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「でもさあ……」
「何よ。脈絡のないこと喋らないで」
後ろから勝手についてきている癖に、また文句言いたげに、ラヴァインが、私の肩に顎を乗せる。重い、やめて、と講義の声を上げれば、今度は、後ろから抱きしめるようにして、私のふわふわな銀色の髪に顔を埋めた。くすぐったくて、思わず変な声が出る。
「やめて、やめて!」
「ああ、待ってよ。叫ばないで。俺が捕まっちゃう」
「捕まりなさいよ、変態」
「変態って酷すぎない?ちょっと、良い匂いしたから、かいでいただけなのに」
「犬!?てか、それが変態臭いのよ。最悪、最悪!」
人通りの多い通りからは少しはずれているけれど、変な目で見られているのは確実だった。そういう注目は苦手だ、と思ったけれど、それ以上に、この髪色じゃそんな風な目で見られても仕方がないと、私は、ラヴァインの腕の中で暴れつつ抗議の声を上げた。
確かに、この銀髪と夕焼けの瞳は、目立つし、皇帝陛下が何かラスター帝国の国民に命令を下せば、私のこと、誰も受け入れてくれなくなるかも知れない。あの皇帝、本当に性格悪いし、やりかねない。そして、人望が厚いとか言う最悪のセットで。
「髪色、変えちゃう?」
「お金ないもん」
「お金でっていってないじゃん。本当に、鈍いなあ、エトワールは」
「うっさいわね、じゃあどうしろって……あっ!魔法!」
「分かってるじゃん。てか、気づくの遅すぎ」
バカみたい、とプッと笑ったラヴァインに肘打ちして、私は、彼の腕の中から飛び出した。
よく使う、変身魔法。でも長いこと使い続けるってかなり魔力消費になるんだけど、と私は、ラヴァインを見た。まあ彼も魔法に長けているし、消費しにくい方法を教えてくれるんだろうけど。
「この際、同じ色にするってどう?」
「アンタも変えるの?」
「じゃなくて、俺と同じ色にするのってどう?何か、きょうだいみたいじゃない?」
「アンタには、兄弟いるじゃない」
「そうだけどさ!ね!」
「ね、じゃないのよ」
向けないで、そんな期待の眼差し! と、キラキラと、いつも以上に満月の瞳を輝かせてくるもので、私は、断りづらくなった。というか、はじめからこれを狙っていたに違いないのだ、此の男は。また、たちの悪い。
(赤髪とか、似合わないって……)
そんな、熱血キャラじゃないし……いや、アルベドもラヴァインも熱血とはかけ離れているんだけど。
この毛量が、赤髪に変わると思うと、何だかなあと思う。本当は、この銀髪は気に入っているし、でも、この銀髪のせいで、差別を受けるのだから仕方がないなあとも思っちゃう。変えるしかないとは思っているんだけど。
「赤にすればイイの?」
「えっ、いいの?」
「いいのって、アンタが言ったんだし。じゃあ、変えない」
「えー似合うと思うんだけどなあ」
「どっち」
訳の分からない男だと思う。私を、引っかけ回して楽しんでいるだけかも知れないけれど。まあ、そうやって、気を逸らしてくれるのも、別に嫌いじゃないとは思って。
(矢っ張り、助けられてるなあ……私)
人は一人じゃ生きていけないってこういうことを言うんだろう。
縋ってしまうのは、別に恥ずかしいことじゃないって。
でも、こうやって、私を、追い出したわけだけど、今度エトワール・ヴィアラッテアは、どう私を攻撃してくるのだろうか。全く想像がつかなかった。分からないからこそ、慎重にはなっているんだけど、その慎重が、その気の張りようが、ずっと続くわけじゃないし。そこが、難しいところで、そこを狙われてしまうかもだけど。
「眉間にしわ寄ってる」
「うっ、痛い。触らないで」
「考えても仕方ないよ。もう一人の、エトワール・ヴィアラッテアが、どう行動してくるかなんて、今回のこともそうだけど、全然分からないし」
「アンタも、心読めるわけ?」
「アンタもって、よめないし。てか、矢っ張り、他に誰かいるわけ?」
「うっ」
「隠し事は、良くないなあ」
と、ラヴァインはニヤニヤといってくる。ベルのことを、言っても良いのだが、また、弄られそうだし、何か言われそうだし、私は言いかけた口を閉じて、知らない、とだけいった。ラヴァインは「あっそう」なんて、興味を一瞬にしてなくしたように、言うと、明後日の方向を向いた。エトワール・ヴィアラッテアの刺客が隠れていないか、確認するような目を見て、私は、彼も私の為に、口ではあんなこと言ったけど、動いてくれているんだなって思ってしまって、申し訳なくなった。
