テラーノベル
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20話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
ガチャ、とドアを開けて一歩踏み出すと、空は怒ったように土砂降りだった。
遠くで雷が鳴っている。
けれど、レトルトは引き返さなかった。
傘もなく、ただそのまま、ふらふらと歩き出す。
「……なんやねん、もう……」
喉の奥から、絞り出すような声。
顔に流れるのが雨か涙か、わからなかった。
「うっしーのこと……悪く言われるのも、つらいよ……でも……」
つぶやきは、雨にかき消されていく。
「……俺、キヨくんに喜んで欲しかっただけなのに……」
誰もいない道で、足元から水が跳ねる。
濡れた髪が頬に張りついても、レトルトは手で拭おうともしなかった。
もう、どうしていいかわからなかった。
キヨの冷たい目も、そっけない声も、全部が胸に刺さって、痛かった。
「なんで……あんな言い方するん……?」
両手で顔を覆った瞬間、堪えていたものが決壊した。
しゃがみ込む。
土砂降りの音の中で、嗚咽が小さく震えた。
「……キヨくんの、ばか……」
夜の街は、雨に洗われるように静かだった。
レトさんが、帰った。
俺の、せいで。
キヨはただ、茫然と席に座ったまま、何もできなかった。
氷の溶けたグラスの水滴が、机にぽたぽたと落ちている。
「やって……しまった……」
胃の奥が締め付けられるように痛い。
全身の力が抜けた。
何がしたかったんだ。
拗ねた子どもみたいに、そっけなくして。
笑いもしないで、レトさんの話を遮って、勝手に不機嫌になって。
それで、何が伝わるっていうんだよ。
何が残るっていうんだよ。
「……嫌われたよな、俺……」
口の中が苦い。
悔しいとか、寂しいとか、そんな綺麗な言葉じゃない。
ただ、最悪だった。
自分が、自分で言ったことが、最悪だった。
「……うっしーって、言ってたよな……」
それが親友の名前だって、頭では理解していたのに、
笑うレトルトが、自分じゃない誰かに向けていたその表情が、
焼き付いて離れなかった。
「……バカだな、俺……」
雨の音が、外からざあざあと聞こえてくる。
黒く濁った心を打ち消すように頬を2回叩いてレトルトの背中を追いかけようと立ち上がった。
財布も、傘も、携帯も、どうでもよかった。
今すぐ、謝らなきゃ。
こんな自分の感情で、大事な人を泣かせていいはずがない。
きっと、泣いてる。
あんな顔してた……。
「レトさん…!」
店を飛び出した瞬間、冷たい雨が全身を打ちつけた。
でもキヨはもう、足を止める理由なんて、持っていなかった。
『……っ、どこだよ……レトさん……』
びしょ濡れのTシャツが肌に張りつく。
視界は雨粒と街灯の光でぐしゃぐしゃだった。
ショッピングモールの周辺、駅前、横断歩道、バス停……
見かけた気がして駆け寄れば別人で、そのたび心が折れそうになる。
『……お願いだから……どこにいんだよ……』
傘も持たずに飛び出した自分を笑う余裕すらない。
呼吸は乱れ、靴は水たまりでぐちゃぐちゃになっていた。
そんな中、ふと脳裏をよぎったのは――
最初に、二人きりで座ったベンチ。
『……あの公園……』
初めて会ったあの日。
ぎこちない会話、けれど自然と繋がった手。
無言でも、熱くて、優しくて、
まるで二人の世界だけが静かに流れてた。
『レトさんなら……きっと、あそこだ!』
確信でも、希望でもなく、
心の奥が自然とその場所を叫んでいた。
キヨは再び走り出す。
雨なんて気にする余裕はない。
ずっと怖がりで、人を避けてたレトさんが、
震える声で名前を呼んでくれた。
『……俺が、ちゃんと迎えに行かなきゃ……』
街灯の少ない公園に差し掛かる。
遠く、ベンチの影。
膝を抱えて、うつむいたままの人影があった。
キヨの心臓が跳ねた。
『……レトさん……!』
つづく
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