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お互いに必死で生きているからこそ
平日はどうしても生活のタイミングが合わず、すれ違いの連続になってしまう。
純一とまともに過ごす時間が、ここ数日足りていない。
それが、彼のガラスのように繊細な脳にとって計り知れないストレスや不安に繋がっているんじゃないか。
心理士としての予測が、俺の胸にじわじわと焦燥感を募らせていく。
家に帰っても、あるいは病院の医局にいても
俺の視線は常に冷たいPCの画面とにらめっこを続けていた。
作業に没頭するあまり、時間の感覚すら麻痺していく。
そんなすれ違いの日々が続けば、当然、帰宅時間は遅くなる一方だった。
この日も、病院を出て自宅の鍵を開けたときには既に日付が変わる深夜の22時を回っていた。
重い疲労感を肩に背負いながら玄関のドアを開けると、静まり返った薄暗い廊下の奥から
聞き馴染んだパタパタという小走りの足音がこちらに向かって響いてきた。
「りひとさん! おかえりなさい!」
キッチンの明かりを背に、エプロン姿の純一が
これ以上ないほど輝かしい笑顔で俺を出迎えてくれた。
その瞬間
脳の髄まで染み渡っていた一日の疲れが、嘘のように一気に吹き飛んでいく感覚があった。
「ただいまって、純一、こんなに遅い時間まで起きて待ってたの?」
「うん!りひとさんと一緒に夜ご飯食べようと思って、ずっと待ってたんだ!」
急いでリビングへ向かうと、ダイニングテーブルの上には
俺の大好物である鶏の唐揚げと、みずみずしいサラダが綺麗に並べられていた。
料理がそれほど得意ではない純一が、きっと分厚い料理本を何度も見返し
計量スプーン片手に時間をかけて一生懸命作ってくれたものだろう。
その健気さを思うだけで胸が熱くなる。
「本当にありがと、遅くなっちゃってごめんね。純一が作ってくれたご飯、すっごく嬉しいよ」
俺が純一の少し癖のある柔らかな頭を優しく撫でると
彼は猫のように目を細め、照れたように頬を赤らめて笑った。
「えへへ……実はね、ぼく今日すっごく頑張ったの!唐揚げ、お家で初めて作ったんだよ!油がパチパチしてちょっと怖かったけど、美味しくできるようにってお願いしながら揚げたの!」
「そうなの、?火傷してない?大丈夫?」
「大丈夫だよ~」
「よかった。見た目も完璧だし、すごく美味しそうだ…純一、食べさせてくれる?」
「えっ!うん、任せて!はい、りひとさん、あーん!」
純一は嬉しそうに目を輝かせ
箸で大ぶりの唐揚げを器用に挟むと、俺の口元へと差し出してきた。
俺は彼の真っ直ぐな好意を受け止めるように口を開け、唐揚げを一口で迎え入れる。