突如、“耳鳴り”が私を襲った。
「ゔぁッ!!」
視界が歪み、頭痛と共に吐き気が襲いかかる。モスキート音のような甲高い音が、頭が割れそうな程に脳内に響いた。
『太宰?!オイ!大丈夫か…!!?』
「あ゛……ぐぅ、っ…ゔ……ぁ」
頭がおかしくなる。狂っていく。
これで死ぬのではないかと思う程、その苦痛は辛いものだった。
「………ゔぅ…ぐ、ぁ……」
『太宰!返事しろっ!!』
中也の声が遠のいていく。
「…っ、あ゛ぁ……ちゅゔ、や…ぁ……」
視界がぼやけて、頬を何かが濡らした。
たす、けて………。
──────太宰っ!!!
【この虚無感を埋めてくれる君を、私はまだ信頼している。】