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三千万円を取り返され、〈切り札〉の毒薬は消滅した。
「あの女に、稼がせて貢がせるしかない」
桜志郎はマンションに向かった。
尾行していた幽霊の颯真は、そのマンションに見覚えがあった。
「梨那のマンションやん」
梨那の部屋は4階だ。
颯真はフワフワ浮かんで、梨那の部屋を覗いた。
梨奈と桜志郎が話している。
(そやけど、声が聞こえんなぁ…・・・)
颯真はスルリと壁を抜けて、梨那のワードローブの中に入った。
桜志郎の『情報収集』で鍛えた技。不動産会社に侵入するより簡単だ。
それに颯真は「不倫のために」この部屋に何度も入っている。
間取りは、しっかり覚えていた。
「あの人、亡くなったそうね」
(俺のことやん)
颯真は耳を澄ました。
「なぜ、あの人と関係を持たせたの? 引越しまでさせて」
半年前。
梨那は桜志郎から「引越してくれ」と頼まれた。
桜志郎が決めたマンションに引越したのが、5ヶ月前。
家具や家電が整うと「コスメやサプリを通販で頼め」と言われた。
注文する商品は、桜志郎が指定した。
そして・・・・・・、
運んできた「佐山という男に色目を使え」と指示された。
引越しを頼まれたとき、梨那は「結婚」を意識した。
プロポーズ? と期待した。
(ありえないけど、あるかもしれない)と思った。
でもマンションは『1DK』。
しかも「男を誑し込め」って……?
(なぜ? なぜ?)
でも聞けない。
聞いたら嫌われるかもしれない。
颯真は「梨那にしか頼めない。お願いだ」と言って抱きしめる。
(彼を助けられるのは私だけ!)
梨那は、桜志郎の要求にすべて応えた。
「亡くなったって聞いて・・・・・・」
「気にするな。ただの病気だ」
「だから、なぜ関係を持たせたの?」
「俺の仕事を邪魔するから、梨那に溺れさせたかった」
(なんやそれ?)
ワードローブの中の颯真は、声が出そうになった。
「俺と同じ物件を狙ってたから、梨那に金を使わせたかったんだ」
「え? お金使わなかったけど」
「女にケチだな」
(勝手なことばっかり言いやがって!!)
颯真は「出てやろうか」と思ったが我慢した。
桜志郎は梨那を抱きしめた。
「さっき言った物件だけど、どうしても契約したい」
「ついにお店を持つの?」
「夢が叶うんだ。ただ、少し金が足りない。海外に渡ってくれないか」
「それって……」
「店をオープンしたら迎えに行く」
「……」
「梨那にしか頼めない。お願いだ」
(彼を助けられるのは私だけ)
梨那が返事をしようとした瞬間、
「やめとけ」
颯真は思わず声を出した。
「え?」
桜志郎と梨那が顔を見合わせた。
「誰か来てるの?」
「まさか! 誰もいないわ」
桜志郎がワードローブを開けたが、颯真は壁をすり抜けた。
フワフワと逃げた颯真は、宙に浮いたまま首を傾げた。
(梨那にも声が聞こえた?)
幽霊の声が聞こえるのは『現世で未練の原因を作った者だけ』だ。
三途川が言っていた。
「佐山颯真さんの未練は、誰かを【深く強く恨む】思いです」
颯真が一番後悔していることは、梨那と浮気したことだ。
あれさえ無ければ、今も生きて香帆と暮らしている。
その浮気は『桜志郎と梨那に仕組まれた』と知った。
その瞬間、梨那に対しても【深く強く恨む】思いが沸いた。
(そやから、梨那に声が聞こえたんや)
梨那にも復讐しないと、成仏できない、ということだ。