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 それから真帆さんや潮見に引きずられるように町の中を巡らされたけれど、結局なんの成果も得られなかったらしく、すっかり陽の傾いた空を眺めながら、あーだこーだとよく解らない議論を重ねるふたりの後ろを、僕はだらだらと歩き続けていた。

 スマホに表示されている時計を見ればもうすぐ夜の七時。七時といっても辺りはまだ十分に明るく、夕方といって差し支えない。

「さて、そろそろ帰りましょうか」

 真帆さんがそう口にして、くるりとこちらに顔を向けて、

「今日はありがとうございました。明日からもよろしくお願いしますね、ハルトくん」

 などというので、僕は思わず目を見開いて、

「明日も?」

「はい。いったじゃないですか。事は急を要するって」

 潮見も眉を寄せながら、まるで睨みつけるように僕を見る。

「あたしだって、このままあのクソ親父まで仕事を辞められたりしたら困るんだから、あんたも手伝いなさいよね」

「……わかったよ」

 脳裏に浮かぶミナトの姿を思えばこそ、僕はふたりのその言葉に従わざるを得なかった。

 ふたりが本当に魔女かどうかなんてこと、この際どうだっていい。

 少なくとも、真帆さんと潮見が本気で無気力症候群の原因を調べている姿を今日一日眼にしてきたのだから、その行動そのものは信じるべきだろうと僕は思った。

 それが本当に魔力だか地力だかの流出に起因するものかどうか考えると、やはりどこか胡散臭いところはあるけど、僕の中にも藁にもすがりたい気持ちがあったのだ。

 真帆さんの飲ませた虹色ラムネで体力を取り戻したミナトだったが、それも一時のものであり、根本的な解決にはなっていないというのであれば、僕だってそれをなんとかしてあげたいと思うに決まっているじゃないか。

「さぁて、今日の晩御飯はどうしましょうかね~」

 口元に手をあてながらいう真帆さんに、潮見は首を傾げて、

「あれ? 八千代さんとこで食べないの?」

「八千代さん、今日は夕方から、港の方に住んでらっしゃるご親戚の様子を見に行くらしくて、帰りが遅くなるそうなんですよね」

「あぁ、アレだ。確か、亡くなった旦那さんの弟さんだよ。あのお爺さんも無気力症候群でかなり弱ってたから」

 そうなんですね、と真帆さんは心配そうに呟く。

 そんな真帆さんに、潮見はわざとらしくポンッと両手を叩いてから、

「そうだ。どうせなら天満んで食べていけば?」

「えぇっ?」

 僕は思わず眼を見開く。

 真帆さんは小首を傾げながら、

「ハルトくんのおうちで?」

 そうそう、と潮見はこくこく頷いて、

「天満の家、昼は定食屋、夜は居酒屋をやってるの。うちのクソ親父も前はよく行ってたんだよね。地元の美味しい魚が食べられるよ」

「あら、そうなんですか?」

 真帆さんに問われて、僕は、

「う、うん、まぁ」

 と不承不承頷く。

 正直、こんな綺麗な人をあんなオヤジだらけの店に連れて行きたくはないんだけれども。

「いいですね!」

 真帆さんもパチンと両手を打ち鳴らして、

「ぜひ、お願いします!」

「……はい」

 肩を落として、僕は答えた。

「美味しい! こんなにおいしいお魚料理、食べたことがありませんよ! 何ですか、これ! 美味しすぎです!」

 真帆さんはうちの父親が出した黒鯛の煮付けをバクバク食べながら、目を輝かせてそう言った。

 真帆さんの隣では、潮見も同じく煮付けを(思ったよりも上品に)口に運んでいる。

「そ、そうかい?」

 いつもはどこかムスッとしたような顔をしている父親も、真帆さんみたいな綺麗な女の人に褒められて締まりのない笑みを浮かべている。

 母親はそんな父親を横目で睨みつけてから、改めて笑顔で真帆さんに料理を運んでくる。

 刺身や焼き魚、和え物――次から次へと注文する真帆さんの胃袋は、いったいどうなっているのだろうか。

 真帆さんの隣で刺身を口にする潮見も「凄く美味しいです」と僕の父親に、控えめな可愛らしい笑顔を浮かべている。

 父親はそんな潮見に、

「それにしても、最近お父さん来ないけど、大丈夫?」

 すると潮見は手を振りながら、

「大丈夫ですよ、最近仕事が忙しくて疲れてるだけですから」

「そうかい? まぁ、たまには顔を出してくれって伝えておいてくれよ」

「はい、ありがとうございます!」

 僕はそんな真帆さんや潮見、父親の会話をよそに辺りを見回す。

 常連客のオヤジどもの、異様なまでの大人しさったらない。

 チラチラ真帆さんや潮見の様子を窺いながらも、遠慮するように料理を食べたりお酒を飲んだりしている。

 店内テレビの野球中継に一喜一憂しているように見せかけて、その実、気になるのはやはり真帆さんらしい。

 ……エロオヤジどもめ、なんて思ったり思わなかったり。

 それからしこたまうちの魚料理を食べ尽くした真帆さんは、満足したようにお腹をさすりながら、

「お父さん、ごちそうさまでした。お母さん、とっても美味しかったです!」

 満面の笑みをうちの両親に向け、立ち上がった。

 そんな笑顔を向けられて、父親も母親もまんざらでもなさそうな笑顔を浮かべる。

「こちらこそ、お粗末様でした」

「また来てくださいね。いつでも歓迎してますんで!」

 父親の言葉は、きっと心の底からの本心に違いない。

 その後、会計の金額の件でひと悶着|(タダにしようとする父親VSそれを阻止しようとする母親の口論が)あったあと、僕は恥ずかしい思いをしながら、真帆さんと潮見を店の外まで見送りに出た。

 ついてこようとする父親と、それを必死に止める母親なんてもの、僕は見たくなかった……

「いやぁ、本当に暑いですね。いつもなら、こうやってもうちょっと涼しい風を吹かせられるのに――」

 と真帆さんが店の前で手を軽く振った瞬間、ひんやりとした強い風が真帆さんと潮見、そして僕の間を流れていく。

「えっ、あれ? 魔力が戻ってる?」

 眼を見張る真帆さんに、潮見も驚きの声をあげる。

「えっ! ほんとっ?」

「はい、わずかですけど、魔力が戻った感じがします!」

 それからハッと何かに気づいたように、

「そうか、あの魚です! どうりで美味しすぎると思ったわけです!」

「え?」

「どういうこと?」

「あの魚、この辺りの海で獲れたものなんですよね? たぶん、あの魚に大量の魔力が含まれていたんです。それを摂取したことで、わたしの魔力が回復した」

 真帆さんはそう言って、店先に立てかけられたままにしてあったうちのホウキを手に取ると、

「ちょっとお借りしてもよろしいですか?」

「え? あ、はい」

 真帆さんは僕の返事を待たずして、横にしたホウキの柄に軽く腰かけるように中腰になると、トンッと地面を蹴って。

「――えっ」

 ふわりとホウキに腰かけた真帆さんの身体が浮かび上がり、二階くらいの高さまで昇っていくと、その途端、ゆるゆると再び地面へと降りてきた。

 真帆さんは悔しそうに唇を尖らせて、

「あぁ、また使えなくなっちゃいました……」

 呆気にとられる僕の横で、驚く様子もなく、潮見は眉間に皴を寄せて、

「それって、つまり……」

 真帆さんは夜の闇にうっすら見える、海の方を向きながら頷いて、

「地力は、海に流出しているってことになりますね」

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