『んー、じゃあぺいんとはこれが嫌だったんだ?』
ふとそう言ったのは黒髪で、身長もみんなよりかは高くて、小学生のくせにかっこよさを持ち合わせていた男の子だった。
その男の子は、俺の名前を呼んでから優しい微笑みでこちらを向く。
それに頷けば、その男の子は俺と向き合っている方に小さな男の子がいた。でも、俺と同じくらいの身長だ。
『ほら、謝って。でも、ぺいんとも謝るんだよ?』
そのように男の子が言うと、また俺と向き合っている男の子は納得のいかない様子で俺の右頬を殴る。
ひどい痛みが走って、ふと目尻から涙がこぼれ落ちた。
『誰がお前なんかに謝るかよ、バーカ!』
殴った彼も、涙を流していて。
俺からすればなぜ相手が泣いているのか意味が理解できなかった。お前は殴られていないだろ。痛くないだろ。辛くないだろ。何で泣いてんだよ。ってね。
でも、その相手の気持ちさえも理解したのは優しく微笑んでくれた男の子だった。
『謝るのって難しいの、よく分かるよ。全て自分が悪いみたいになっちゃって、嫌だよね。』
でも、次の瞬間微笑んだ。
『でも、一生このままでいるのは、嫌だから。』
そう言ったから相手は納得したのか、安心に包まれたのか、泣き出して必死に謝り出した。
正直、その時謝らせた男の子のことを魔法使いか何かかと思った。
だって、キラキラしてたんだ。
みんなよりかは高い身長も、優しい顔も、微笑んだ顔も、相手の気持ちを理解しているところも…。全て、相手が嫌にならないことをしていたから。
こいつは_________ヒーローだ。
……ってね。
でも、その子って誰?
……………
「っ…」
目を覚ませば、深夜の病室の天井が視界に映った。
「夢……じゃ、ない……。」
そうだ。今見たのは夢のようで夢じゃない。実際に体験した記憶だ。
多分、その男の子がトラゾーさんっていう人なんだ。でも、思い出せない。
でかかってるのに、何かに詰まったかのように、何かに引っ張られるかのように出てこない。
「…っくそ!」
病室のベッドから足を立たせ、やっとまともに歩けるようになった足で病室から出ていく。
着替えも、何もせずに。
病院から出れば、外は雨だった。
_______頭が、ズキッと痛くなる。
そうだ。俺が記憶を失う前もその日は雨だった。
あの日、俺は何をしてた?
……というか、どうやって病院にまで行った?暴力を受け続けた後、俺は気を失ったはず。なのに、何で?なんでなんだ。
あーもうわからない!
イライラする!自分が嫌で、嫌いで、辛くて、しんどくて、むず痒くて…。
「なんでだよぉ…」
びしょ濡れになった全身は、ひどく冷たかった。雨に打たれながら、俺は涙を流してただ泣いていた。今こうしている自分も、嫌になるほど______________
「嫌い…って?」
「っ!」
ふと聞こえた男性の方に顔を振り向かせる。その人は傘を俺にさして、こちらを優しいような、苦しいような笑顔で見ていた。
「…………トラゾー?」
ふと、そう呟いてしまった。
そう、あまりにも似ていたのだ。あの小学生の頃の__________いや、違うな。この人なんだ。トラゾーさんという人は、この人なんだ。俺の頭が、そう言っている。
「また考え事か?お前は変わんねーなー!」
眩しいほどの笑顔で、トラゾーさんはそう言った。
「とりあえず、俺の家来なよ。…状況は、しにがみさんとクロノアさんから聞いてるからさ。」
そうして俺は、トラゾーさんの家へとお邪魔することとなった。
……………
整頓された家具たちは、ナチュラルな雰囲気を出していた。
_______懐かしいような、そんな匂いがする。そう思っていると、トラゾーさんは椅子へと腰掛けていた。呑気に飲み物も飲んでやがる。
でも、なんでだろう。
その姿に、変わんねーな。という気持ちが出てきて……。
酷く、心が落ち着いた。
「とりあえず…なんか話す?」
トラゾーさんにそう言われ、相手の向かい側の椅子に腰をかけた。
「…記憶喪失なんでしょ?俺のことは思い出せないでいるって聞いたよ。」
「…はい。」
「…………俺のことは、思い出さなくていいんだ。」
「えっ……?」
ふと、困惑する。
トラゾーさんのことを思い出さなければならない。なぜか少しその気持ちが少し強くなる。
何か、大事なことがある気がするから。
「でもっ…!」
「まずはさ。 」
俺が何かを喋ろうとする前に、トラゾーさんが俺の言葉を遮る。
「…ぺいんと自身のこと思い出さなきゃ。」
「っ!」
ふと、涙が出てきそうになったけど堪えた。
やっぱり彼はわかっているんだ。自分のことを。
そうだ。しにがみさんとクロノアさんと話しているうちにこの謎の胸の苦しさの原因がわかってしまったんだ。
それは、まだ自分のことを思い出せていないからだと。この3人を思い出しても、自分を思い出せなければ多分、彼らを困らせてしまうし、自分も…いい気にはならない。
「…はっちゃけてるって人なのはわかってるんだ…。あとは、君たちに好かれてること…かな?」
そういうと、相手はびっくりした顔の次には笑顔になった。
「…ははは!そうだね!」
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