妹が可愛いから
「コイツならただの道具に過ぎませんから、煮るなり焼くなり好きにしてやってください!俺たちの本当の子供はこの子だけですから、はは」
私は邪魔者で、彼らにとって道具同然の機械だった。
私を守ってくれる大人も、仲間も、家族もいなかった。
私が虐待を受けて家族から蔑まされていたのはもちろんのこと
一番求めているものを見せる魔法なら、これも全て真実なのだろうと、虚しくなった。
なにより、私には「私」なんてなかった。
実の両親にすら、名前なんて一度も呼ばれず、人間として扱って貰えなかった。
本名すら、存在していなかったのだという事実に、数年ぶりに涙を流した。
だが、頬を伝う雫に舌を触れるも、驚くほど味がしなかった。
ただひたすらに淡く、どこか頼りない水の味が、今の空虚な心そのもののようだった。
記憶を取り戻した今の私───
私は、もうただの機械ではいれない。
エカテリーナという女性に逢ってしまったから
彼女を救うこと以上に優先される因果など、この世には存在しないのだから。
「……エカテリーナ…今、助けますから」
私は肺腑を絞り、全魔力を脳中枢へと集束させた。
視界がモノクロームへと反転し、世界を構成する「文字」が浮き彫りになる。
ユニーク魔法──『特異点の観測《オムニサイエンス》』
それは、領域内に存在するあらゆる【魔法の術式】【法則】【因果】の繋ぎ目───
すなわち、本来あり得ないバグを視覚化し
そこに直接指を差し入れて「強制終了」させる、神の領域にも等しい禁忌。
見えた。
彼女の心臓部、魔女の核と化した術式の中に、一点だけ不自然に波打つ「矛盾点」が。
精神支配と魔力暴走の結合部。
私は迫り来る魔弾の雨の中を、あえてノーガードで突き進んだ。
肩が焼け、脚が裂けるが、構わない。その「点」さえ突けば────
「……終わらせる。───帰ってきなさい、エカテリーナ!」
咆哮する彼女の胸元に指を突き立て、私はそのエラーを引きずり出した。
世界が歪み、甲高い破砕音が響く。
「……ぁ、あ……っ……」
エカテリーナの瞳に、僅かな光が戻る。
黒く染まっていた肌が白磁の輝きを取り戻し、彼女の体から力が抜けた。
崩れ落ちる彼女を、私は迷わずその腕の中に抱きとめる。
「…アル……ベルト…っ?」
震える声で私の名を呼ぶ彼女。
「…どうやら、戻ってきたようですね…エカテリーナ」
彼女の温もりに、私は生まれて初めて神に感謝したいとすら思った。
だが、その安堵を切り裂くように、頭上から冷徹な声が降ってきた。






