テラーノベル
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俺は修道院の直ぐ近くまで佐久間を背に送り届け、敷地の手前で彼を降ろした。
「送ってくださり、ありがとうございます。照さんに神様のご加護があらんことを。」
佐久間は真っ直ぐな瞳で俺を見上げ、いつもの聖職者らしい挨拶を口にした。その純粋な響きが、俺の耳にはどうしようもなく不快で…苦しかった。
『…神は、嫌いだ。』
思わず顔を逸らし、吐き捨てるような声を漏らす。彼は不思議そうに小首を傾げた。
「フェンリルだから、ですか?」
『………違う。』
フェンリルだからじゃない。そもそも俺と、彼の崇める神とやらが相容れる筈がないんだ。それは、言葉で説明するよりも早い。俺は人間の姿へと戻ると、
「見てろ。」
佐久間の目の前で静かに修道院の敷地内へと右手を伸ばした。
──バチンッ!!
刹那、激しい音を立てて、見えない壁が俺の手を容赦なく弾き飛ばした。掌を焼くような拒絶の衝撃。
「!?大丈夫ですか!?」
佐久間は大きく目を見開いた。慌てた様子で、俺の右手を両手でぎゅっと包み込んでくる。外傷はない。だが、結界に触れた俺の肌はほんのりと赤く変色し、僅かに痺れていた。
「これが答えだ。…『向こう』も、拒絶してんだよ。」
彼の手をそっと引き抜きながら、俺はその奥にある礼拝堂を忌々しげに睨みつけた。神の祝福を受ける資格なんて最初から俺にはないし、受け取るつもりもない。
佐久間がどんな表情で俺を見ているのか、顔を見ることはできなかった。けれど、もの悲しげな視線の熱だけが、いつまでも俺の肌に残っていた。
「めめー、遊んでやー!」
ここに訪れるのは最大で週に二回と自分の中で決め、初めての訪問から実に六回目。
陽が落ちきる前の聖域に、こうちゃんの無邪気な声が響き渡った。人間の身体ながらも、その背中には小さな炎の翼が生えている。
『康二、あまり大きな声を出すと動物たちが驚いちゃうよ。』
蓮さんは落ち着いた低い声でそう嗜めながらも、長い脚を器用に折り曲げて地面に座り込んだ。その背中に一生懸命によじ登って跨るこうちゃんに続き、涼太さんと翔太さんものそのそと集まってきて腰を下ろし…いや、四足歩行の翔太さんはだらんと身を預けている状態だった。
「わぁーい、おんまさん!」
ゆっくりと立ち上がって歩き出す蓮さん。きゃっきゃと嬉しそうに背中にはしゃぐこうちゃんと、揺れに気持ちよさそうに目を細めている涼太さんと翔太さん。
僕と照さんはその和やかな光景を少し離れた場所から見守っていた。
彼らがぎゅっと一箇所に集まっている姿をじっと眺めているうちに、僕はふと思った。
(…んん?何だか、物凄い既視感が…。)
うーん、と顎に手を当てて思い起こす。
「佐久間、どうした?」
「いえ、ちょっと…。」
問いかけてくる照さんに曖昧な返事を返しながら思考を続ける。美しい黒の毛並みを持つユニコーンの上。後ろから、もふもふのクー・シー、高貴な佇まいのケット・シー、そして火の鳥。その並び順、それと彼らのモチーフと類似した動物の種類。僕はそこでピンと来た。
「あの、蓮さん。」
『、…何?』
まだどこか余所余所しい目で僕を見る蓮さんに、僕はワクワクする気持ちを抑えきれずに提案してみた。
「ちょっとだけ、そのまま座ってもらっていいですか?」
『?…うん。』
少し戸惑いながらも、何か考えがあるのかと大人しく従う蓮さん。僕はすかさず、その背中に居た精霊の二匹に視線を送る。
「涼太さん、翔太さんの上に乗っていただけますか?」
『いいよ。』
『は!?俺はよくねーよ!』
翔太さんの鋭い抗議も虚しく、涼太さんは翔太さんの背中に跨るように乗った。
『ぐぇっ…重てぇ、!』
「じゃあ最後に…こうちゃん。鳥さんになって涼太さんの頭の上に乗って?」
「ええよー!」
こうちゃんが小鳥の姿に変わると、パタパタと器用に涼太さんの頭上へと着地した。
下から、蓮さん、翔太さん、涼太さん、こうちゃん。 縦一列に綺麗に積み重なったその愛らしいシルエットを見て、僕はポンと手を叩いた。
「やっぱり…!ブレーメンの音楽隊だ…!」
その瞬間だった。
『『『……………。』』』
聖域になんとも言えないシュールな沈黙が流れ、幻獣たちが一斉にフリーズしている。 その静寂を真っ先に破ったのは、一番てっぺんにいた小さな鳥だった。
『こうちゃんニワトリさんちゃうもん!!』
幼児独特の愛らしい声での抗議に僕の心臓が止まりそうになった、その時。
『…ロバ…。』
一番下で土台になっていた蓮さんが、ショックを受けたような呟きを漏らす。
「………ぶはっ、!」
不意に、背後で笑い声がした。振り返ると、いつも険しい表情ばかり浮かべていた照さんが、堪えきれずに噴き出していた。声を押し殺すように口元を押さえて顔を後ろへ向けているが、その肩は激しく震えていて。
「えっ…照さん…?」
俺が驚いて呆気に取られている間も、幻獣たちのわちゃわちゃは止まらない。
『おい、笑うな照!あと涼太マジで重い、もう降りろ!』
『えー、乗り心地いいのに。』
『てるにぃがわらっとるー!』
『康二お前もだよ!』
翔太さんが必死に暴れ、涼太さんはどこ吹く風で、こうちゃんは楽しそうに羽をパタパタと動かしてはしゃいでいる。
「…悪い悪い……っく、…いっひひ…!」
照さんはとうとう限界を迎えたように、少年みたいに声を上げて大爆笑し始めた。まだお互いにあった僕と幻獣の壁が、このくだらない一幕での笑い声と一緒に溶けていくのが分かった。
未だ笑い続ける照さんを見ていると、胸の奥が小さく鳴った。
(?…何だろう。)
理由は解らない。
でも、その無邪気な笑顔をまた別の機会でももう一度見たいと思った。
『解散解散!いい加減降りろってお前ら!』
『おんまさーん。』
『あーっ!それこうちゃんの!マネしたらあかんー!』
──そんな大騒ぎの真下で。
『………ロバ…。』
まだ一人で深く落ち込んでいる蓮さんに、照さんはまた更に笑い声を夕暮れの森に響かせるのだった。
コメント
2件
純粋な🩷 爆笑な💛 ショックを受ける❤💙🖤🧡 全員が可愛らしい(*´ω`*)🎉
水瀬菜音
11,918
#岩本照
絶対辰哉
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#BL
うさみみ
20