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最高です!
そこからトラゾーさんは、俺のことをたくさん話してくれた。詳しい詳細も、いつかの思い出も、忘れてはいけない日も…。
俺が卵を爆発させたとか、しにがみくんが企画でやらかした話とか、クロノアさんが遅刻した話とか、箱ラジの話とか、俺が今まで出会った人たち______らっだぁとか、我々だとか…そのおかげか、まだ不鮮明だけど、自分のことを少し思い出せた気がする。
「…なんか記憶取り戻すとあいつらに敬語使ってたのが恥ずかしくなる…。」
「ははは!仕方ないよ!でも、みんなそんなこと気にしてないって!あとでいじられるくらいじゃない? 」
「結局いじられるのかよ!」
「はははっ!」
彼と対話をするのは、久々の感覚だとでもいうように少し楽しく感じた。
…………ただ、彼の話を聞く限り、出てきていない登場人物が1人だけいた。
「………ねぇ、トラゾーさん。」
「……何?」
「……トラゾーさんは、どういう人なの?」
唯一何も知ることができなかった人物________それは、トラゾーさんで。
知りたくて知りたくて、話をしている時からずっとトラゾーさん自身の話をするのを待っていた。…けれど、一言も自分のことなんて話さなくて。
「………うーん。自分で言うのも何だかなぁ…。まぁ、でも…めんどくさい人?w」
「っ……… 」
ふと、口を硬く結んだ。
この人は、自分のことを思い出して欲しくないんじゃないんだ。
________俺に思い出して欲しくないことがあるんだ。
だから、この人はいつまで経っても口を割らない。
「………」
「あっ…もうこんな時間だ。日付変わっちゃってるし…送るよ。」
「………嫌です。」
「……えっ?」
トラゾーさんは歩き出した足を止めた。
「……何で?いなかったら、みんな心配して_________」
「トラゾーさんならわかるはず!!!だって、そういう人だったから!」
「…………やっぱ長い間いるとバレちゃうね〜!」
そうしてトラゾーさんは、優しい顔で、でも辛そうに「いいよ」と言ってまた椅子に腰をかけた。
「大雨の日かな。…ぺいんとは記憶喪失になる前にいじめっ子達、大人数に追われてたんだよ。」
「……」
そうして、トラゾーさんの話を聞く。
……………
『んだよ、何も持ってねーじゃん!』
そう言ったのはいじめっ子達の中のリーダー。
ぺいんとはそう言ったいじめっ子達の隙を見て走って逃げた。
それをいじめっ子達が追いかけたが、トラゾーはその現場を目撃しており、トラゾーも追いかけて最後尾にいたいじめっ子1人を転けさせた。
そうして、後ろからぺいんとを追いかける。
『はぁっ、はぁっ……!ぺいんとー!』
雨に打たれながら、パシャパシャと跳ねる水の音と、地面に強く打ち付ける雨の音がトラゾーの声を掻き消す。
『っ、ぺいんと!!!』
ぺいんとを見つければ、そこにはもう意識がないぺいんとがいて…。
見るに耐えなくなって…。
『……謝れよ!今すぐ!!』
そう大声で怒鳴った。謝れば、まだ少しはいいと思った。
けど、次に吐いた言葉は、まさに人間とも思えない言葉で。
『俺ら悪いことしてねーのに何で謝んなきゃいけないわけ?』
『あっそう…。』
いつもなら相手の心を理解しようと頑張っていた。頑張っていたけど、正確に読み取るなんてことはいっつもできてなくて…。
でも、ぺいんとはわかりやすいからいっつもわかった。
…………でも、今は全くわからない。
相手を傷つけることを、悪いことだと思わない奴らの気持ちが。
そこから、いじめっ子達を追っ払った。
…‥正直、どうやって追っ払ったかなんて覚えてないけど、やっちゃいけないことをしたっていうのは、拳についていた血で気づいていた。
そこからぺいんとを病院まで運んだ。
もちろん、風邪をひかれても困るので俺の上着をぺいんとに巻いて、大雨の中を走ったが。
『はあっ、はあっ、はぁっ……』
体が熱くて、顔も熱い。どうせ風邪だ。
それよりも今は目の前の人を助けなければ。いくらふらつこうが、それだけは絶対にしなきゃならないことだと、頭が言っていたから。
…………………………
「…そしたら、この有り様。」
「なんで…何で言ってくれなかったんだよ?!」
ふと、そう怒鳴ってしまった。
けど、そうだ。しにがみとクロノアさんの言う通り1番思い出さなきゃいけなかったのはトラゾーで、感謝を伝えるべき人も、トラゾーなのだ。
「俺だって、感謝の一つくらいは_____」
「感謝されるのが嫌だったんだよ!!」
「____っ、え…?」
ふとそう言われた言葉に、驚きを隠せずにいた。
「……どういうこと?」
俺の質問に、彼は少しの間沈黙した。