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クーインが気がついた時にはこの空間にいた。身体の自由はなく、意識だけが残っていた。
『いつだったからだろう?自分の意思で行動し始めたのは?』
クーインはあたり一面真っ黒の空間で一人考えていた。
この疑問はクーインは生まれてからその疑問を持ったことがなかった。
今まで従うのは当たり前、自分はただのそれに従うだけ。そんな生活を繰り返していた。
そうすれば全てがうまくいっていたから。
『何故あの時、拒絶したのだろう?』
初めてもう一つの人格からの指示を拒絶した授業二日目。
その指示を聞いた瞬間、考えるまでもなく、反射的に拒否した。どうしてもそれだけは従えなかったからだ。
『何故?』
クーインは自分にそう問いかける。
『自分にとって不利益だから?』
答えは否。
人を殺せば捕り、罰が降る。
それでも違う。今のクーインもっと違う何かが。どうしてもこれだけは失いたくない、何かがある。そう思えてならない。
『殺すことが怖いから?』
これでもない。もっと簡単な、身近にあるような。
『何故?』
クーインは考え続けた。
そして、しばらく時間が経ち、ある人物のことを思い浮かびあがる。
アルト=クロスフォード。親友と呼べる存在を。
気がつけばクーインの人生最も影響を受けたのはアルトだった。もう一つの人格の指示を断った理由もアルトが悲しむと思ったからだ。
今思えば、クーインはアルトから貰うことばかりで、何も返していない。
『このままで終わるのは嫌だ』
せめて自分が死ぬならば今までのことを返したい。だからこそこのままでは終われない。クーインはそう決意を固める。
だが、今この現状、どんなに足掻こうが行動をしようとするが、どうすることもできない。
『出来ることをする』
最後にもらったアルトからの言葉。
今は魔法も使えず、体も動かせない状況。それでも少しでも気を抜いてしまうと意識を失ってしまう。
それだけはどうしても阻止せねばいけないと思い、小さな抗いを始めたのだった。
『あれ?』
それは唐突に起こった。
小さな揺らぎ。大きな変化。
突然に何か身体が押し上げられるに意識をうっすらとであるが、取り戻した。
『やめろ!』
クーインがそう思い、止めようとしたのはもう一つの人格……魔神がアルトを狙った瞬間であった。
それはどうしても止めなければならない。
クーインは気力を振り絞り魔法をキャンセルしたのだった。
「ごめん」
そして、クーインは少し混乱しているアルトと目があった時、一言謝罪をした。
『何もできなくて』
そう最後に言おうとするも、そこでクーインは意識を失ってしまったのだった。
クーインの抗い。
途中から意味はなかったかと本人は諦めていたが、これは「純愛のクロス」のシナリオからは大きく離れる。
本来、クーインともう一つの人格……魔神と入れ替わったことにより、クーインは無意識界に身を上げ出された時点で存在が消えるはずであった。
それでもクーインが存在し続けられたのはアルトもいう本来巻き込まれて死ぬはずのモブが大きく影響をもたらしたのだ。
そんなクーイン自身も魔神の隠れ蓑でしかなかったが、アルトとの出会いをきっかけに闇空間において強い意志を保ち続けることができた。
魔神は闇魔法を隠蔽していたため、解放する必要があり、消滅したと思っていたクーインの精神は未だ健在であった。
一連のことは魔神自身想定外の事態であった。本来ならばオークキングの戦闘が終了した後、全員が警戒を解いた隙をついてサリー以外を戦闘不能に。そして最後までサリーを苦しめてから喰らうはずであった。
だが、結果は戦闘不能に持ち込めたのはゼフとレイブンの二人のみ。
他のものを攻撃しようとした瞬間身体が動かなくなった。
それはただのモブであるはずのクーインが見せた抗いであった。