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来店した理由は、「もう一度会いたいな」だった。
人気のネイルサロンで施術して、梨那はホストクラブに行った。
「ようこそ、姫様」
桜志郎は、最高の笑顔で梨那を歓迎した。
「今日のネイルも素敵ですね」
梨那がアピールしたい場所を、真っ先に褒める。
これだけで〈女の気持ちが高揚する〉ことを、桜志郎は知っている。
梨那は桜志郎の『担当』になった。
ホストクラブの『担当』は「永久指名制」。
桜志郎が店を辞めるまで関係が続く。
だが梨那は工場で働く普通の女だ。
給料の範囲内でホストクラブに通った。
週末は混むので、来店は平日に週1回。
酒はグラスでオーダーした。
梨那は両親の〈依存体質〉が大嫌いだった。
激しく喧嘩しても離婚せずに依存しあう姿に、吐気がした。
ところが、梨那は桜志郎に〈依存〉した。
「桜志郎がいないと生きていけない!」と思うようになった。
ホストは客の心を支 配《コントロール》する。梨那は桜志郎にハマった。
ホストにハマる女性は、『担当』のために金銭感覚が崩壊する。
[給料の範囲内]から[貯金を切り崩して]になり[借金してでも]になる。
高卒で就職して5年間で貯めた貯金が、瞬く間に無くなった。
今月はカードの支払いが限度額に近い。
「お金が無いから来れない」という梨那に、桜志郎は涙を見せた。
「もう会えないなんて、悲しいけど、仕方ないですね」
寂しいと泣く桜志郎は、捨てられた子犬に見えた。
桜志郎は指名客に呼ばれて、梨那のテーブルを離れた。
するとヘルプのホストが、意外なことを言い出した。
「夜のお仕事なんて、どうですか?」
ホスト通いで借金をして〈副業〉を始める女性は多い。
「キャバクラでバイト」が定番だ。
梨那は、顔に劣等感があるからキャバ嬢は無理だと思っていた。
だがヘルプは、別の業種を勧めてきた。風俗だ。
「梨那さんはスタイル抜群だから、メチャクチャ稼げますよ」
「お店、紹介しましょうか? もちろん桜志郎さんには内緒で」
桜志郎とヘルプの[連携プレー]だった。
桜志郎から「風俗に行け」とは言えないから、ヘルプを使う。
子犬のように泣いたのも、もちろん演技だ。
梨那は桜志郎を見た。
他の女のテーブルで楽しそうに話している。
(もっと桜志郎と会いたい!)
(他の女に負けたくない!)
梨那に「独占欲」と「対抗心」が生れた。
ホストはこれを引き出すのが上手い。
梨那は風俗店に入店した。
コンプレックスだった母親似のダイナマイトボディは、客に大人気だ。
工場で働く数倍の金が稼げた。
その金のすべてを、桜志郎のホストクラブで使っている。