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翌朝。
いつものように賑やかなはずの朝食の時間――なのに、今日はシェアハウスに沈黙が広がっていた。
真理亜は感じていた。
みんなが、言葉を選んでいる空気を。
流星は俯いたまま食卓につき、誰とも目を合わせようとしなかった。
恭平は珍しく黙って箸を動かし、丈一郎や駿佑もぎこちない。
そして、静けさを破ったのは、謙杜の一言だった。
謙杜:「……なあ、これって、ほんまに“友達”の仕業なん?」
全員が一斉に顔を上げる。
謙杜:「流星、さ……自分のことばっか守ろうとして、俺らのこと考えてなかったんちゃう?」
真理亜:「謙杜くん……!」
真理亜が止めようとしたが、謙杜は言葉を止めなかった。
謙杜:「“シェアハウスごと晒す”とか言われてさ。俺ら、なんもしてへんのに危険にさらされてるやん。そのこと、ちゃんと考えてた?」
流星:「……それは……」
流星の声はかすれていた。
謙杜:「もちろん、辛かったんやろうとは思う。でもな、それを黙ってたら、俺らにも被害が来るんや。それに……」
謙杜の声が震える。
謙杜:「正直、俺もSNSで叩かれたらどうしようって、怖くてたまらん」
その言葉に、流星は、初めて謙杜の目を見た。
流星:(あぁ、俺だけじゃない。みんな、それぞれに不安や恐怖を抱えてたんや)
流星はそっと立ち上がると、深く頭を下げた。
流星:「……ごめん俺、自分のことばっか考えてた。“被害者”やって思い込んで、周りが見えてなかった。でも、本気でみんなを巻き込む気なんてなかった。守りたかってん、ほんまは」
静かに泣いていた。
流星:「でも……ほんまに、怖かってん。SNSで“消えろ”って言われたとき、“もしかして、みんなもそう思ってるんかな”って、疑ってまう自分もいて……そんな自分が、もうイヤで……!」
その時――
丈一郎:「流星」
丈一郎の落ち着いた声が流星の涙を止めた。
丈一郎:「お前が悪いわけちゃう。ただ、黙って苦しむのはもう終わりや。ちゃんと顔を上げて、一緒に戦おう。俺らは敵じゃない。――味方や」
流星:「丈くん……」
和也も、そっと言った。
和也:「俺も最初、巻き込まれるの怖かった。でも、りゅちぇがひとりで傷ついてたのに、気づかれへんかった俺らにも責任あると思う」
駿佑は笑いながら言った。
駿佑:「まあ、りゅちぇが悪いってより、そいつ“樹”ってやつがやばすぎやな。早く正体バレて謝罪させてやりたいくらいやわ」
そこへ、ちょうど丈一郎のスマホが鳴った。
丈一郎:「……出てええ?」
着信主は、真理恵だった。
真理亜:「うん、出て」
丈一郎が応答する。
数十秒の通話の後――
丈一郎:「……来た。犯人、確定や」
全員が息を呑む。
丈一郎:「投稿アカウントは、田中樹のスマホからやった。位置情報、投稿時間、スマホの端末情報、全部一致。しかも“流星と中学時代に仲が悪化した元親友”って証言も、警察側に届いてる」
真理亜:「つまり……犯人は、流星くんの元親友だったんやな」
真理亜が静かに呟いた。
流星の手が震える。
流星:「……俺、会ってくる」
7人:「えっ!?」
みんなが驚く中、流星は言った。
流星:「ちゃんと、“自分の言葉”で聞きたい。なんであんなことしたんか。逃げたくない。……もう、演じるんはやめるって決めたから」
その目は、もう俯いていなかった。