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魔王と第一王子軍の、ちょうど真ん中辺りの空間が揺らいだ。

すると何も無かったはずのそこに、巨大な建造物が現れた。


その場に居合わせた全員が、目に映るものを信じられなかった事だろう。

それは、最初からそこにあって、宙に浮いていたのだ。


空間迷彩が解かれ、その場に姿を現したのは――。

特大サイズの『戦艦』だった。


地上からは浮遊しており、その真っ赤な艦底が露わになっている。

全高約五十、全長三百メートル近くはあるだろう要塞の如きそれは、現れると同時に信号弾を高く放った。



青い光が数十秒にわたって光り続ける。

――が、その戦艦は、青い光がまばゆく光り始めたその数秒後には、両舷を埋め尽くしているほぼ全ての砲門から斉射した。


その武器、主に使われたのは機関銃らしき物。

しかし副砲と呼ばれるような大きな物までがあった。


両舷から斉射された弾丸は、右舷に魔王を捉え、左舷には王子を含めた二百の兵に照準されていた。

着弾には一秒とかからない。

反応出来た者が、果たして居ただろうか。


王子達にはおそらく、全弾が命中した。

兵達はその物量に面食らっただろう。



それらはゴム弾とはいえ、補助アーマーを破損させ、担いでいた兵器も弾き落とした。

中には、その身に食らった者も居るらしい。

悲痛なうめき声を漏らしながら、すでに荒野の土を舐めていた。


整列していたのが幸か不幸か、被害は前三列ほどに収まったようだが。

しかしゴム弾であろうと、口径の大きな機関銃や副砲は、人に対して撃つような代物ではないのだから当然だろう。

反則とも言える兵装をしていた王子の采配は、ここで微妙な活躍を見せたと言っても良かった。



一方、魔王への斉射は、対象が一人であるがゆえに、全ての弾丸が集中した。

戦艦の長い艦体の、横一線から一点に集束されたとあっては、逃げ場などなかっただろう。


荒野の地面ごと抉れたその跡に、魔王の姿は無かった。

弾き飛ばされ、もっと後方に打ちのめされているのかもしれない。

一点集中の着弾のせいで土煙が立ち、戦艦からはすぐに確認できないだろうが、結果は見えたようなものだった。



**



「せ……戦艦……?」

国王の護衛達がどよめく中、聖女は空間の揺らぎから出現した巨大なそれを、一目見てそう言った。


その驚きは、この世界に戦艦を造った事よりも、その巨体が浮いている事にかもしれないが。

いやむしろ、そんなものを造るという発想自体に、引いているのかもしれなかった。


聖女は、錆びた人形がギギギと動くかのように、ウレインを振り返って白い目で見やった。

そして国王は、その巨大要塞のような兵器を見て、怒りを込めてウレインを睨んだ。



「ウレインよ……あれは一体……。聖女の言うセンカンとはなんだ。説明してもらおうか」

商工会が王国に卸している兵器など、あれに比べればまるで、子供の玩具に等しいからだった。


「あれは……。我々転生者の、日本という国で建造された『戦艦大和』でございます。本来は海を護り、海上での戦闘に打ち勝つためのものです」

「そういう説明を求めたのではない! あんなものが作れるなら、我々に流している武器など何の役に立つのだ!」


「国王、我々は戦争などしたくないのです。ただし、他国から攻め込まれれば、この王国を護るために全力で戦います。軍ではない我らだからこそ、正しく使えるのだと信じて造りました。ですからあの『戦艦大和』を、あれにかける想いが同じ者にしか、渡すつもりはありません」

ウレインは、国王の睨みつけに真っ向から対峙した。


そしてその熱い想いは、国王には何やら伝わったらしい。

「……そうか。そうだったな。我が子を上手く育てられんかった者が、センカンヤマトとやらに、お前達に何かを言う資格はないのかもしれんな」


国王は自覚していた。

王位を継がせるには、未熟なままの王子しか居ない事を。

今は良くとも、これからの王国で、あれほどの兵器を悪用せずにいられるかどうかを、約束出来る自信が無い事を――。



「商工会とて、次世代に継がせるかどうかはまだ分かりません。ですので、略奪出来ないようなシステムも取り付けてあります。それに……あれを造った理由の半分以上は、憧れのようなものですから」

ご安心を、とは言わなかったものの、ただの遊び心で造ったわけではなく、ましてや人を殺すために造ったわけではない事だけは、伝えたつもりなのだろう。


「……そうか」

国王は、小さくそう答えた。



――その二人の会話をよそに、聖女は固唾を飲んで戦況を見守っていた。

魔王の姿を確認出来ないから。


一斉に放たれた黒い弾幕は、一度では終わらず、二度目も斉射された。

あれほど物々しい装備をしていた王子達でさえ総崩れになっているのに、剣以外に武器らしい物も、頑丈な防具も持ってない魔王は……果たして無事なのだろうかと。


今すぐに安否の確認に飛び出したいのを、シェナに袖を掴まれているお陰で何とか踏みとどまっていた。

それをもどかしく思ったか、それとも心強く思ったか、聖女はその小さな手を反対の手で握り返し、じっと耐えている。


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