私と一緒にいると言うことは、自分の命の保証は誰もしてくれない、自分次第って事になるわけだし。
「アンタのこと巻き込んでるって思っちゃう」
「だから、思わなくて良いって、堅いなあ、エトワールは。俺は、自分の命ぐらい、自分で守れるし、エトワールのことも守れるくらいは強いけど」
「私のことは良い。自分のこと、優先して」
「何で、そんなに自分を大切にしないの?」
「大事に……してないわけじゃない。でも、罪悪感凄い」
「エトワールの訳じゃないのに、そう思うって、本当に優しいよね。エトワールって。俺なら他人のせいにしてる」
そうラヴァインはいって、肩をすくめた。
まあ、色んなもの切り捨てられる方が、強いんだろうけど。私には其れができないから。全部を捨てて、必要な部分をっていうのが、出来なくて、結局全て守ろうとして、全て傷付けちゃうみたいな。
どうしようもなく、不器用で、私は自分が、何かのヒーローと勘違いしているただの一般人だと。
ラヴァインはそれを把握しているからこそ、仕方なく捨てるものを捨てることが出来る。要領の良い人間だと思う。
「まあ、そんなことは、非常事態が起きたとき考えて」
「わっ」
「赤髪にあうじゃん。エトワール」
「ちょ、ちょっと勝手に」
「魔力温存……でしょ?」
と、ウィンクをかましてくる、ラヴァイン。
彼の魔法によって、一瞬にして、私の銀髪は、紅蓮の髪へと変わった。アルベドのストレート……じゃなくて、ふわっふわの紅蓮だから、何というか違和感があった。でも、目の前のラヴァインと似たような髪色になったのだけは、まあ、うん、良かったかも知れない。いや、ラヴァインよりも、綺麗な……本当にアルベドの美しい紅蓮そのものだった。ここまで、再現できるのは、本当に凄いと思う。
(似合ってる……か)
似合っているという言葉が、なにげに、私の背中を押してくれる。
「似合ってる……?」
「似合ってるっていった。まあ、エトワールなら何色でも似合うかもだけど。皇太子殿下の色は似合わないかもね」
「何それ。じゃあ、トワイライトの色が似合わないっていってるわけ?」
「そ、そうじゃなくて……あーえっと、嫉妬からくる。うん」
なんて、ごにょごにょと口ごもったせいで、最後の方は何をいっているか聞き取れなかった。でも、何となく、言おうとしていることは分かって、嫉妬か、嫉妬か、と私は、納得することにした。全部は納得し切れていないけれど。
まあ、それはいいとして、髪色を変えたわけだから、これで、私だって分かる人は少なくなっただろう。変身魔法は、髪色だけじゃなくて、視覚的に、その人だって認識させづらくする効果もついているから。
(でも、この色落ち着かない……)
逆に目立つんじゃないかなって、私は思ってしまって、自分の髪の毛に触れてみる。何となく、チューリップの匂いがするのは気のせいだろうか。
「何笑ってるのよ」
「ん~いや、俺と同じ色だって思って」
「何それ」
「好きな人が、同じ色って、嬉しくない?」
「……」
「ごめん、そんな怒らないでよ。もー真剣にし過ぎ」
「無神経すぎ」
「ごめん」
好きな人と同じ色って、私は、リースと引き剥がされたんだけど? それが、嬉しいとでも言いたいのだろうか。ちょっと無神経すぎだと、私がそっぽを向けば、彼は全力で謝ってきた。
私はそれを軽く受け流して、帝都から、皇宮を見上げた。あの、そびえ立つ城に、リースはいるんだろうなって考えながら、私は、髪の毛を持ってきたゴムでくくりあげた。
「……っ」
「何?」
「いや、なんで髪の毛結んだのかなあって思って。いや、似合ってるんだけどさ」
「ポニーテールにしちゃいけない理由があるわけ?それとも、アルベドと一緒だから?」
「いや、うん……もう、何も言わない」
何でそこで黙るかなあ、と私は思いながら、別に、何か理由があって、結んだわけじゃないけど、アルベドと同じように、高い位置で髪の毛をむすんで、ポニーテールになったことは、否定しない。まあ、最近髪の毛が邪魔で切ろうかなと思っていたし、そういう意味で、髪を結ったわけだけど。
ラヴァインは、落ち着かないようで、ずっと、目を泳がせてしまいには、耳を赤くさせて顔ごとそらしてしまった。
(変なの……)
その仕草も、赤くなるところも、アルベドと似ているなあ、兄弟だしなあ……何て思いながら私は、風で揺れた自分のポニーテールを触って、少しだけ口角を上げた。