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第10話:封印された村


その村は、地図から消されていた。


かつて魔王が“救った”唯一の村として、歴史から封印された場所――ユーファ村。


 


「この道、まるで誰にも踏まれていないみたいですね……」

森の中、枝をよけながら進むトアルコがつぶやいた。


長旅の同行者は、アルル、リゼ、そしてパクパク。


「“かつて魔王が救った”って……何をしたんだろうな」

パクパクが首をかしげながら先を歩く。


 


やがて霧が晴れ、小さな石造りの村が現れた。

村人たちは最初、警戒の目を向けたが――


「魔王様……?」

ひとりの老婆が、よろよろと近づいてきた。


 


「……あなたが“あの魔王”じゃないのはわかってる。

 でも、匂いが似ているわ。心の、奥の匂いが……」


 


トアルコは深く頭を下げた。


「こんにちは。僕は、トアルコといいます。

 この村が救われたという話……もしよければ、聞かせてくれませんか?」


 




語られたのは、かつて現れた一人の魔王の話。


「その魔王は、病に苦しむ村に、“力”で薬草を降らせ、災いを浄化した。

けれど……その代わりに“世界”が、その村を“魔族のもの”と断じたの」


 


村は焼かれず、救われた。

だが、その代償として“中立”を失い、“世界から忘れられた”。


 


「救われて、生き延びた。でも、わたしたちは“誰でもない者”になった」


老婆の言葉に、アルルは拳を握りしめていた。


「それでも、生きているなら――よかったんじゃないか」

そう言いかけた騎士の少年に、老婆は首を振る。


「生き延びたことと、幸せに生きることは違うのよ」


 


トアルコは、そっと老婆に近づいた。


「あなたが、悲しかったのなら……僕は、どうしたらよかったんでしょうか」


 


老婆はゆっくりと目を閉じた。


「答えなんて、ないわ。

でも……あなたは、“聞いてくれた”。

前の魔王は、ただ救って、去っていった。……あなたは、ここにいて、話してくれる」


 


アルルがふと、トアルコの横顔を見る。

傷一つないその顔に、やわらかな疲れがにじんでいた。


「この人は、誰も傷つけていないのに……誰よりも悩んでる」


 


その夜、トアルコは村に自作のスープをふるまった。


「派手な魔法じゃないけど……ちゃんとあったまります」


村人たちの表情が、少しずつほどけていく。


 


火を囲む中、アルルがポツリとつぶやいた。


「……“救い”って、勝手に与えるものじゃないんだね」


 


そして彼女は、少しだけ、剣から手を離した。

魔王ですが世界征服は予定にありません。

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