「えっ?」
「僕は、琴音ちゃんが好きだ」
「……」
予想すらしていなかった事態に、わけがわからなくなり、言葉が出てこない。
「君に一目惚れしてから3年経つ。これ以上胸に秘めておくのは……苦しいんだ」
その時、赤信号でブレーキを踏んだ綾井店長は、左手でハンドルを握ったまま、私に体を近づけた。その行動に反応して顔を向けると、店長は私の唇を優しく奪った。
いったい何が起こったのか――
店長は、すぐに正面に向き直り、信号が青になると同時に何事もなかったかのようにアクセルを踏んだ。一連の動作があまりにもスマート過ぎて、まるで何も無かったみたいに感じる。
私の体は助手席のシートに強めの接着剤で貼り付けられたかのように動けなくなった。
「琴音ちゃん」
「はっ、はい」
「……僕と付き合ってほしい。君に彼女になってもらえたら、仕事ももっと頑張れる。だから……答えをもらえないかな?」
「……あっ、えっ、あの」
言葉が詰まる。
「いや、答えを急ぐのは良くないよね。ごめん、突然驚かせてしまったね。でも、僕は本気だから。ちゃんと、考えてほしい。君のことは僕が守るから」
綾井店長……
これは、きっと「告白」なんだよね?
それは……私にも何とか理解できた。
相変わらず体は動かないし、言葉も上手く出てこないけれど、涙だけは自然に溢れ、頬をつたってこぼれ落ちた。
「琴音ちゃん、さあ、駅に着いたよ。今日は色々悪かったね。一緒に食事ができて楽しかったよ。また僕から声をかけるから」
車が止まり、ようやく「ありがとうございました。今日はご馳走様でした」そんなありきたりな言葉だけが出てきた。
「じゃあ、気をつけて。また明日ね」
「は、はい。また……」
綾井店長は優しく微笑みながら、駅に向かう私を見送り、そして、左側のドアを開けて車に乗り込み去っていった。
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