テラーノベル
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矢野
48
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プロローグ
小学校の校庭
夕暮れ時
放課後のチャイムの音が鳴り響く時間だ。
この時間になったら帰らないといけないことを頭では理解していたが、私は正直帰りたく無いと思っている。
帰っても何かあるわけでも無い。
いや、何もないから帰りたく無いのかもしれない。
「んで悩んでるんだけどね」
「碧ちゃんはどう思う?」
ふと隣を見るとあの子が私に話しかけてきた。
「ねぇ、僕の話聞いてた?」
不服そうにこちらを見つめてくるあの子に対して私は
「聞いてたよ。」
「将来の話でしょ」
そうため息混じりに答える
ちゃんと一言一句聞いていたかと言われるとそれは嘘になってしまうが、重要な部分は一応話半分には聞いてはいた。
「なんだ、聞いてたんだ」
私がそう答えるとあの子はやれやれと言った顔をする。私が本当に聞いていないと思っていたんだろう。
それに対して予想外だったと言いたげな顔をしてこちらを覗いてきたその様子に少しだけ不愉快な気持ちにもなる。
「そんな黙らないでよー」
「僕が悪かったからさ」
そうやって不機嫌そうな私にあの子は困った笑みを浮かべてくるので
「別に気にしてない」
といつも通りぶっきらぼうに答えた。
「それなら、本題の話していい?」
「いいよ」
そしてあの子は意気揚々とまた話を続けた
「えっとね、僕は将来何になろうか悩んでるんだよねー」
「碧ちゃんはなんだっけ?」
将来の夢の話か
私が特に苦手な話題だ
「教師でしょ?」
ふと後ろから聞こえた声に振り返ると、いつものあの少し胡散臭い笑顔を浮かべた止月先生が立っていた。
思わず私は顔をしかめる。
「こんにちは、あーくん、それと碧ちゃん」
先生は肩をすくめて笑う。
「私が来たからって、あからさまに嫌な顔されると傷つくなぁー」
「別にそんなんで傷つくタイプじゃないでしょ」
「先生の心はピュアなガラスで出来てるから冷たくされると砕けちゃうわ」
「砕けちゃうの?!」
「そう!碧ちゃんの言葉のせいで粉々よ」
「実際はメンタル強化ガラスぐらいある癖に」
「流石に冗談よ。」
「そんな言葉で砕けてたら随分前に碧ちゃんに殺されてるわ」
「確かに?」
そう言う先生とそれに納得して笑うあの子
私は一体2人になんだと思われてるんだろうか。
そんな風にまた少し不機嫌そうな私の気持ちを感じ取ったのかあの子は咄嗟に話題をさっきのものに戻した。
「碧ちゃんは教師を目指してるんでしょ」
「どうして教師になりたいと思ったの?」
「それは先生も気になるかもー?」
先生もあの子に同意するように首をうなづかせてくる。
だから私は当たり障りのないことを答えた。
「公務員って1番収入安定してるでしょ。」
それに対してあの子と先生は少し食い気味に
「それ夢がない!」
「そうよ!」
「しかも、公務員って教師じゃなくて他にも色々さ、」
あの子が私の回答に不満げにしていると、先生は突然何か閃いたかのように口を押さえて笑った。
なんだか嫌な予感がする。
「碧ちゃんもしかして私に憧れちゃったんでしょ!」
「この美人すぎて完璧才色兼備な私に!」
「それはない」
「えぇ?!」
それだけは絶対にない。
よりによってこの先生をお手本にして教員になろうと思うはずなんてない。
先生ほど怠惰で適当な先生も珍しくくらいだ。
私が憧れにしてる先生像はもっと、優しくて暖かくて大人としてちゃんと責任を持ってくれる。
そんなあの人みたいな人だ。
「でも、碧ちゃんが先生になったら僕のクラスの担任になって欲しいなぁ」
「ってことは碧ちゃんは私の後輩になるってことかしら」
『碧先生になるってこと?!』
そう興奮気味に口を揃えて言う2人は私なんて蚊帳の外にして盛り上がり始めた。
当の本人より2人の方が私が先生になることを喜んでいるのは本当に意味がわからない。
何をそんなに嬉しそうにしているんだろうか。
そんな風に2人の話を何となくきいていると
「おーい、帰るぞ」
「おじさん!!」
あの子が声をかけた先にはあの人が立っていた。
あの子を迎えにきたんだろう。
いつの間にかかなり時間が経っていたみたいだ
彼女達と過ごしてるとつい時間を忘れてしまう
そのくらいあの時の私は、こんな会話を何よりも楽しんでいた。
高校の頃は教師になりたいと思っていた。
彼女達に言ったように公務員って安定した職業に就きたかったなんて言葉はもちろん嘘だ。
恥ずかしくて言えなかった。
2人みたいな他人を想える、優しい人間になりたかったなんて、憧れた人みたいになりたいなんてそんな夢見がちなことあの時の私には口が裂けても言えなかった。
教師になれば私も同じように、他人に寄り添える人になれると思ったなんてそんな馬鹿なこと、
でも、それは叶わなかった。
叶えなかったんだ。
あの日にとんでもないことをしてしまったから。
あれから私はずっと迷ってる。
何処が私にとっての終着点なのか見えない。
貴方達がいなきゃ
私は何が真実かなんてわからない。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第1話読みました。夕暮れの校庭の風景がすごく鮮やかに浮かんできて、碧ちゃんの「帰りたくない」気持ち、すごくわかるなって思いました。あの頃の他愛ない会話が、今となっては宝物みたいに感じられるっていう対比が切なかったです…。ラストの「あの日にとんでもないことをしてしまった」の一文、重くて心に刺さりました。何があったのか、すごく気になります。続き、読ませてください🌙