テラーノベル
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「俺には…………忘れられない女がいる。だが、俺の中で…………この想いは終わった。それからだ。その女を忘れようと、ヤケになって女を買い始めたのは……」
廉の表情には、陰影が色濃く映りつつ、苦渋を滲ませているように見える。
「ちなみに私は……何人目の売女ですか?」
「岡崎は、俺が答えにくい事を、平気で聞いてくるなぁ。君はこんな性格だったか? まぁ…………岡崎の想像にお任せするよ」
優子が、態とおどけて質問すると、廉が苦笑混じりに返す。
「もう何を言おうが、上司と部下ではないですし………それに私は……」
『元犯罪者』と、彼女は言葉を綴ろうとしたが、強引に飲み込ませる。
(私のこの先の人生は、暗い海の底で……息を潜めて生きていく事しか……できない……)
優子は、淋しげに笑みを零し、瞼を伏せると、二人の間が静けさに支配されていく。
どれくらいの時間が流れたのだろうか。
優子と廉の間には、気まずい雰囲気が淡々と漂っている。
「さて、そろそろ部屋に戻るか」
廉は、沈澱した空気を一掃させるように、ベンチから腰を上げると、優子に手を差し出す。
「すみません。蓮さんに愚痴ってしまいましたね……」
節くれだった手に、優子の手を乗せて立ち上がると、二人は、ホテルの部屋に戻るまで、ひと言も言葉を交わさなかった。
仄暗いダブルルームの中で、優子は窓辺に近付き、煌びやかな横浜の夜景を見つめていた。
ガラス窓には、鮮やかな光の粒子と重なるように、背後から廉が彼女に近付いてくる様子が映り込む。
彼の腕が伸び、優子のスレンダーな身体を抱きしめながら、白皙の首筋に顔を埋めてきた。
「岡崎……」
彼の唇が、優子の首筋から頬へ這っていき、筋張った手が細く括れた腰を、妖艶に撫で回す。
「っ…………廉……さっ…………あっ……っ……」
優子の胸元が、甘やかな痛みに押し付けられ、吐息が掠れた。
「俺が…………」
後ろから優子を包み込んでいた廉が、身体を向き合わせ、引き締まった腰に腕を回しながら、強く抱き寄せる。
「俺が…………岡崎の……」
彼女には、淫情の色を滲ませた彼の瞳が、静かに炎が灯されたように映った。
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