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#異世界往復
黒おーじ
81
上野文
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113
こはる
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ニヴル族の新生活は完全に軌道に乗った。
まず何より魔界トンネル。
魔界との間に産業用トロッコが敷かれ、最終チェックが終わり次第、魔界材木が合衆国経由で共和国に出荷される。
盆地の入植者も増え、地面の平坦化作業が急ピッチで進められている。
俺は農業に適した土地だと思うのだが、大規模な羊の放牧が始まった所を見るに、農作業が行われる日は当面無さそうである。
対王国との揉め事が発生する心配はない。
緩衝帯としてのピエール領は盤石である上に、めぼしい王族はあらかた殺したからだ。
(高橋との約束もあるので、子の居ない老人は生かしておいた。)
デサンタチームがピエール領・共和国へのキャラバンを上手く運用してくれているので、ドワーフも人間種も互いにストレスを感じず貿易出来るようになった。
顔さえ合わせずに済むのであれば、異種族同士も我慢が効くのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(シュシュシュンッ!!)
『ガルド親方、色々とありがとうございます。』
「え?
ガルド?」
『あ、間違えた。
村上さん、すみません。
ちょっとラグっちゃって。』
(シュシュシュンッ!!)
「えっと、何度か聞いた名前だな。
本妻さんのお義父さんだったか?」
『あ、いえ。
その兄にあたる人ですね。
俺がこの1年師事していて、本妻ともその人の紹介で出逢いました。』
(シュシュシュンッ!!)
「おお、そうなのか。
何?
結構マメに面倒見てくれる人なの?」
『そうっすね。
義父よりも親方の方が親密な付き合いをさせて貰ってます。
一緒に旅行したこともありますし。』
(シュシュシュンッ!!)
「ああ、それじゃあ飛田にとって恩人だなあ。
ちゃんと奉公してる?」
『いえ、もっと手伝うべきなのでしょうけど。
障碍もありますし、バタバタもしておりまして…
他の徒弟さんの様に忠勤出来ておりません。』
(シュシュシュンッ!!)
「うーーん。
それは良くないなあ。
オマエなんか新人の年齢だからなあ。
俺が古い人間だからそう感じるのかもだが…
1年目の新人なんて本来は朝から晩まで親方に付いて、必死で仕事を覚えなきゃイカン歳だぞ。」
『はい、仰る通りです。
実は俺以外の徒弟さんは皆そんな感じでして。
正直引け目を感じているんです。』
(シュシュシュンッ!!)
「そうかぁ。
まあ、新人なんて比較されてナンボだからな。
ちょっと待ってろ。
えっと… (ゴソゴソ)
そのガルド氏とお義父さんにこの酒を持って行け。
飲む人なんだよな?」
『ええ、お2人共日本人の基準ではかなりの酒豪です。』
(シュシュシュンッ!!)
「そうか。
口に合えば良いのだが…
ほら、ちゃんと御礼を言うんだぞ。
新婚の時にヘマをすれば、ずっと尾を引くからな。
オマエ1人ならまだいい。
だが、親世代の立ち回りの失敗の所為で生まれて来る子供がギクシャクするのは駄目だ。
そういうケースを俺は嫌と言う程見て来た。
ちゃんと尽くせ。」
『ああ、何から何まですみません。
村上さんには世話になりっ放しで。』
(シュシュシュンッ!!)
「ムラ…? カミ…?」
『あ、あ、間違えた。
親方すみません。
ちょっとラグっちゃって。』
(シュシュシュンッ!!)
「えっと、何度か聞いた名前だな。
トビタの商売の師だったか?」
『あ、はい。
実は俺の後見人も務めて下さっている方で。
この1年勉強させて貰ってます。』
(シュシュシュンッ!!)
「おお、そうなのか。
何?
結構面倒見の良い人なの?」
『そうっすね。
実父以上に濃密な時間を過ごしている気がします。
女遊びとか教わったりね。』
(シュシュシュンッ!!)
「ああ、それじゃあトビタにとって父親代わりだなあ。
ちゃんと孝行してる?」
『いえ、もっと尽くすべきなのでしょうけど。
障碍もありますし、バタバタもしておりまして…
他のお弟子さんの様に孝行出来ておりません。』
(シュシュシュンッ!!)
「うーーん。
それは良くないなあ。
オマエなんか見習いの年齢だからなあ。
俺が古い人間だからそう感じるのかもだが…
1年目の新人なんて本来は朝から晩まで師匠に付いて、必死で仕事を覚えなきゃイカン歳だぞ。」
『はい、まさしく先程同じ叱責を受けました。
あ、その村上専務からです。』
(シュシュシュンッ!!)
「え!?
俺に!? 酒?」
『はい、お義父さんと一本ずつ。』
(シュシュシュンッ!!)
「ああ、それは気を遣わせてしまったなあ。
ヒロヒコ、こういう礼儀挨拶はちゃんと学ばねばならんぞ。
ムラカミさんに不義理だけはせんようにな。
おい、ブラギ!
