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────人間、失格。

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────人間、失格。

5 - 第5話 この虚無感を埋めてくれる君を────

♥

808

2023年11月06日

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こんばんわ〜っ!

今回ちょっと探偵社側(国木田さん)の視点も入れたから長いかも!

まぁそっちの方が読み応え(?)あるよね!

それじゃあLet’s Go!

↓↓↓



























あの“おかしな夢”を見なくなってから二週間が経った。

夢は見なくなった。抑々眠る事がなくなったのである。

それでも“耳鳴り”は止まず、常に私の頭には針が刺さるような痛み───頭痛が起こり、何時も私を苦しめた。

頭痛を鎮める為に、一日に何錠も頭痛薬を呑むのが習慣になってしまっている。

それだけではない。

「っ、は…はぁっ……はぁ…」

ザシュッ!

私の自傷は治まらず、それどころか回数が多くなっていった。

──────依存。

──────罪悪。




***

私には「空腹」という感覚が判らず、食事とる時は何時も時計を見て食べていた。

然し自傷行為が続き、それ以外は倦怠感で布団の上に居る為、二週間の間、私は食事を片手の指で数えられる程度しかとっていなかった。

それによって私の躰は痩せ細り、より一層布団の上から起き上がれなくなっていた。

仕事は五時間近くの遅刻。無断欠席。

よく国木田君が電話で怒鳴ってきた事もあった。

そういう日は仕事に行くが、取り繕う事に疲れ、日に日に道化の仮面の重さに耐えられなくなっていた。

──────辛い。



正に、私の人生は“破滅”に向かっていた。

































***

「太宰っ!」

後から荒い足音共に国木田くんの声がする。

ゆっくりと振り返る。

「やァ、国木田君」

「其奴等は………」国木田君はやや落ち着きがない声で、私の後ろに居る気を失った男───依頼内容である密輸業者を見て云った。

「気を失ってるだけさ、後は軍警に引き取らせるだけ」外套のポケットに手を収めながら国木田君とすれ違う。

「太宰…」

何処か震えた声で国木田君は私の名を呼んだ。「なに?」と後ろへ視線を移す。

「俺はお前の相棒だ。仕事仲間だ。だからお前に云われた通り、“密輸犯が来る場所”へと向った。だが何故だ?其処には誰も来なかった…………如何いう事なんだ太宰」

「いや?密輸犯はちゃんと国木田君の所に行ったよ」

「何?」

「でも敵は国木田君が居る事に気付き、別のルートの逃げ道を利用した。其処を私が抑えたって云う訳」

片手を掲げながら国木田くんに云う。

「それならそうと云え。貴様は日頃から要点が抜けてる所はあるが今回は違う。何故俺まで騙す必要があった?」

私は国木田君の質問に少し黙った。

そして一呼吸おいて。

「別に?そうした方が作戦の成功率が上がっただけ」

「なっ……」

「何事も合理的にだよ国木田君?味方を最適な位置に配置して、敵を陥れる。それで十分だ」

国木田君の方から歯を食いしばる音が聞こえる。其の瞬間。

───────ガシッ!

少し荒く、国木田君に胸倉を掴まれた。

「成功率だと…?確かにお前は頭が切れる。だがもしお前の予測が少しでも外れて、何かあったら如何していた!?」

「……………何が云いたいの?」

「少しは仲間を信頼しろっ!!」

信頼…?

信頼ねぇ……。

そっか。

「ソレができないんだから仕方ないでしょ」

「は?」国木田君が声をもらし、目を丸くする。

私の胸倉を掴む国木田君の手が、少し緩んだ。国木田君から離れる。

「悪いけど、少し体調悪いから早退するね」

私はそう云い残して、其の場を後にした。



「………………太宰?」























***

「はっ……はぁっ…はぁ…!」

気が付くと左手には「切った」痕。右手には血だらけのカッタァ。

私は深い溜め息をつく。

「…………」左手で布団のシーツを握りしめた。

『戒めをするくらいなら自傷なんてしなきゃ佳いだろう?』

“耳鳴り”がそう囁いた。

「……煩い」

───ギュウゥッ

「っ…痛いよ……」

肺腑から絞り出した声は震えていた。

泣いている子供の声。

誰にも届かない儚い言葉。

嗚呼……誰も“助けてくれない”。

目を丸くした。

「“助けてくれない”……?」

私は助けを望んでいるのか?人に?

