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#イラスト
しおもも
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フランスの邸宅での生活は、まるで甘い麻薬のようだった。
何不自由ない暮らし、望むものは何でも与えられ、フランスからは溢れんばかりの愛を注がれる。外界の残酷な現実から目を背け、この狭く美しい檻の中で暮らしていれば、傷つくことは何もない。
イギリスの心は、すでに考えることを放棄し始めていた。
「フランス、私……少し本を読みたいのですが、書斎へ行ってもよろしいですか?」
「うん、いいよ。でも、僕の部屋の机の周りには近づかないでね。ちょっと大事な仕事の書類が置いてあるから」
「わかりました。約束します」
フランスが買い出しのために外出している間、イギリスは静かな書斎へと足を運んだ。しかし、本棚に向かう途中、ふとフランスの執務机の上が目に留まる。
そこには、ノートパソコンが一台、画面が開いたまま置かれていた。
「あ……、いけない。見ない約束でしたね」
通り過ぎようとした、その時だった。スリープが解除された画面に、見覚えのある文字が映し出された。
『対イギリス経済制裁・世論誘導進捗』
「え……?」
イギリスの足が止まる。鈍感な彼でも、自分の国名が出れば反応せざるを得ない。押し寄せる嫌な予感に心臓が激しく脈打つ。
見てはいけない。そう思いながらも、吸い寄せられるように画面を覗き込んだ。
フォルダの中にあったのは、あの世界会議で流出した『イギリスの偽音声データ』の編集前の音声ファイル、そして、精巧に偽造された各国の機密データだった。
さらに、匿名のアカウントを使って、それを世界のネットワークへばら撒いたログまで、すべてが完璧に残されていた。
「嘘……?」
イギリスの口から、敬語が消えた。
指先がガタガタと震え、マウスを握る手に力が入らない。画面をスクロールするたびに、血の気が引いていく。
世界中から自分が嫌われ、孤立させられた原因。
あの最悪な罠を仕掛けた張本人は、他でもない――自分を誰よりも優しく抱きしめ、「僕だけが味方だ」と囁き続けた、フランスだった。
「どうして……どうして、あなたが……っ!?」
裏切りの大きさに、頭が真っ白になる。
すべては、自分を孤立させ、この部屋に閉じ込めるための自作自演だったのだ。
カチャリ、と静かに部屋の扉が開く音がした。
「ただいま、イギリス。……あぁ、やっぱり見ちゃったんだね。机には近づかないでって、あれほど言ったのに」
背後から聞こえてきたのは、いつもの甘く優しい、けれど底冷えするようなフランスの声だった。
「フランス……! あなた、これが一体何の説明ですか……っ!? 答えてください!」
イギリスは振り返り、涙をボロボロと流しながら叫んだ。裏切られた絶望と恐怖で、身体の震えが止まらない。
「言葉通りの意味だよ、僕の可愛いイギリス」
フランスは全く悪びれる様子もなく、ゆっくりとイギリスに近づいてくる。その瞳には、妖しく歪んだ歓喜の光が宿っていた。
「君が悪いんだよ? 誰にでも優しく微笑んで、僕以外の奴らと楽しそうに喋るから。だから、君の世界を全部壊して、僕だけしか見えないようにしてあげたんだ。嬉しかっただろう? 僕の腕の中は、あんな世界よりずっと温かかったはずだよね」
「狂っている……! あなたは、狂っています……っ! 離してください、私は自分の家に帰ります!」
イギリスはフランスを突き飛ばして部屋を飛び出そうとした。しかし、精神的に衰弱しきっている彼の手首を、フランスは容易に掴み上げ、壁へと押し付けた。
「帰る? どこに? 世界中が君を大罪人だと信じ込んでいるのに、今さらどこへ行くっていうの?」
「う、あ……っ、嫌だ、離せ……っ!」
「ダメだよ。君はもう、僕の腕の中でしか生きられない身体になっているんだから」
壁に縫い付けられ、激しく泣き叫ぶイギリスを見つめながら、フランスは冷酷で、狂おしいほど甘い微笑みを浮かべた。