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水瀬菜音
11,918
#岩本照
絶対辰哉
525
#BL
うさみみ
20
朝の礼拝を終えた修道院。 ステンドグラスを通り抜けた柔らかな朝日が、ひんやりとした大理石の回廊へ斜めに差し込み、神聖で静かな空気が流れている。
リネンの爽やかな香りが残る洗濯物を山のように抱えて、僕はラウールくんと並んで廊下を歩いていた。
すると不意に、衣擦れの音と共に神父様が僕の右隣へ音もなく並んだ。
「佐久間くん。」
「わっ、…神父様?」
突然声をかけられて、僕は落としかけた腕の中の洗濯籠を少し持ち直しながらきょとんと首を傾げた。
「最近、なんだかとても楽しそうですね。」
形の良い唇を崩して柔らかく微笑む彼に、僕は思わずパチパチと目を丸くして足を止める。
「そうですか…?いつもと変わらない気がしますが…。」
「以前よりもずっと、幸福そうに見えますよ。ねえ、深澤助祭?」
神父様が振り返った先、廊下の陰からひょっこりと顔を出した助祭様が、悪戯っぽい笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
「そうそう。最近の佐久間くん、よく鼻歌歌ってるもん。」
「えっ、僕、そんなに無意識に歌っていますか?」
「歌ってる歌ってる!しかも、街に買い出しに行く道中でも結構ご機嫌に。」
左隣に並ぶラウールくんが、楽しそうに言葉を重ねてくる。
「嘘…。」
僕には、全く自覚がなかった。自分の状態がそんなに筒抜けだったなんて。恥ずかしさのあまり、みるみるうちに耳の付け根まで熱くなっていくのが分かる。そんな僕の反応を見て、神父様は慈しむように小さく笑った。
「何か、良いことでもあったのですか?」
「えっと…それは、その…。」
そう問われて、僕は自然と記憶の糸を手繰り寄せていた。修道院の分厚い壁の向こう、緑深い森の奥にある、あの騒がしくも愛おしい幻獣たちの姿を。
今やすっかり懐いてくれているこうちゃん。
口は少し悪いけど受け入れてはくれている翔太さんと、最初からずっとマイペースだった涼太さん。
まだあまりお話はしないけど、距離は縮まってきた蓮さん。
そして── ぶっきらぼうなのに、いつも少し離れた場所から僕を見守ってくれる照さん。
脳裏に浮かんだ光景があまりにも温かくて、僕の口元は自らの意志に反して緩んでしまう。
「……ふふ、」
「「「あ。」」」
漏れ出た小さな笑い声に、三人の声がピタリと重なった。
「ほら、今も笑った。」
「えっ!違っ、今のは…っ!」
ラウールくんに素早く指を指され、僕は慌てて洗濯籠の陰に口元を隠した。だけど、僕の瞳が忙しなく泳いでいる所為で、完全に墓穴を掘ってしまっていた。
「佐久間くんの中で、何か特別な楽しみができたのですか?」
神父様がそれ以上は踏み込まないような優しい口調で、何気なく尋ねてくれる。僕はごくりと息を呑み、慎重に言葉を選んだ。幻獣たちの存在は絶対に秘密だと、強く口止めされている。
「…はい。最近、その、…動物たちに会いに行くのが、凄く楽しみで。最初は警戒されていたのに、やっと、少しずつ僕に心を許してくれている気がしているのです。それがただ、嬉しくて。」
嘘ではない…筈だ。彼らは間違いなく、この世界のどんな存在よりも尊い生き物たちなのだから。 緘口令を敷かれているから、僕にはこの程度でしか表現できなかったけれど、これだけは紛れもない僕の本心だった。
「ふーん…。動物、ねぇ?」
助祭様が顎に手を当て、何かを察したように切れ長の目を更に細めて神父様を見る。彼もまた、静かな笑みを返し、それ以上は何も追及してこなかった。 ただ一人、最年少のラウールくんだけが、純粋に不思議そうに首を傾げている。
「動物?それだけ?」
「?うん。それだけだけど…?」
「…まあそっか!大介くん、昔から生き物大好きだもんね。」
「うん!」
ラウールくんの納得の仕方に救われて、僕はパッと顔を輝かせると、にかっと太陽のように笑ってみせた。
「そうですか。佐久間くんが良い出会いに恵まれたなら、主もきっとお喜びになりますね。」
「ありがとうございます、神父様!」
