テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「つがい化、事実ですか?」
「お相手の方は一般女性?それとも芸能関係?」
「お二人の交際期間はどれくらいですか?」
──その日、ミンジュの携帯に一斉にかかってきた非通知の着信。
SNSの裏アカウントと思われるDMは既に数百件を超えていた。
《お前なんかにグクは似合わない》
《身の程を知れ》
《グクが可哀想》
──どれも、痛烈な嫉妬と敵意を孕んだ言葉だった。
彼女は有名人ではない。
けれど、SSクラスのDomの「つがい」になった瞬間、その存在は“注目の的”になっていた。
⸻
「……大丈夫じゃないけど、大丈夫って言うしかないんですよね」
控室で静かにモニターを眺めながら、ミンジュは呟いた。
ジョングクのパフォーマンスは、今日も完璧だった。
ただ、彼女の目に映るその背中は、どこか痛々しいほどに張り詰めていた。
「ヌナ」
本番後、ジョングクがすぐに控室にやってきた。
彼は彼女の顔を見た瞬間、その不安を察した。
「無理してるの、わかります。俺のせいで、ヌナが……」
「ちがう。グクのせいじゃない」
「でも、守れてない。
今、ヌナの笑顔が減ってる。──それが一番、つらいです」
彼の声は低く、どこか震えていた。
ミンジュは小さく首を振った。
「……私ね、ほんとは今すぐにでも隣を歩きたい。つがいとして、堂々と。でも」
彼女はスマホを見せた。無数の通知。
「現実が、追いついてくれない」
⸻
その数日後、事務所との面談が行われた。
ナムジュン、ジン、そしてジョングクとミンジュ。
事務所代表は、静かに言った。
「我々は、お二人のつがい化を否定しません。ですが、“今”ではありません。
グループの活動、ブランド、そしてジョングクさんのファン層への影響を考慮すると──
つがいの公表は、“一時的に伏せていただきたい”」
それは、理解できる申し出だった。
でも、ミンジュは俯いた。
「つまり、私は“存在しないもの”として扱われるんですね」
「そういうわけでは──」
「いいえ。わかってます。私もこの業界、長いので」
静かに席を立とうとしたそのとき、ジョングクが口を開いた。
「僕は、黙認しません」
全員が彼を見た。
「たとえ公表しなくても、彼女が“ここにいる”ことを無視するようなやり方は、僕が納得できない。
僕は、つがいとして、ミンジュヌナを守ります。隠さない方法で」
⸻
会議後、ふたりきりになった帰り道。
「グガ……」
「ヌナは俺のつがいです。誰にどう言われても、それは変わらない。
だったら、俺が世界の見方を変えます。ヌナが“消されないように”」
その言葉に、ミンジュは思わず涙を零した。
「ほんとに……強くなったね、グガ。昔よりも、ずっと」
ジョングクはその涙を指でそっと拭った。
「俺が強くなれたのは、ヌナが俺を選んでくれたからです。
誰かの“もの”じゃなくて、“つがい”として、堂々と生きていきましょう。俺と一緒に」
⸻
その数日後、ジョングクはSNSに控えめな一文を投稿した。
「俺にとって“つがい”は、奇跡みたいな存在です。
でも、奇跡は誰かの犠牲の上に成り立つべきじゃない。
どうか、静かに、見守ってください。」
名前も、写真も出していない。
でもそれを読んだファンの大多数は、“理解”した。
そして徐々に、ミンジュの元にも《応援してます》というメッセージが届くようになっていった。
少しずつ、でも確実に。
ふたりの歩む道が、“現実”の中で形になっていく──そんな予感があった。