ちょっといいか。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
高速ワープの弊害なのかミスが増えた。
恐らくワープ能力自体は相当レベルアップしている。
ただ俺の集中力までが向上した訳ではない。
所詮技術なんて使用者次第だからな。
先程、ガルド兄弟から村上翁への贈答品が託された。
ロシア人以外の人間種はドワーフ種が飲む酒を飲めないので、エクスポーションをベースに醸造した薬酒を贈られる。
『村上さん。
師のガルドと義父ブラギからです。』
(シュシュシュンッ!!)
「いやいや、出産前にそんなに気を遣わなくていいのに。
飛田が強要した訳ではないんだな?」
『いえいえ!
そんな事しませんよ!』
(シュシュシュンッ!!)
ここは橋本コージの部屋。
リビングで男3人、ガルド兄弟の薬酒を少しだけ口にする。
俺や橋本にはキツいのでお湯で割ったが、村上翁はロックで飲み干してしまった。
「いや、結構いいかもな。
ほんのり身体が火照る酒はいい酒だ。
後味も悪くない。」
『割っても濃いですね。
俺はもう少しお湯を入れます。』
(シュシュシュンッ!!)
「そうだな。
若いうちは無理をするべきじゃない。」
「飛田君。
出産日って明日だっけ?」
『ええ、そうです。
この後、またシュンシュンします。』
(シュシュシュンッ!!)
「ああ、アレはいいアイデアだね。
両方の顔が立つ。」
『目がチカチカするってクレームが来ましたけどね。』
(シュシュシュンッ!!)
「いやあ、仕方ないよ。
出産前の女の人は気が立ってるしね。」
『ええ、程々にします。
もっと相手の死角から回り込んで、灯りとの直線状に立たないように…』
(シュシュシュンッ!!)
「いやあ。
飛田君はテクニカルに偏りすぎ。
もっとシンプルに行かなきゃ。」
『え?』
(シュシュシュンッ!!)
「女の子って理屈でアプローチしても逆効果だからさ。
もっとエモーショナルに行こうよ。
折角ワープ出来るんだからさ。
パッと相手の前に出現して、優しく手を握ってあげて愛を込めたキス。」
『えー!?
いやいやいや、俺のキャラじゃないっすよ。』
(シュシュシュンッ!!)
「飛田、橋本社長のアイデアには俺も賛成だ。」
『もー、村上さんまで。
少女漫画じゃあるまいし。』
(シュシュシュンッ!!)
「いやあ、少女漫画も馬鹿に出来んぞ?
要はああいうのって女側の願望な訳じゃない?
元手も掛からず好感度が稼げるんならコスパいいよ。」
『なるほど!
コスパはいいですね!!
キスにはカネが掛からないですからね!!』
(シュシュシュンッ!!)
「ははは、飛田君は本当に商売人だなあww」
「橋本社長、コイツはカネの話をしてると機嫌がいいんですww」
『もー、2人共勘弁して下さいよぉww』
(シュシュシュンッ!!)
「「あっはっはっは!!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
提案を受けた時は馬鹿々々しいと感じたが、冷静に思い返すと悪くない手かも知れん。
ただでさえ俺は外出が多く彼女達との時間を作って来なかったからな。
特に戦闘モードに入った時などは、血を洗い流す用事でしか戻らなかったので、エヴァからも沼袋からも苦言を呈されたものである。
『キスかぁ…
柄じゃねーんだよなぁ。』
(シュシュシュンッ!!)
1人呟きながら溜息を吐く。
そりゃあね。
アニメや漫画では、キスシーンも我慢して見れるよ。
ただなあ、自分が当事者になるとなぁ。
(シュシュシュンッ!!)
実はな?
ここだけの話、俺はキスがあまり好きではない。
むしろ嫌いだ。
例え相手が美女であっても不潔感を感じてしまうのだ。
だって口って物を食べる器官だろ?
それ同士をくっつけるとかキモいよ…
でも、女からしたら大切なものらしい。
そうなのだ、村上翁も言っていたが…
女にとってキスは重要な儀式らしいからな。
大切にしているポーズだけでも見せておくべきか…
『はぁ…』
(シュシュシュンッ!!)
胃が痛くなる。
でもまあ、もうすぐ子供が出来るしな。
ある程度機嫌を取っておく必要はあるか…
生まれてから当分は女の心労半端ないって言うしな…
『ふー。』
(シュシュシュンッ!!)
最後に深呼吸。
これなら殺し合いをしている方が遥かに楽である。
でも仕方ないか…
これも仕事のうちだ。
よっし、一丁やってやるか。
確か突然現れて手を握ってキスの手順だったか。
(シュンッ!!)
『ワープ!
そして間髪入れずにキスッ!!!!』
ぶちゅうううううううううう。
「おぎゃ?」
あ、間違えた。
間違えてチャコちゃんにキスしちゃった。
やっぱり集中力弱ってるなぁ…
さぁ、お産の立ち会いに戻るか。
シュンッ!
コメント
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第140話、読み終わりました!「あ、間違えた」の連発が笑える一方で、ガルドと村上さんを呼び間違えるパターンが繰り返されることで、飛田さんの焦りや集中力の低下がじわじわ伝わってきました。最後のチャコちゃんへのキスには思わず声が出ましたね…「おぎゃ?」で全部持っていかれました。キス嫌いなのに「これも仕事」と割り切る主人公の心情も、なんだか憎めないです。