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#大人ロマンス
#サレ妻
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高級マンションの一室
窓の外にはかつて自分が這いつくばった街の夜景が広がっている。
健一は、今や「ナオミ」の運営者として、SNSの闇で他人の不倫や醜聞を裁くことで生計を立てていた。
それは、奈緒が彼に遺した、終わりのない「復讐の代行」という仕事だった。
「パパ、またお仕事?」
背後から声をかけたのは、5歳になった蓮だった。
里奈の面影と、健一の弱さを併せ持ったその顔立ちは、成長するたびに健一の心を鋭く抉る。
「……ああ。蓮、もう寝る時間だぞ」
健一は慌てて画面を閉じた。
しかし、奈緒がセットした「呪い」は、彼の気づかないところで牙を剥き始めていた。
蓮が幼稚園で描いてきた絵――
それは、真っ黒な背景の中に、赤い糸で繋がれた「犬の耳をつけた男」と「仮面の女」の姿だった。
「……蓮、この絵は……どうしたんだ?」
「夢で見たの。綺麗な女の人が、パパのことをこう呼んでたよ。『私の可愛い家政夫さん』って」
健一の手から、グラスが滑り落ちた。
奈緒は死んだ
はずだった。
だが、彼女が蓮の無意識にまで食い込んでいるという事実に、健一は嘔吐感を覚える。
◆◇◆◇
その夜
健一が眠りについた後。
蓮は、パパが大切に隠していた「あの金属ケース」を、子供特有の好奇心で見つけ出してしまう。
中には、あの日、健一がパソコンに差し込んだSDカード。
蓮がタブレットにそのカードを差し込んだ瞬間
画面いっぱいに、生前の奈緒が遺した「ビデオレター」が再生された。
『こんにちは、蓮くん。……いいえ、忌み子』
画面の中の奈緒は、透き通るような美しさで、絶望的な慈愛を持って微笑んでいた。
『あなたがこれを見ているということは、パパはまだ、私の足元で生かされているということね。……教えてあげるわ』
『あなたの本当のママを殺し、パパを壊し、私を焼き殺したのは……誰でもない、あなたの目の前にいる「パパ」なのよ』
「…パパ…?」
蓮の瞳に、初めて「父親への疑惑」という、奈緒が最も望んでいた毒が注入された。
健一が目を覚まし、リビングへ向かったとき。
そこには、画面に映る奈緒と、彼女と同じ冷たい目で父親を見つめる、小さな怪物が座っていた。
「パパ。……『ナオミ』って、だれ?」
健一の心臓が、音を立てて砕け散った。