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「……痛い。でも、もっと」
カッターの刃が指先をかすめる。
ぷつり、と赤い雫がこぼれ落ち、バッグの中の人形に吸い込まれていく。
不思議と、痛みはすぐに引いた。
代わりに、スマホの画面に「当選」の文字が躍る。
ずっと欲しかった限定品のバッグ。
倍率は数百倍だったはずだ。
それだけじゃない。
私が指を切った瞬間
廊下で「ああっ!」という悲鳴が上がった。
さっき私に嫌味を言いに来た別の部署の女が、ドアに指を挟んで爪が剥がれたらしい。
「ふふ、あははは!…最高じゃん」
私は誰もいない給湯室で、声を上げて笑った。
快感だ。
自分で自分を少し傷つけるだけで
嫌いな奴には倍以上のダメージが行き、私には極上の幸運が舞い込んでくる。
(世界は、私のために回ってる)
私は人形をバッグから取り出し、鏡の前に掲げた。
……でも
人形の肌が、以前より少しだけ「生々しく」なっている。
白かったはずの頬に、ほんのりと赤みが差し、まるで生きている人間のような質感を帯び始めている。
「あなたも、お腹が空いてるのね」
私はその日、わざと赤信号の横断歩道に足を踏み出した。
大型トラックが、猛スピードでこちらに向かってくる。
クラクションの轟音。
死の恐怖が全身を駆け巡った……その瞬間。
ドォォォン!!
私の目の前で、トラックが急ハンドルを切り、対向車線の高級外車と正面衝突した。
火花が散り、ガラスの破片が雨のように降り注ぐ。
私は、無傷だった。
舞い散る破片の中で、私はただ一人、立ち尽くしている。
トラックの運転手が血を流して窓から身を乗り出し、助けを求めているのが見えた。
でも、私の目に入ったのはそれじゃない。
衝突した高級外車から這い出してきたのは、私を派遣切りしようとしていた人事部長だった。
「……ざまあみろ」
私は小さく呟き、バッグの中の人形をぎゅっと抱きしめた。
人形の体温は、今や私自身の体温よりも高く、ドクン、ドクンと力強い鼓動を刻んでいた。
8
えれめんたる