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柊也は「さて!」と言うと、座っていたベッドから立ち上がり、手に持っていた紅茶の入るカップの中身を一気に飲み干した。髪を拭いた後首に巻かけていたタオルを取って空っぽになったカップと一緒にサイドテーブルに置くと、腕を頭の上にあげてぐぅっと背筋を伸ばす。
「うん、疑問点が無くなってスッキリした。いつもありがとう、ルナール。ホント、同行者がルナールで良かったなって心底思うよ」
「いえ、いいんですよ。……でもまさか、今のやり取りで——」
ルナールは『トウヤ様の呪いを解く力が増すとは思わなかった』と言いそうになったが口を閉じ、笑みを浮かべて言葉を飲み込んだ。避けねばならぬ程の言葉ではないが、旅の終わりが近づく事を恐れての事だ。
【純なる子】は心の在り様や、どれだけ当人の骨子が純真であるか、この世界をどこまで真剣に『救いたい』と思っていてくれているかなどの要因で力を増す。
【純なる子】としての最適解では無い柊也がルナールと共に旅へ出ているのも、全ては今よりも強い力を手に入れて最終的には【孕み子】の呪いを解く為だ。でも、それを達成してしまえば柊也は元の世界に帰ってしまう。『力の増加』はイコールで『旅の終わり』を近づけてしまうので、ルナールとしては複雑な気分だった。
「やり取りで、何?」
笑みを浮かべた顔を少し傾げ、柊也が訊いた。
「……すみません、続きの言葉を忘れました」
少し困った顔でルナールがそう言うと、柊也が「あはは、ルナールでもそんな事あるんだね」と楽しそうに笑った。
「あの……トウヤ様、少し……お酒を飲みませんか?」
「お酒かい?いいね!なんかすんごく飲みたい気分だし」
ブランデー入りの紅茶を既に飲んだせいか、柊也がアッサリと承諾した。
「では私が用意します。おつまみも必要ですか?欲しいなら宿の者に頼んできますが」
「いいや、お酒だけでも平気だよ」
「わかりました、では早速」
軽く頷き、ルナールもベッドから降りると、代わって柊也がベッドにダイブした。ルナールに甘え慣れしてきたのもあるんだろうが、既にちょっと酔っているのかもしれない。
「んー布団はあったかいねぇ」
「えぇ、そうですね」
特に意味の無い言葉に対し、ルナールが返事をしながらお酒を用意する。前に貰った地酒の残りと、クイネ宅からかっぱらった珍しいワインを鞄から出し、紅茶のカップが置いてあるのと同じサイドテーブルに並べてグラスも一つ用意した。
「ワインと地酒なら、どちらが飲みたいですか?」
「んーワインかな」
「承知しました、トウヤ様」
部屋に備え付けられたコルク抜きを手に取り、ルナールがワインの栓を開ける。ボトルの色が濃くて中身の色がわからなかったのだが、部屋に備え付けられたグラスに注いでみると、ワインの色が青色でとても綺麗だった。
「何それ、すごいね!青い色のワインって初めて見たよ。青いけど、白ワインかな、赤ワインかな。まさかこの世界では青ワインとかもあったりするの?」
ベッドの上でうつ伏せになっていた体の上半身を起こし、柊也が目をキラキラとさせた。
「この世界でもワインは赤か白の二択ですよ。なので、これはかなり珍しい物なのかもしれませんね」
クスクスと笑いながらルナールが柊也にワインの入るグラスを差し出す。せっかく綺麗な色なのにちゃんとしたワイングラスでは無いのが残念だが、部屋の備品には無いので仕方がなかった。
「ありがとう、ルナール」
柊也がグラスを受け取り、ニッコリと笑う。
「いただきまーす」
