「―――――」
「どうかされました?」
「いや、何でもない。君さえ良ければ、これからもマナちゃんのお喋りに付き合ってあげてもらえないかな?」
「でも――」
「私は、マナちゃんを信じてる。明石くん、君のことも。だからよろしく頼むよ」
「はい――」
それからもマナは俺の家に遊びに来たり、職場まで迎えに来たりした。会えない日を思えば、嬉しいし、有り難いことではあるけど、マナと俺を信じている世良さんに心配をかけたくなかった。だから早いうちに、マナとの関係にケリをつけなければならなかった。
「圭ちゃん、こんなとこ連れて来てどうしたの?」
「大事な話があるんだ」
ある日、マナを送っていく途中で公園に立ち寄った。
「どうしたの? 急にそんな真面目な顔して」
「俺たち2人切りで会うのは、もうよそう」
「何言ってんの? 意味わかんないんだけど!」
「わかんなくないだろ! マナは世良さんと婚約してるんだ。俺と2人切りで会ってるのはおかしいだろ?」
「おかしくないよ! 私と圭ちゃんは昔からの友達だよ。会ってお喋りして何が悪いの!」
マナは怒って、持っていたバックを地面に叩きつけた。
「世良さんの気持ちを考えたことはあるのか? 自分の婚約者が他の男と会ってるんだぞ。マナだって世良さんがマナ以外の女性と会ってたら嫌だろ?」
「嫌に決まってるじゃん!」
「だったら、世良さんだって同じ気持ちなんだよ」
俺は地面に転がっているバックを拾い上げると、マナに手渡した。
「私と圭ちゃんは、他の人とは違うでしょ。幼なじみっていうか、特別な関係じゃん。世良さんだってわかってくれるよ」
「特別だって思ってるのは俺とマナだけだ。他の人から見れば俺とマナだって男と女だよ。今はこうして会わせてもらってるけど、少し前までは会ってはいけないことになってただろ?」
「でも、許してもらって今は自由にさせてもらってる」
「世良さんは心から許した訳じゃない。マナに元気がないから――寂しそうにしてたから、マナのために仕方なく許してくれたんだ」
それから俺は世良さんと2人で話した時の会話の内容をマナに聞かせた。
「それじゃあ、もう圭ちゃんと会っちゃいけないの?」
「2度と会えない訳じゃない。少し距離を置くだけだ。これからは世良さんとの時間を大切にするんだ。わかったな?」
「ヤダっ! 圭ちゃんと会えないなんてあり得ない!」
「仕方ないだろ! お前は結婚するんだよ。いつまでも高校生の時のようにはいかないんだよ」
「わかってるけど、圭ちゃんと会えないなんてツラすぎるよ」
「だったら――だったら何で――」
「何? 何が言いたいの?」
「何でもない」
「何なの? ハッキリ言いなよ!」
「言いたくない――」
「言えないんだったら、これからも私と会って話をしてよ。私は圭ちゃんと一緒にいたいの」
「何だよそれ! だったら、何で結婚なんてするんだよ!」
「圭ちゃんが結婚するなって言ってくれれば結婚しないよ」
「―――――」
「圭ちゃん!」
マナは目に涙を溜めて、ただ静かに俺の言葉を待っていた。
「幸せになれよ。俺に言えるのはそれだけだ」
「バカっ!?」
マナは俺が拾ったバッグを、今度は俺に向かって投げつけようとした。でも、なぜかマナは直前で思いとどまった。
「もういい――圭ちゃん、さよなら!」
「マナ――」
マナは振り返ると、目をこすりながらゆっくりと歩き出した。
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