「久しぶりにワインでも飲むか…」
少し疲れを見せた青年が、グーッと背筋を伸ばす。
黒の帽子に、特徴的な癖のある茶髪、鋭い目付き。然し、その割に低い身長。
彼の名は中原中也。
太宰と同じ幹部であり、彼の相棒でもある。
今宵、彼は長期任務から帰って来たばかりなのだ。
「中原さん…!」
声をかけたのは黒いスーツに、サングラスをかけた男だった。
「お疲れ様です、それと…」
「なんだ?」
男は一つの手紙を出した。
「此れを首領から…」
手紙を受け取る。
「おう、判った」
中也は廊下を歩きながら、受け取った手紙を見ていた。
中也君へ
長期任務ご苦労だった。
次いで悪いのだけど、戻ったら直ぐ
私の部屋に来て欲しい。
森鴎外
手紙を封筒に戻す。
「手紙じゃなくて連絡すればいいのに…」
この時、俺は思ってもいなかった。
首領の部屋で、あんな事が起こっていたなんて…。
薄暗い廊下を歩く。
「っ!」
中也は目の前の光景に驚愕した。
「な…なんだ、これっ…」
首領の部屋を警護している筈の男達が、血を流して倒れているのだ。
「おいっ!大丈夫か!?」
男達に駆け寄るが返事はなく虫の息だった。
「一体誰が____っ!」
中也の脳裏にある事が思い浮かんだ。
「首領!!」
中也は焦りながら走り出した。
「はぁっ…はぁ…」
走り続けるなか、中也は悔しそうに拳を握りしめた。
(一体何が起こってやがる…)
首領の部屋に近付く度に、死体の量が増えていく。
「何で此の事に誰も気付いてねェんだ…」
中也はある事を考えた。
「その通りじゃねェか…なんで誰も気付かない、敵が潜入したら誰だって気付く筈だ、」
(本部の中でも首領の部屋は、厳重にされていて、部屋に着くまで何人もの組織の人間と会う事になる、そして監視カメラが四六時中監視している……首領の方も誰が来たか分かる筈だ)
その考えを、中也は一番認めたくなかった。
然し、認めるしかないのだ。
(気付かないとなると、組織の人間)
(そして……)
中也は走りながら顔をしかめる。
(首領の部屋に行き来しても、怪しまれない人物……)
俺の知ってる奴で数人、ボソッと中也が口ずさむ。
「クソっ…!」
(首領!!)
心の中で、中也は大きく叫んだ。
***
青年___太宰治は、男に銃口を向ける。
男は腹部に血を流して、横たわっていた。
「矢張り……こうなるか、」
ボソッと男は呟く。
彼の名は森鴎外。ポートマフィアの首領だ。
然し其れも、この瞬間まで。
「悪いね森さん、」
ガチャッと銃から金属音がなる。
「先代首領とは違って、森さんは素晴らしい首領だ…けれど其れは、私にも出来る」
目を細めて云う。
森さんは安堵するように、ため息をついた。
「それもそうだね、」
せめて苦しまずに死ねるよう狙いを定める。
「さよなら森さん」
私は銃の引金を引いた。