「───ははっ…」乾いた笑い声を響かせる。「莫迦みたいだ……」

布団の上に、私はうずくまった。

睡眠をとっていない所為か、頭がおかしくなったのだろう。

今の自分は醜い。

誰にも云えない。頼れない。

『違うよ。信頼してないから頼れないんだ』

再び“耳鳴り”が私に毒を注す。

「違う。違う。私が──────」

私は言葉を切らした。

そして全てを諦めたかのような目で、右手に持つカッタァを見た。

「……そうなのかなぁ」

何処かで、“オレ”が笑みを浮かべた。

腕に力を入れて躰を起こす。

「……………」

傷だらけの左手を見た。カッタァを近付ける。

この儘深く切ったら、死ねるかなぁ?

またもや莫迦な考えが、私の脳裏を過ぎった。カッタァを強く握り締める。

そして─────カシャンッ!!

何かの音が室内に響いた。「切った」音ではない。それは、カッタァが畳の上に落ちた音だった。

私は目を見開く。

何故、“カッタァが落ちた”……?

「____…」

右手に視線を移す。右手は酷く震えていた。

この時私は理解した。

心の何処かで私は“死を拒んでいる”のだ。

“死に恐怖を感じている”のだ。

「…く……っ、う……ぁ…あ゛………」

体温程の温度に近い雫が瞳から溢れ出て、シーツにこぼれ落ち染み込む。

あぁ……最悪だ。

正に地獄と化した。


私は、私は────自死すらできない躰になってしまった。





























***

「太宰さんの様子がおかしい?」

敦が目を丸くしながら云う。

「嗚呼」

「何時も通りに見えるんですけど………あ、でも、最近の太宰さん…何かフラフラしてますよね」

「お前もそう思っていたか………」俺は先程の依頼についての報告書を書きながら云った。

そう。最近の太宰は少しおかしかった。

以前より遅刻する時間が伸び、かつ無断欠席も多くなった。

敦が云った通り最近は足取りが何処かふらついていて、少し痩せたようにも思える。元々色白だったが、顔色が悪そうで、目元には隈があった。

一度、食事と睡眠を取っているのか聞こうとしても、太宰はまるで何事も無いように気の抜けた顔でサボったり、俺をからかってくる。

正に“何時も通り”だ。

「それで、その太宰さんは……」

「体調不良で早退すると云っていた。サボる為に云ったのか、それとも本当に体調が悪いのか……」

「太宰さん…………大丈夫でしょうか…?」

「生命力がゴキブリ並の彼奴だ。サボりだと思うが、明日起こしに行くか……」

俺はそう云って、無断欠席されては困るしな、と付け加える。

「僕も手伝います!」

敦が元気よく手を上げながら云った。

「頼んだぞ」

「はい…!」






「……………」

────仕方ないでしょ。

あれは一体………。

エンターキーを押す。報告書を提出した。

溜め息混じりの息を吐きながら、パソコンを閉じる。

彼奴は俺達を、信頼しているのだろうか。





























***

甲高い風の鳴き声が響く。

夜の冷たさが、肌を通して伝わった。

────カツンッ

靴音が響く。私は屋上の隅まで歩いて行った。あと一歩進めば堕ちる所まで。

「…………」

使われなくなったビルの廃墟の屋上に、私は居た。

あと一歩。あと一歩進めば……。

心の中でそう呟く。

然し一向に躰が動かなかった。

左手を握り締める。包帯の下で傷口が開くのが判った。ジワッと包帯に血が滲む。

「……はぁ」

溜め息をついて、私は重心を後ろに向けた。

────ドサッ!