「でもさ、あんまり夢中になり過ぎて、こっちの祈りの時間やお仕事を忘れないでよ?」
「はい!勿論です、助祭様!」
僕は元気よく返事をして、先を行く神父様と助祭様の後ろ姿に向かって深く一礼した。それから、すっかり軽くなった足取りで、洗濯籠を抱え直してラウールくんと共に再び廊下を歩き出す。
(照さん…今頃、何をしてるかな。)
胸の奥がまた、小さくトクンと音を立てて鳴る。 修道院の冷たい壁の向こうにある聖域へ行く時間を僕は心の中で、静かに、静かに指折り数えていた。
翌月。僕は、すっかり久し振りとなってしまった訪問に胸を高鳴らせながら幻獣たちの住処へと向かっていた。木々の隙間から開けた広場へと足を踏み入れた、その時だった。
いつも皆が寛いでいる筈の場所に、見知らぬ男がぽつんと一人で佇んでいた。
「…あれ…?」
思わず足が止まり、小さな疑問の声が漏れる。 その声に反応して、男がゆっくりと振り返った。すっきりとした顔立ちながらもどこか人懐っこさを残した男は、僕の姿を捉えた瞬間、少し驚いたように目を丸くし、次の瞬間には弾けたような満面の笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「大ちゃん!」
「えっ?あ、あの、」
戸惑いで身体が強張る。《大ちゃん》…その呼び方をするのは、この世界に一人しか居ない。
けれど、目の前の男は僕の記憶にある姿とはまるで違っていた。すらりと伸びた手足に、高い背丈。記憶の中ではあんなに小さかった筈なのに、今は僕よりも高くなっていて。
「…あ、そっか。」
僕の混乱を察した男が、閃きの声をあげる。 すると次の瞬間、男の背中からボゥッと心地よい音を立てて、目も眩むほどに鮮やかで大きな炎の翼が生え広がり、夜の帳を優しく照らす。
「これで、分かるやろ?」
「こう…ちゃん…?」
信じられない思いでその名前を呼んだ瞬間、彼の身体は眩い炎に包まれ、その高い身長に沿うような、大きくて立派な鳥の姿へと変化していく。
『せいかーい!』
姿を変えても、耳に心地よいあの明るい響きは全く変わらない。
「うわ…大きい…!」
僕は圧倒されて、ただその姿を見上げることしかできなかった。以前の小さくて可愛らしい雛のような姿も愛おしかったけれど、成長した完全体のその姿は、息を呑む程に神聖で美しい。
『触ってみる?』
「えっ…でも、」
こんなに激しく揺らめく炎を纏っているんだ。いくら僕が生き物好きだからといって、触れたら火傷をしてしまうのではないかと躊躇してしまう。
『ええからええから!ほら、おいで?』
大きな翼を優しく広げて促され、《じゃあ…》と僕は恐る恐る手を伸ばした。壊れ物を扱うようにそーっと、彼の靱やかな喉元に掌で触れてみる。
「えっ…不思議…。」
驚いた。炎そのものである筈なのに、全く熱くないのだ。ただ、陽だまりの中にいるようなぽかぽかと温かい温度がじんわりと伝わってくる。そして、燃え盛る火炎を纏っている筈なのに、触れている羽毛の感触は確かにそこにあって、極上の柔らかさで僕の手を包み込んでいた。
神様が創り出した、命の奇跡。その温もりに包まれながら、僕はただただ感動で胸を震わせていた。
「わぁ…ふかふかで本当にあったかい…。こうちゃん、こんなにかっこいい姿になれるんだね?」
僕がうっとりと呟きながら喉元を優しく撫で続けると、大きくなったこうちゃんは《んふふー、そうやろ?》と嬉しそうに長い首を誇らしげに揺らした。
『大ちゃん。』
「?」
『照にぃも、ほんまは撫でられるん好きなんやで?』
「………え?」
『内緒やで?照にぃ照れ屋さんやから。…照だけに。』
ぱちん、と閉じられたルビーの様な片目。
(そういえば、撫でさせてもらったことない…。)
「…ふふっ、やってみるね!」
《…うん、あの、渾身のボケに触れてもらってええ?》と苦笑いするこうちゃんを他所に、僕は一つの願望に真っ直ぐだった。
あの大きな身体を全身で目一杯撫でられるなんて…!それは、僕にとって最高のご褒美でしかなかった。
コメント
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ひぃ〜のナデナデ✨絶対に見たい٩(๑´3`๑)۶ってか、やりてぇ〜✨ 楽しみ楽しみ♪