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浴衣に着替えた二人は、離れが随所に散らばっている敷地内を、少し散歩してみる事にした。
予想以上に広大な離れのエリアには、所々に小さな和風の庭園や池、四阿があり、笹で囲まれた小径が張り巡らされている。
二人が泊まる離れの部屋から、一番遠い場所に、露天風呂があるようだった。
「ねぇ。敷地内の露天風呂に入ってみる?」
「いや、ああいう露天風呂って、多分、男女別だろ? 俺は離れにある露天風呂がいい。その方が、すぐにエ──」
「何が言いたいか分かるから、言わなくていいよ」
拓人の言葉を強制終了させ、優子が口を挟むと、男はククッと揶揄うように、ほくそ笑んだ。
敷地内を散策し続けていると、たまに男女のカップルと遭遇する。
セレブリティ同士と思わせるカップルや、四十前後くらいの紳士と二十代半ばくらいの女性の、訳がありそうなカップル……など。
離れの温泉宿は、密会や逢瀬をするには都合がいいんだろうな、と優子は漫然と考えていた。
「まぁ……こういう離れの宿は、ワケありの男女には、打ってつけの場所だよな。俺らも、ある意味ワケありだけど」
「まぁ……そうだよね。私とアンタの場合は、身体だけの関係だし。っていうか、こんな高級な温泉宿じゃなくても良かったんじゃない?」
彼女がフイッと男から顔を逸らすと、色白の指先が、筋張った手に握られた。
「…………まだ、そんな事を言ってるんだ?」
「だって事実でしょ?」
二人の視線がかち合い、拓人が踵を返すと、来た道を戻り始めた。
「ねぇ。敷地内で散歩するんじゃなかったの?」
「いや…………急遽取り止めだ」
男は、優子の腕を強く引き、二人が宿泊する離れのある方向へ足を運ぶ。
(なっ…………何よ、いきなり……)
引きずられているように歩く優子の足が、時折石畳の溝にはまり、転びそうになってしまうけど、男は優子に気を留める事なく、歩幅を大きくさせた。
「ちょっ……歩くの速すぎだし!」
文句を垂れる彼女だったけど、墨黒の男性用の浴衣に身を包んだ拓人の背中が、意外にも広く、逞しいな、と思う。
細身ではあるけど、男の均整の取れた肉体に、何度抱かれたのか分からない。
出会った頃は、男に凌辱される抱かれ方をされても、彼女の身体は、女としての悦びを感じ、快楽に溺れていた。
けれど今は、男に対して、少しずつ好意的な気持ちが芽生えている事もあり、拓人が何を思って優子を抱いているのか、口に出したら、居心地が良くなってきた関係が崩れていくのが怖くて、言葉を出せずにいる。
思考の迷宮を彷徨っているうちに、拓人が格子戸を開けた音で、彼女がハッとした。