「分かった」
そう言って、愛華さんはそっと目を瞑りました。
「連華の能力は、“桜神”」
“桜神”何故かその能力の名前がシンデレラフィットしているような気がしました。
「桜を咲かせる能力で、普通は、意識して咲かせたい桜の種類をその場に咲かせる。そして、周囲の人々を己自身のこころを癒し、幸福を感じさせる」
そう聞いただけだと、とても良い能力のような気がします。ですが、何故、意識していないのに、能力が発動したのでしょうか。あの疲労感は何だったのでしょうか。
「ただし、能力を使用した代償として、使用後は、酷い苦痛と疲労感が襲って来る。辛過ぎて身動きのできない程のものがな」
能力を使うのに代償なんているんですね。あんな美しい桜と交換で、あれ程の痛みと疲労感が来るなんて、最悪ですね。ですが、どうして、あの時は無意識に発動したんでしょうか。
「そう焦るな、ゆっくり落ち着いて聞け」
私の焦りを目を瞑っていても察したのでしょう。愛華さんは私をそう諭しました。
「お前のその能力は完全には制御できない。それ故に、他者の大きな感情に近くで触れると無意識に発動してしまう事が有る」
「人の感情で発動、、、ですか?」
自傷の笑みが溢れそうでした。完全に制御できない能力なんて、一切嬉しくないですね。
「あぁ。他者の大きな感情に、だ」
目を瞑り淡々と話していた愛華さんは言い終えて、そっと目を開きました。
「連華、どうして機関の化身のドールは自身の主より一年早く生まれるか知ってるか?」
突然の問い掛けに私は戸惑いました。そんな物考えた事もありませんでした。
「分かりません」
「だよな」
何時までも冷静な表情で愛華さんはそう言いました。
「私達ドールは基本的に自身の主と共に生まれるか、それよりも前に生まれるか、そのどちらかがランダムで決まる。まぁ、確率的には自身の主と共に生まれるほうが高いのだが、それよりも前に生まれるのは、何年前かなんて分からない。数年前なのかもしれないし、何十年前かもしれない。下手したら何万年前だったりするのかもしれない」
普通の国の化身のドールはいつ自身の主が生まれるか分からないのですか?!なら、なら、どうして、私は連盟様がいつ生まれるか、連盟様の後継する連合様がいつ生まれるかを知ってるんですか?
「機関の化身のドールはな、普通のドールが持っているような“ドールの傷”と呼ばれるものが無い。ドールの傷、炎端ならば、感情を表に出しにくい。鈴ならば、足や胸に大きな傷跡がある。いつまで経っても決して癒えてくれない、な」
ドールの傷、、、ですか。確かに、私にはそんな傷跡も、感情の出しにくさも、無いですね。
愛華さんはその話をしている時、少し悲しそうにも見えました。
「機関の化身のドールにはその傷が無い代わりに、強い能力による代償があるんだ。その能力自体もしっかりと制御できない様になっている。もしかしたら、それが“ドールの傷”の一つなのかもな」
そう語った愛華の目は少し苦しそうにも見えました。
「その能力を少しでも制御できないなりに工夫したりする為に、機関の化身のドールは自身の主より一年早く生まれるんだ」
そう言って、愛華さんは私の頭をポンポンと撫でました。その表情はとても優しかったです。
「能力制御のための時間、ということですか」
私がそう再確認すると愛華さんは静かに頷いた。
「私は、どうしたら良いんでしょうか」
絶対にこんな能力なんかに負けたくありません。