元気にそう言うと、柊也は勢い任せにぐいっとワインを飲み干してしまった。
「お味はいかがですか?」
「甘くて美味しい!いいね、これ。でもどこでもらったの?僕は受け取ってないけど」
「村人からですよ」
クイネも『村人』なので、嘘では無い。『かっぱらった』という部分も、言わなければ嘘をついた事にはならないだろうとルナールは判断した。
「そっか!おかわりをもらってもいい?」
「えぇ、もちろんいいですよ」
二杯目を注いでもらい、甘い味任せに柊也がそれも一気飲みしてしまう。飲みやすいのは良い事だが、これではかなり早く完全に酔ってしまいそうだ。
「もう一杯飲みませんか?」
「……飲めるけど、飲み過ぎじゃないかな」
「封を開けてしまっているので、飲んだ方がいいですよ」
「それもそうだねぇ」
トロンとした顔で柊也がグラスを差し出す。そのグラスにワインを注ぎながら、ルナールは『今回の記憶もしっかり全て飛びそうだな』と確信した。
「甘いものはお好きですか?」
「……うん、好きかなぁ」
「私の事は?」
「んーもちろん、好きだよぉ」
ワインを片手にベッドの上で脚を伸ばして座りながら、甘えるような声で柊也が言った。
「じゃあ……この世界に、全てが終わっても、残る気は……ありませんか?」
「んー……それは無理だよ。“一つの世界”に“同じ人間”は二人もいらないだろう?遭遇なんかしたらえっと……なんか起きるって言うじゃん」
「今までそういった事が起きた事例は聞いた事がありませんから、心配いらないかと」
「そうなのぉ?でも僕、今の事象が片付いたら、出来る事なんかなーんも無いよ?魔法は使えないんだし、戦闘能力だって皆無なんだしさ」
「それに関しては私が補えますよ。食うに困るような事にもなりませんし」
胸に手を当てて、ルナールが微笑んだ。
「ルナールが働いて僕は専業主夫って感じかな?でも、僕じゃシュキュウさんみたいに完璧になんか無理だよ?掃除機やら洗濯機やらがある世界じゃ無いから、家事の勝手も違うし。それに、狩人の仕事でこんな穀潰しを養うのは厳しいんじゃないの?この世界だって、冬の狩りは大変なんじゃない?」
えらく現実的な事を柊也が心配しだした。同居人では無く、婚姻前提並みの会話を自らしている事は、完全に無自覚だ。
「それでしたら何も心配いりませんよ、狩人をしているのは所詮仮の姿ですから」
「狩人だけに、仮の姿って?流石にその冗談は……んーそうだな、三十点だね!」
ケラケラと、酔っ払い感丸出しで柊也が笑った。
「いえ、冗談では無くって……」
酔った相手に真面目に説明するのがルナールは面倒くさくなってきた。どうせ今ここで柊也が納得出来うる説明をしっかりしたとしても明日には覚えていないのだと思うと、端折ってしまいたくなるのも無理はないだろう。
「何も問題が無ければ、残ってはくれませんか?……私の為に」
ルナールは柊也の手から空になったグラスを抜き取り、それをテーブルに置く。
「ルナールの、為に残る?役立たずの僕がぁ?」
「トウヤ様は役立たずではありませんよ。傍に居ていただけるだけで、私は幸せです」
そう言い、ルナールはそっと柊也の体を押して、ベッドに仰向けに寝転ばせた。柊也の上に覆い被さり、体を腕で支える。
「おぉ、床ドンだぁ」
完全に酔っ払っているせいで柊也の目付きがトロンとしている。状況が読めず、危機感も感じていない。
「ん?床じゃないから名前違う?じゃあ、『ベッドドン』?うわ、トキメキ感皆無の響きだね」
「もう……少し黙っていて下さい」
状況のせいもあり、意味の分からぬ言葉にむっとした顔をしたルナールが、勢い任せに柊也の口にキスをする。
「んんっ?」