地面に寝転ぶ。

瞳に映ったのは満天の星空だった。誰であろうと「綺麗」と感じるだろう。

「私の心中など気にしない、か……」

かすれた声を絞り出すりゆっくりと瞼を閉じた。

入水。

自絞。

服薬。

投身。

様々な自殺をしようとした。だが全てシュッパイでは無く、する前の未遂で終わってしまった。

シュッパイの未遂ではない。

できなかったのである。

「…なん、で……?」

その言葉は夜の静けさに呑み込まれた。


ふと、私は懐から携帯を取り出す。特に何も意味はなかった。

強いて云えば、“この胸にある虚無感を私は埋めようとした”のかもしれない。

携帯を開く。ピッと釦を押した。

───プルルル

私は携帯を耳元に近付け、電子音が途切れるのを待ち続けた。

ぶつっと電子音が途切れる。代わりに声が聞こえてきた。

「やァ、中也」

『よぉって云いてェが、何で手前俺の電話番号知ってンだよ』

「君について知らない事が私に在ったかい?」

『あー…ねェな、俺の家の合鍵何故か持ってる程だし』

「ピッキングよりマシだろう?」

『マシなんてねェわ、何方にしろ犯罪だろボケ』

「それ君が云う?」

微笑しながら私が中也に聞くと、中也は少し黙り込んだ。

何か、ほわほわしたものを感じる。

温かくて優しい感覚。

『ンで?何の用だ太宰?』

その言葉に、私は星空に視線を移した。ゆっくりと瞼を閉じて、そして開く。

「別に?暇だからかけただけ」

『はぁ……?』

「でもまぁ、強いて云えば…」

息を吸い、吐く。

私は云った。

「中也。私ね、自死ができなくなったんだ」

『──────は?』中也が声をもらす。

沈黙が生じた。

『なァ、太宰』

「うん?」

『エイプリルフールは過ぎた。寝言は寝て云え』

「事実云ったのだけど、中也酷くない?」

『ンじゃあ、虚言だなそりゃあ。自殺嗜好の手前が自死できねェなんて雪が降るレベルの迷言だな』

「迷言ってねぇ、君……云っとくけど最近は本当に自死ができないのだよ?」

『そんな悩みの種持ってンの手前だけだわ。もう切るぞ』

中也の声が遠くなる。

「えっ……」この時、少し久しぶりに“焦り”という感覚に陥った。

「一寸!話、最後まで聞いてよ…!」

『あ”ぁ!?こちとら仕事中なんだわ!!』

「佳いじゃないか一寸くらい」

『手前なァ………』中也が溜め息混じりの声で云う。

それでも中也は電話を切らなかった。

私はもう一度夜空に視線を移す。

「私、信頼っていうのが判らなくなっちゃったんだ」

『は?』

「信頼する。信頼されるって云う感覚が、何一つ判らなくなった。判ろうとしても何時も“耳鳴り”が邪魔してくる」

「酷いよね。でも私、本当は信頼してなかったのかなぁ……皆のこと」

中也は静かに私の話を聞いていた。

『太宰…手前に一つ聞きたい事がある』

「なに?」

『____…』少し間を空けた後、中也は云った。『俺の事は信頼してるか?』

私を包み込んでいた虚無感が、唐突に晴れた。

「如何だろう……判らない。でも………」

私は小さく微笑しながら云った。

「でも、何故か君と居る時は───」

突如、“耳鳴り”が私を襲った。

「ゔぁッ!!」

視界が歪み、頭痛と共に吐き気が襲いかかる。モスキート音のような甲高い音が、頭が割れそうな程に脳内に響いた。

『太宰?!オイ!大丈夫か…!!?』

「あ゛……ぐぅ、っ…ゔ……ぁ」

頭がおかしくなる。狂っていく。

これで死ぬのではないかと思う程、その苦痛は辛いものだった。

「………ゔぅ…ぐ、ぁ……」

『太宰!返事しろっ!!』

中也の声が遠のいていく。

「…っ、あ゛ぁ……ちゅゔ、や…ぁ……」

視界がぼやけて、頬を何かが濡らした。


たす、けて………。


















──────太宰っ!!!





























【この虚無感を埋めてくれる君を、私はまだ信頼している。】

────人間、失格。

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808

コメント

4

ユーザー

今回の話し長くて楽しかった! 最高すぎます...! 続きが気になるo(^▽^)o

ユーザー

わぁ〜っ!(≧▽≦)ありがとうございます!本当に今回マジでボツになってそうで怖いんだけど、気に入ってもらえて良かったっ!!

ユーザー

すごい……好きすぎます!ほんとに尊敬します!続き待ってます!

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