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僕は昔から微妙に引きがいい。あくまでも『微妙』に。御神籤を引けばほとんど大吉。近所の商店街でおこなわれる抽選会は一等賞の温泉旅行一泊二日。当たり付きの自販機ではもう一本手に入る。アプリゲームではレアキャラを多数引き当てるもんだから、兄弟のゲームガチャを引くのはいつも僕の役割だ。

じゃあ、宝くじは?海外旅行が当たる抽選会は?

というと、コレはハズレるか程々にしか当たらない。一番引き当てたいのはそっちなのにだ!

そんな僕は今日これからとんでもないモノを引き当ててしまうのだが……それが幸せな事だと自分には思えないけど、相手はそう考えてはいないみたいだった——




アルバイトが終わった帰り道。

もう二十三時半をすぎていた事に焦りながら、僕は夜道を急いでいた。ほぼ人通りが無く、街灯も少ない道をひたすら早歩きで進む。公園の側を通る時なんかは情けないことに心臓が少しドキドキしてしまう。不審者が出るとの情報は回ってきてはいないが、今日もそうだとは限らない。色々引き当てやすい僕は、残念ながらこういった面では悪い方も引きやすいのだ。

無意識のうちに小走りになり、鞄をギュッと抱き締め、『出るなよー不審者!』と心の中で叫ぶ。今日とは別の道でひったくりに遭いそうになったり、露出魔にイチモツを見せ付けられたりした記憶が蘇りウンザリした気分になった。


「……うぐぅ」


甲高い変な呻き声が唐突に聞こえ、「ひっ!」と短い悲鳴をあげてしまった。『不審者か⁈』と体が反射的に強張る。だけど、慌ててキョロキョロと周囲を見渡してもそういった奴の気配は無かった。


「……ひぐぅ」


また聞こえた。『いったい何の声だ?』と不安になる。声が甲高いし、不審者感も無い。もしかしたら女性が倒れてるのかもしれない。『それならば助けないと!』と思い、僕は周囲を探してみる事にした。

「誰かいるんですか?大丈夫ですか?」

夜も遅いので、声量を少し控えて声をかけてみた。


「た、たす……け」


僕の呼びかけに反応し、女性っぽい声が生垣の奥から返ってきた。『助けて』と言いかけたのかもしれないと思い、慌てて音のした方へと駆け寄る。…… だが、見付からない。


「たすけ……て、ここ」


すぐ側から声がするのに、やっぱり姿が見付けられなかった。気持ちが焦る。早く見付けてあげないと。怪我でもしていたら大変だ。

「何処ですか ?大丈夫ですか?」

先程より少し大きな声を出してみた。何だかんだと声を頼りに公園の奥まで入って来てしまったので、もうご近所への配慮もいらないだろう。

「した……下に」

また聞こえた声に従い、素直に下を見てみる。すると、此処に居るにはオカシイ者と目が合った。

「……?」


(いやいや、無い。コレじゃ無い。マジで声の主は結局何処だ? でも……大丈夫かなこの子。平気じゃないよな。まずはこの子をどうにかしないと。というか、そもそも生き物なのか?子供が忘れていった、リアルなヌイグルミかもしれないよな)


『何か』を確認しようと地面に倒れているモノに近づき、側でしゃがむ。生き物か無機質かわからないが、一応声をかけてみる事にしてみた。

「大丈夫か?怪我でもしているのか?」

グッタリしているモノに向かい声をかける。お腹をよく見ると上下に動いているので、意外にもコレは『生き物』で合っている様だ。フサフサとした長い尻尾、尖った耳と口先。ほんのりと黄色味のある毛色。


(……狐、か?)


この子はどう見ても狐みたいだ。 こんな街中に居ていい子じゃない。怪我をしているのならどうにかしてあげるべきだろうが、でも触っちゃダメだよな、狐は確か病気を持っているはず。エキノコックス……だっけか?

んーと唸りながら首を傾げていると「助けてくれるの?」と僕に向かい問いただす声がした。

「へ⁈」

間の抜けた声をあげながら周囲を見渡す。近くから聞こえた気がしたのに、木々に囲まれているせいなのか人の姿は確認出来なかった。


「気のせい……かな?」


ボソッと呟くと「目の前、目の前」と催促する声が聞こえ、ゆっくりとそちらへ顔を向けた。

「何か、食べ物ないかしら。空腹でホントヤバイのよ」

手を軽くあげ、手招きしている狐っぽいモノと目が合い、僕は『妖怪⁈』と叫びそうになったが両手で口を塞ぎ、必至に堪えた。刺激して逆鱗に触れでもしたら『即殺されるんじゃ!』と色々な思い込みの知識が瞬間的に脳裏を駆ける。

「何か無い?」

さっきまではか細い声で、途切れ途切れに話していたのが嘘のように普通に話しかけてくる。『助けを求めていたのは釣りだったのか!この悪徳妖怪め‼︎——ってかマジで妖怪とか居るのか!マンガとかアニメの世界かと思ってたわー。んでも、ガチで推してる目玉なお父さんの方にこそ会ってみたかったな!!』と、聞こえないのをいい事に心の中でだけ本心をぶちまけた。


ちょいちょいと猫みたいな手を動かし、催促される。拒否して機嫌を損ねても怖いので、僕は慌てて肩から鞄を下ろして中を漁った。だが……何も無い。食べ物を入れておいた記憶がそもそもないのだ、漁ったからといって何かが見付かる訳がなかった。

「ご、ごめん。ちょっと今手元に無くて」

声が震えた。当然だろう、よくわからいモノに声をかけられて怖いと思わない奴などいない筈。そもそも現実だとすら思えない。夢か?夢オチだったらいいな、妖怪とかホント勘弁して欲しい。

「……帰ったらあるの?」

虚ろな目をしているので、空腹である事は本当の様だ。『ココに無いのならお前を喰ってやる!』とか言い出さないでくれた事に少しだけ安堵しながら、僕は必至に何度も首肯した。


「じゃあ、一緒に帰りましょう」


ムクッと体を起こし、狐っぽいモノが狛犬みたいに座った。

「へ?ウチに来るの?——あ、いや!来るんですか?」

言い方一つの失敗も怖くって言い直す。でも相手は然程気にした様子は無く、僕の方に向かい両手を差し出してきた。抱っこを催促する子供みたいでちょっと可愛いが、触るのが怖い!本物の狐じゃ無いみたいなので病気がどうこうの心配はいらないと思うが、【触る=呪い】とかがあったらたまったものじゃ無い。

「んっ」

再度手を振って要求されてしまい、僕は慌てて相手を持ち上げた。

「ふあぁぁぁぁ」

抱き上げた瞬間感じたのは極上の感触だった。土の上に横になっていたとは思えぬ毛並みの良さと、フカフカの感触。丁度いい温かさで感嘆の息をつくどころか変な声が出てしまった。


「早く、もう限界なの」

「はい!只今‼︎」


もう『妖怪かも』とか『狐かも』とか、そんな事がどうでもよくなってきた。ヌイグルミでは超えられぬ気持ち良さで全ての可能性を許せてしまう。

一旦しゃがみ、鞄を拾い上げて肩にかける。しっかりこの子を抱き直すと、僕は大急ぎで家の方へと走って行った。

異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

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