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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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絶え間ない痛み。

朦朧とした意識が、だんだんとはっきりしてきた。


どこからだろう。

くぐもった悲鳴と懇願が、何度も繰り返される。


頭の中で何かが蠢く感覚と、人が焼ける臭い。


ふと、見回すと。村が燃えていた。


「やめて、やめて。あああ、ああーー!」

「これ以上、ころさないで」

「俺達が、俺達が何をしたって言うんだ!!」


何と言うことだ。

オークに村が襲われている。


私は聖堂騎士団、副団長。リズ・ロズマリアだ。


神の名において、正義を執行しなければ。


そう思って、剣を取ろうとしたが両手が塞がっている。

何を持っているのかと思って見てみれば、年若い夫婦の生首だった。


そういえば、私は全身血まみれだ。

これはどういうことだ?


「父さん、母さん。ああ……」

「ああ、神様。どうか妹をお救いください」


焼け落ちた家の壁を背に、追い詰められたように子供が祈っている。

見ればこの夫婦の首と、とてもよく似た顔立ちだ。


瞬間、脳に記憶がよぎる。

私はオーク達を引き連れて、この村を襲った。


オークは村人を殺し、犯し、その肉を村人に食わせた。

そして、あろうことか、私もそれに加担した。


罪もない夫婦の首を刎ね、子供達に突きつけて遊んでいたのだ。


神に正義を誓った私が、何故こんなことをしている?

何も思い出せない。


どうしてこうなったのだ。


これは夢だ。

私はこんなことはしない。


夢なのだ。

早く、早くあのまどろみの中に逃げなければ。


私は何かを知りながら、忘却しようとしている。

しかし、何を忘れようとしているのかも、思い出せない。


考えることを止めて、忘れてしまえば、楽になるのだろう。

それは間違いなさそうだった。


意識が朦朧とし始めた矢先。


ずきりと、左腕が痛んだ。

手首の内側が焼けるように痛い。


夫婦の首を無造作に手放す。

目の前で子供が怯えたが、不思議と気にならない。


そんなことより腕だ。

袖をずらしてみると、腕の肉が削がれ、文字になっている。


(これは、古ルクス語?)


一般には普及していない、教会に伝わる聖文字だ。


そこには『これは夢ではない』と刻まれていた。


さらに、肘の裏に『逃げるな』と刻まれている。


何だ、これは。

朦朧とする意識の中で思い出す。


これは自分でやったことだ。


左にあるということは右にもあるだろう。

右手首を見ると『胸の、奥、書け』と途切れ途切れに刻まれている。


かなり強く刻んだのか、腕が壊死しかけていた。


右の肘裏には『届けろ』とある。


懐の奥、服と肌の間に紙のようなものが挟まっていた。

汚い血で汚れた、おびただしいほどの聖文字。


そこにあるのは、私の懺悔だった。

近隣の村々で私はあらゆる罪悪を成していた。


絶望と後悔が、徐々に激しさを増しながら、殴り書かれている。


見たくもない現実を突きつけられた私は、気が狂いそうになった。

いや、もう気が狂っている。


もう何度目かわからないが、それをまた自覚したに過ぎない。


自分自身に吐き気を催しながらも、何故か私は聖文字を読み続ける。

確かに書いたはずだ。なぜないのだと。


何を書いたかも思い出せないのに、探し続ける。


「あ、あ、あっったた」


それは、酷く汚く、そして大きく書かれていた。


この惨劇の首謀者の名。

この暴動の意図。


帝都を攻める順序。

想定される戦術、武装、魔法。


漏洩している戦術と魔法。

それに対する対策。


そして、最後に。

誰か知らない人の名前。


「アーカード……? だ……れ、だ?」


わからない、わからないが。

とにかくこの男に、これを渡さねばならない。


あの屍の丘を越えて、あの罪人に渡さねばならない。

私が正気でいる時間はとても短い、この記憶もどれだけ保つか。


脳の奥で虫が蠢く。

私の記憶を操作しようとしているのだ。


忘れてなるものか、甘き忘却に身を投げてたまるものか。

考えることをやめてなるものか。


私は聖堂騎士だ。


数多の罪に塗(まみ)れ、どれだけ死と絶望を振りまいても。

それでもなお、正義の為にできることがあるはずだ。


理由はわからないが、それだけは確かなことだ。


月夜の晩。

記憶の底で、酒瓶二つがカツンと鳴った。


目の前では、私に両親を殺された兄妹が震えている。


「た、たのみ゛がある」

「これ、ここ。これを、帝都の、あーかードにに」


私は紙束を渡す。

渡すというより、押しつける。


「にげ、にに、にげろ」

「わ、わたじは、もう。もだない」


私がこの幼い兄妹にしたことを思えば、こんなことを言える義理ではない。

だが、過去に悪事を成していても、やらねばならぬことがある。


「だのむ゛む」

「アーカード、に。ごれを゛」


きっと、虫に食われた私の顔はおぞましいのだろう。

兄妹は恐怖に駆られていた。


それでも、二人は紙束を受け取り。こう言った。


「はい、女神ピトスの名の下に」


怯え、竦みながらも、力強く輝いている。

私は、私はこの瞳を知っている。


これは信仰を知る者の瞳。

窮地にあって、正しさを忘れぬ者のまなざしだ。


聖堂教会の信仰はこの村にまで届いていたのだ。


でなければ、聖文字を見て顔色を変えることもあるまい。


神よ。

感謝いたします。


兄妹を連れ、燃え上がる村を歩き。

茂みの森に近づくと、オークに何か叫ばれた。


何か怒鳴っているが、何を言っているのかわからない。

私は朦朧とした意識のまま、剣を抜き、残忍な笑みをしてみせる。


思い出せ。

拷問の愉悦を、悲鳴を心地よいと感じる心を。


己の中の邪悪を肯定しろ。

正義の為に今一時、私は悪と成るのだ。


私の顔を見たオークがにまりと笑う。

きっと、いい表情をしていたのだろう。


ああ、なんだ。そういうことか。

お前の愉しみを奪いはしないさ。


今夜は死の宴だ。

存分に痛めつけ、陵辱するがいい。


おそらく、そのようなことを言い放って、オークは去った。


これで安全だ。

さあ、お行きなさい。


私にできることはこれくらいだ。


「あうあ、ひ。ぐ、あばあ。う……だ」


虫が麻痺毒を流しているのか、口が回らなくなっている。

それでも兄妹は頷いて、森の中を走って行った。


私はこれからあらゆる悪辣を成すだろう。

痛みと、絶望の日々がやってくる。


それでも私はその中で、成すべきことを成すだろう。

奴隷商人~今更謝ってももう遅い。お前が虐待していたロリ奴隷はオレが全員買い取った。

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