突然の事に驚き、柊也が目を見開いた。閉じられた唇に難無く舌が割って入り、ワインで甘い口内をルナールが一心に貪る。
(何を……して?……ル、ルナ——)
そう思っても舌が絡まり声に出せない。言いたい事が言えず、柊也がルナールの服をギュッと掴んだ。
そんな柊也の行動を『トウヤ様が私を求めてくれている』と勘違いしたルナールが右腕のみで自身の体を支え、左手を柊也の着る夜着の中へ手を入れてきた。
「んんんっ⁈」
冷たい手で腹をそっと撫でられ、柊也が驚き、背が逸れて腰が浮いた。
「綺麗な肌ですよね、とてもいい触り心地で気持ちいいです」
うっとりとした顔で囁かれ、柊也の顔がお酒の力も借りて林檎のように染まった。
「僕は男だよ?綺麗とか無いって!それを言うなら、ルナールの方が綺麗じゃん。肌もつるつるだし、顔立ちは端正だしさぁ」
キスをされ、褒められたりとで照れ臭い気持ちを誤魔化すように、柊也が茶化すような声色で言った。
「私が、綺麗ですか?……ありがとうございます。……ちょっと照れますね、面と向かって言われると」
ぽっと頰を染めるルナールの表情を数センチしか離れていない距離で直視して、柊也の心臓がばくんっと跳ねた。フルマラソンでも走った後みたいに心臓が大騒ぎをし、への字になった口元がぷるぷると震える。
(殺す気かぁぁぁぁ!無遠慮に人の心の琴線に触れてくる美形なんか滅びてしまえ!)
同性に対しドキドキする事に対してどうしても違和感を捨てきれず、柊也は心の中でそう叫んだ。
「どうしましたか?トウヤ様」
獣耳を軽くピクピクさせて、ルナールが軽く首を傾げ、サラッとした髪の束が肩から少し落ちた。
「何でもないよ……何でも」
視線を逸らし、柊也が言う。
『ふーん?』と思いながら、ルナールが口の端がくっと軽くあげる。柊也が心底今の状況を嫌がっているわけではないのが読み取れて少し嬉しい。
肉の薄い腹を撫で、手をゆっくり上に移動させていく。ルナールが柊也の胸に指先を当てると、既につんっと尖っていて心が騒ついた。
「ひゃっ!」
柊也が変な声をあげ、逃げ腰になってルナールから離れようとする。でも、胸の尖りを指でくっと摘まれ、それを阻止されてしまった。
「んあっ……んっ……ルナ……ダメだよ、そんな」
頰に口付けをされ、柊也の体から力が抜ける。ダメだと口では言っていても、アルコールで火照る体は快楽にひどく敏感で、気持ち良さのせいですぐに柊也の頭はいっぱいになった。
頰から耳を、耳から首筋とに舌を這わせ、啄むような軽いキスをルナールが柊也の肌に施していく。たまに軽く肌を噛まれ、異質な刺激に柊也が甘い吐息をこぼした。
紅潮する肌はどこを触っていても熱く、赤く、柊也はよく熟れた果実のようだとルナールは思った。
柊也の着る夜着のボタンを一つづつ外していき、前側をはだけさせる。その後もずっと胸を弄られ続け、柊也はもう虫の息だ。
「はぁはぁはぁ……」
目元を腕で隠し、嬌声をあげてしまうのを堪えているせいで柊也の息が上がる。頭がくらっとし、恥ずかしさで一杯なのに抵抗する気力も生まれてこない。
「胸、弱いんですねぇ」
ルナールの言葉を聞き『む、むしろ強い人がいるのか⁈』と思ったが、働かぬ頭では言葉にまでは出来なかった。
肌の上をルナールの手が滑り、下へと移っていく。下腹部にその手が辿り着くと、硬く膨らみを持つ部分に当たり、手の甲でそっとズボン越しに撫でた。
「んんっ」
口元を引き結んでも出てしまう甘い声を、柊也がこぼす。
「良かった、感じてくれているんですね」
嬉しそうなのに、柊也にはルナールの声が不安を掻き立てるものにしか聞こえなかった。