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#イラスト
しおもも
2,514
フランスの邸宅に身を寄せてから、一週間が経った。鳥のさえずりと、窓から差し込む穏やかな木漏れ日。ここは驚くほど静かで、イギリスを糾弾する怒号も、鳴り止まない不穏な電話のベルも、一切届かない。
「イギリス、朝食を持ってきたよ。今日は君の好きなスコーンを僕が焼いてみたんだ」
扉を開けて入ってきたフランスは、銀のトレイをベッドサイドのテーブルに置いた。ふわりと漂うバターの甘い香りに、ベッドの中で丸まっていたイギリスがゆっくりと身を起こす。
「フランス……。わざわざ、ありがとうございます。あなたが焼いてくださったのですか?」
「そうだよ。君に少しでも元気になってほしくてね。さあ、あーんして?」
フランスがスコーンを小さく千切り、 イギリスの唇へと運ぶ。イギリスは少し頬を染め、恥ずかしそうに躊躇った。
「あの、フランス……。私、手は動きますから、自分で食べられます」
「ダメだよ。君はまだ心が弱っているんだから、僕に甘やかされていればいいの。ほら、口を開けて?」
「……っ、す、すみません……」
イギリスは、フランスの熱を帯びた視線に抗えず、小さな口を開けてスコーンを迎え入れた。
「……美味しい、です。あなたが作ったものは、悔しいですが、いつも素晴らしい……」
「ふふ、お口に合って良かった。もっと食べて、早く元気になってね」
フランスは満足そうに微笑み、イギリスの柔らかい肌を優しく、何度も撫で回した。その手つきは、まるで自分の所有物を愛でるかのようで、どこか異様だった。
しかし、イギリスは、その過剰な執着に全く気づかない。それどころか、自分を無条件で受け入れてくれるフランスの存在に、心からの救いを感じていた。
「フランス……、外の様子は、どうなっていますか……? その、皆さん、まだ私のことを……」
イギリスが不安げに琥珀色の瞳を曇らせ、服の裾をぎゅっと握りしめる。
待っていましたとばかりに、フランスは顔を曇らせ、わざとらしく悲しげなため息をついた。
「……聞かない方がいいよ、イギリス。君が会議を欠席したことで、みんな『やっぱり後ろめたいことがあるから逃げたんだ』って、ますます怒っているんだ。アメリカなんて、君への経済制裁を本格的に呼びかけているくらいさ」
「そんな……っ! 私、逃げたわけでは……ただ、頭を冷やしたくて……っ」
イギリスの顔から一瞬で血の気が引き、視界が涙で潤んでいく。
「分かっているよ、分かっている。君は悪くない。みんなが異常なんだ。……ねえ、イギリス。もうあんな冷酷な奴らのことなんて、忘れちゃいなよ」
フランスは泣き出しそうなイギリスを強く抱きしめ、背中を優しくトントンと叩いた。
「私の、居場所は……もう、本当にないのですね……」
「居場所ならここにあるって、前に言ったじゃない。君には僕がいる。僕だけが君の味方で、君のすべてを愛しているんだ。君も、僕だけを見ていればそれでいいんだよ?」
「私には……、あなた、だけ……」
イギリスの瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ、フランスの肩を濡らす。
世界から拒絶されたイギリスにとって、今やフランスの腕の中だけが、唯一の呼吸ができる場所だった。
フランスの過剰な愛という名の泥沼に、イギリスの足元は完全に囚われ、深く、深く沈み始めていた。
コメント
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読了しました。第5話、一週間経ってすっかりフランスの保護下に馴染んでしまったイギリスの様子、そして「甘やかし」の裏側にある過剰な執着がじわじわと見えてくる構成が巧みでした。スコーンを食べさせるシーン、イギリスが「手は動きます」と抗ってもフランスが押し通すところが印象的です。自分で食べる自由すら奪われていく閉塞感。そして「外は君に厳しいよ」という情報管理で、依存を深める手法……この構造、心理スリラーとしてとても良くできてます。ずもんさんの紡ぐ毒の甘さ、癖になりそうです。