「状況!」
レモンドは艦長席に身を置きながら、指示とも檄とも取れる声を出して、確認を急がせた。
「左舷の敵、前列崩壊。反撃の兆し無し!」
「右舷、目標喪失! 照準出来ません!」
本来なら、自動化のお陰でこんなやり取りは必要無いのだが、レモンドもクルー達も、この状況を楽しんでいた。
憧れの戦艦を、それも、『魔導戦艦』と冠したこの大和は、実在の戦艦大和からはかけ離れた性能を持っている。
ゆえに彼らは今、模擬戦というこの戦況の中にあって、大きな玩具を使ったごっこ遊びの最中なのだ。
「もう一度食らわせてやれ! 左舷照準同じく、右舷はやや前方に拡散! テェェ!」
「右舷照準同じ!」
「左舷前方拡散!」
用意した弾は、厳密に計算し、実際に射撃実験を行った上で、ギリギリの安全性を確認済みだからこそ、彼らは人を殺さないと確信して楽しんでいた。
ただのゴム弾では命中精度が低いばかりか、意外な殺傷力を持つので、とてもではないが模擬戦では使えない。
しかし彼らは、魔法という神秘の力も余すところなく用い、命中精度も緩衝力も同時に高めた制圧用兼模擬戦弾を開発していた。
その上、今回は万が一の事があれば、聖女に治癒してもらえる。
しかしそもそもが、王子達の兵装ならばまず間違いなく死にはしないのを見て取ったのだからなおさら気が楽だった。
魔王に関しても、勇者達を退けた聖女よりさらに強いのだと聞いているし、伝承でもその強さは尋常ではなかった。
まさかこちらが撃沈されはしないだろうかと、レモンドはそう思うほどであるから、魔王の心配などひとつもしていない。
だが、そんなレモンド達の遊びをよそに、魔導戦艦は異変をいち早く察知した。
デモンストレーションで実弾のミサイル兵器を使っていた、あの一万の軍勢に、よからぬ動きがあったのだ。
〔左舷よりロックオン検知。熱源感知〕
「なんだと?」
レモンドは、その自動音声に驚きつつも、まさか本当にやるとはという、半ば呆れた声を出した。
〔迎撃システム無効化状態により魔法障壁を展開します。ミサイル攻撃被弾までニビョウ、イチ――〕
自動音声のカウントダウンぴったりに、魔導戦艦にはわずかな衝撃が続いた。
〔着弾を確認。破損無し。魔法障壁展開継続中。次弾着弾までサンビョウ、ニ、イチ〕
そしてまた、僅かな振動が少し続く。
ミサイルの発射にずれがあるせいだろう、その爆発は数秒間ずつ続いた。
「くそぅ。模擬戦だっちゅうのに、王子は一体何しとるんだぁ。こっちはビクともしねぇが、まさか聖女様も狙ったりしてねぇだろうなぁ」
魔導戦艦の性能は凄くても、離れた位置に居る味方に対して、盾のように護る機能はない。
実際に盾になりたくても、ミサイルよりも早く動く事など、出来はしない。
どうしてもという事なら、その火力によって敵と敵の攻撃を、殲滅するしか出来ない。
「……左舷、敵ミサイル発射に備え! 迎撃システム解除、実戦弾の使用を許可する――いや! やっぱり駄目だぁ! 聖女様を爆発に巻き込んじまう!」
聖女の結界をあてにして、その爆発に耐えられなかったらどうする?
レモンドはそこまで考えると、次の動きに出られなくなってしまった。
「こんな事なら、聖女様に結界の強度実験をさせてもらっとれば……」
その性能限界を知っていれば、迎撃という手段も取り得たかもしれない。
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