テラーノベル
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私はモンスター化した領主を倒した。 しつこく倒した。
その後──街で盛大な宴が行われた。
領主のお金で。
奢ってくれるって言ったしね?
たしか、八発目くらいで。
*
「あっはっはー! 酒よー! お酒を持ってきなさーい!」
私は上機嫌で街の人々とお酒を飲んでいた。
「お姉ちゃん! 飲み過ぎだよー?」
エスト様がジュース片手に嬉しそうにはしゃぐ。
「酔った勢いでサクラさんに密着せねば!
どさくさに紛れて膝枕を……!」
辰美が鼻息荒く、何やら企んでいる。
「いやぁ……あははははは」
ジルは街の人々と楽しそうに会話している。
わー! わー!
宴会場のあちこちから歓声が上がる。
私の周りには既に大勢の人が集まっていた。
「この鬼の姉ちゃん! 酒強すぎだろーw」
赤ら顔の男が驚きの表情で叫ぶ。
「わははははは!」
周りの人々も一斉に笑い声を上げる。
「でも!“ぺったんこ”だよな!」
別の男が私の胸を指差しながら言った。
ズガッ!!!
地面に激しい衝撃音が響き渡る。
私は無意識のうちに、
その男をドラゴンスクリューで地中に埋めていた。
笑顔のまま。
わー! わー!
宴会場のあちこちからさらに歓声(と悲鳴)が上がる。
*
そして──
広場の端で、街の子供たちが私の真似をして遊び始めていた。
「オラァァ! ドラゴンスクリュー!!」
「ぎゃー! 地面にめり込んだぁぁ!」
子供が泥に顔からダイブする。
「次は僕が天の声役やるー!《サクラは必殺スキルを発動した!》」
「\\ ドラゴンスクリュー //」
子供たちが口々に叫ぶ。
「ははは!お前らやめろー!」
大人たちが笑いながら制止する。
「……ふふ、私のDNAが、受け継がれていく……」
私は酒をあおりながら、誇らしげに呟いた。
「サクラ様の必殺技!《ステータスオープンッヌ!》」
「「ぺったんこぉ〜♪」」
子供たちが無邪気に叫ぶ。
「お前らやめろぉ!? 命が惜しくないのか!?」
大人たちが顔面蒼白で止めに入る。
「…………」
私は無言で、悲しげに俯いた。
手元のグラスにはヒビが入っていた。
*
……だが、その輪の中にいない者が一人だけいた。
辰夫だ。
少し離れたところで、辰夫が静かに立っていた。
彼は右手にグラスを持ち、水を少しずつ飲んでいる。
左手は軽く握り締め、時折震えているようにも見えた。
彼の瞳に宴会の灯りが映り、複雑な表情を浮かべていた。
辰夫の持つグラスに月が映り込んでいた。
その月は驚くほど美しく、
まるで水面に浮かぶ宝石のようだった。
時折、辰夫の目から零れ落ちる涙がグラスに落ち、
月の形を歪ませる。
しかし、すぐにまたその美しい姿を取り戻すのだった。
……何度も。
そう……何度でも……。
辰夫はその光景に心を打たれ、
何か大切なことを決意したかのような表情を浮かべた。
彼の目に決意の光が宿り、
肩の力が抜けていくのが見て取れた。
──そして。
辰夫はついに決意を固めたのだった。
──それは、魔王軍を辞め、次に進むべき場所……”ハローワーク”に行くことだった。
「書こう……履歴書とやらを」
(*注:この人は竜王 = 竜の王様です)
*
──後日。
辰夫は履歴書を前に三時間ほど悩んでいた。
「……職歴欄に『竜王』と書いて良いのか……?
いや、これは役職か? それとも種族か?」
辰夫がペンを握りしめて唸る。
「資格欄に『黒炎使用可』『竜族語ネイティブ』『忠誠心MAX』
……これではもうモンスターですな……」
《天の声:資格ではなく”ステータス”だし、モンスターだ》
「資格欄に『主君への絶対服従』……うむ、これは良いかもな……」
《天の声:いいえ。労基が来ます》
「……自己PR……
”千年忠誠を尽くしました。24時間働けます”……これは……」
《天の声:過労死一直線の社畜です》
「くっ……!前職の退職理由……『キャリアアップの為』
……いや、嘘は書けませんな」
《天の声:いや、それは模範解答だぞ。書け》
「……しかし本心ではない……
『上司のしつこいパワハラに耐えられず』
……これが真実ですな……」
《天の声:真実でも書くな。採用されない》
「……あとは『卵と石が飛んできて心が折れたから』……」
《天の声:それも書くな》
「……趣味の欄に”洗濯”と書くのは、どうか……」
《天の声:竜王の趣味が洗濯。どういう人生歩んできたんだ》
「……千年の積み重ねですぞ……」
《天の声:……そうか。重い……な》
「名前は……リンドヴルム……いや、辰夫で良いな」
《天の声:サクラに魂まで支配されてるな。退職じゃない。脱出しろ。》
この日、結局一文字も書けなかった。
ただ、紙の端に「助けて……ですぞ」とだけ薄く刻まれていた。
──いつの日か、辰夫はサクラから「マグロが儲かる」と聞き、
マグロ漁船に乗る──が、その話はまた別の機会に。
*
その日の深夜。
泥酔した私は、ジルの家の客間(女子部屋)で爆睡していた。
スゥ……スゥ……
するとその時……
頭の中に、無機質な天の声が響き渡った。
【ピロン♪】
【体内のアルコール濃度が致死量……いえ、規定値に達しました】
【条件達成を確認】
【サクラは、種族【鬼人】から、ユニーク種族【酒呑童子(シュテンドウジ)】へと進化します】
「ん……進化?……むにゃむにゃ……
……あと一杯だけ……ん……」
私は目を閉じたまま、
わずかに眉をひそめながら寝言を呟いた。
その後、私は完全に意識を失い、
深い眠りに落ちていった。
身体が、ほんのりと赤いオーラに包まれていくことを知らずに……。
(つづく)