テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第五章 封じられた真実
第九話 禁書庫
数日後、三人は再び太陽教会を訪れていた。
昼間とは違う、祈りを終えた教会は、暗く静まり返っている。
長い回廊には、淡い燭台の火だけ。
足音が、やけに大きく響いた。
先導しているのは、白い法衣を隠すように黒いローブを被った男、クラウスだった。
「……本当に、行くんですか」
声が震えている。
ラスタが苦笑する。
「ここまで来て帰る方がおかしいやろ」
クラウスはまだ迷うように目を伏せた。
「今夜は、大神官様達、教会幹部の方々が外出されています」
「ですが、長くは時間を取れません……」
地下へ続く隠し扉は、礼拝堂裏の古い壁画の奥にあった。
太陽神を描いた巨大壁画。
その裏へ手を掛けると、重たい石音と共に壁が開く。
暗い階段、冷たい空気。
まるで、地の底へ続いているみたいだった。
アクセルはランプを掲げる。
「行こう」
階段を降りる度、空気が重くなっていく。
湿った石壁。
古い紙の匂い。
そして、ラスタがぴたりと足を止めた。
「……何や」
クロードが振り返る。
「何がだ」
ラスタは暗闇を見つめていた。
「重たい……嫌な感じや」
クラウスの顔色が変わる。
アクセルも顔を曇らせる。
静寂だけが広がる。
なのにラスタは、確かに何かが感じ取れていた。
「……こっちや」
ラスタは導かれるように、奥へ歩き始めた。
やがて、巨大な鉄扉が現れる。
古びた紋章。
そして扉には、こう刻まれていた。
『禁書保管区画』
アクセルの目が細まる。
「やはり……」
クラウス震える手で鍵を差し込む。
重たい音。
ゆっくり開く扉。
その先に広がっていたのは、膨大な書物だった。
壁一面の本棚。
封印された羊皮紙。
鎖付きの古文書。
空気が違う。
ここだけ時間が止まっているようだった。
ラスタが小さく呟く。
「……ここや」
アクセルは、最も奥の古い棚へ近付いた。
桜城
308
#恋愛
ばたっちゅ
20,038
#ファンタジー
comi
4,692
そこには
『三百年前 特級禁書』
そう記された区画。
アクセルは、一冊の本を手に取る。
『尋問記録』
ページを開く。
そこには、淡々と一問一答が綴られていた。
『名を名乗れ』
『わからない』
『何者だ』
『わからない』
『目的は』
『闇を還す』
アクセルの鼓動が、強く鳴る。
さらにページを捲る。
『なぜ魔物を呼ぶ』
『呼んでいるのではない、集まるだけ』
『なぜ人を襲う』
『襲っていない』
『お前は人なのか』
『わからない』
アクセルの指が止まる。
理解できない。
答えになっていない。
けれど、嘘をついているようにも思えなかった。
その隣では、クロードが別の書物を開いていた。
『観察記録』
魔導師達による、少女の調査記録のようだ。
『極めて高濃度の瘴気反応』
『夜間、周辺瘴気を吸収』
『少女周辺では魔物活動停止』
『感情表現は乏しい』
『しかし近頃、人間的情緒を学習している様子あり』
クロードの目が、静かに揺れる。
そしてラスタが、棚の奥から一冊を引き抜いた。
分厚い、古びた茶色い表紙。
題名はない。
だが開いた瞬間、ぶわり、と何かが流れ込むような感覚がした。
「っ……!」
ラスタは顔をしかめる。
震える指でページを見る。
そこに記されていたのは。
『幽閉塔事件記録』
参加兵士名。
戦況。
被害状況。
討伐記録。
そして。
『討伐対象――月蝕の子』
空気が重く沈む。
ラスタは震える声で呟いた。
「この本……」
真紅の瞳が、本を見つめる。
「何か他と違う……」
クラウスが息を呑む。
「え……」
クロードが静かに本へ触れる。
冷たい。
けれどその瞬間、背中を這うような違和感が走った。
まるで、三百年前の夜がそのまま、この場所に眠っているかのようだった。
コメント
1件
読み終えました。禁書庫の空気感がすごく細かく描かれていて、湿った石の冷たさや古い紙の匂いまで伝わってくるようでした。特に「闇を還す」という謎の返答にアクセルが戸惑う場面が印象的で、はっきりしない答えなのに嘘っぽくないという違和感が、読んでる側にも同じように残りました。最後の「月蝕の子」という単語で一気に物語が動き出しそうですね…続きが気になります🌷