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 ホウキで浮かび上がった真帆さんの姿を思い出すと、「あぁ、あの人は本当に魔女だったんだな」という漠然とした驚きと、何とも言えない非現実感に、僕はこれから先、どう世界を見れば良いのかなんだかよく解らなくなっていた。

 昨夜、真帆さんと潮見はあのまますぐに帰ってしまい、ろくに話をすることもできないまま、驚きの中で眠ってしまったためか、果たしてあれが本当に現実のことだったのか、今でも僕は自分の眼が信じられないでいた。

 エアコンの効いた自室のベッドに横たわり、天井を眺めながら、ぼんやりと僕は延々そんなことを考えていたのだが、

 ――カリカリ、カリカリ

 何かをひっかくようなそんな音が部屋の中に響いて、僕はふと音の出所である窓の方へ視線を向けた。

 果たしてそこには毛むくじゃらの猫の姿があって、さほど幅のない屋根の上で立ち上がり、僕をじっと見ながら、両手でカリカリと窓ガラスを引っ掻いているではないか。

 潮見の猫だ。

「……なんだよ、いったい」

 僕は独り言ち、ベッドから起き上がると窓まで歩き、ガラリと窓ガラスを開いてやった。

 朝からむわりとした熱気と生ぬるい風が部屋の中に吹き込み、それと一緒に毛むくじゃらの猫――確か、ルナと潮見は呼んでいたっけ――が僕の部屋に入ってくる。

「おいおい、勝手に入ってくるなよ」

 そう声を掛けると、ルナはフンっと鼻を鳴らして僕を見上げて、

「芽衣が呼んでいる。早く準備しろ」

 野太い声で、人の言葉を口にした。

 しかも、なかなか渋い声だ。

 呆気にとられる、なんてものじゃない。

 猫が人の言葉を口にした時点で目を丸くしてしまい、それ以上どう反応したら良いものかわからなくなってしまう。

 けれど、潮見も真帆さんと同じ魔女であることと、昔観た魔女が主人公のアニメに出る黒猫も人語を操っていたことを思い出して、深く深く息を吸って、長く吐いて、今目の前にある現実をただ素直に受け止めることにした。

 というより、受け止めざるを得なかった。

 最早こんなことで驚いていてはいけないのだ。

 そう、これが僕の現実だったのだから。

 それにしても、

「――お前、オスだったのか」

 『ルナ』なんて名前に対して、僕はてっきりメスだとばかり思っていた。

「不服か?」

「あ、いや、そういうわけじゃないけど……」

 ルナはフンッともう一度鼻を鳴らして、口元に笑みを浮かべるように、

「俺は先日のように、またお前が気を失うと思っていたんだがな。さすがに慣れたか」

「えっ、気を失う?」

 なんで、僕が。

 眉を寄せると、ルナはくつくつと嘲るように、

「この俺の姿を見て、気絶してしまったではないか。覚えていないのか?」

 言って、ルナはぶわりと全身の毛を逆立てるようにその姿を膨らませていく。

 まるで中型犬くらいの大きさまでその姿を変化させた頃には、三本の尾がゆらゆらと揺れていて。

「……まさか、あの夜の化け猫って、見間違いとかじゃなくて」

「そう、俺だ」

 大きく見開かれた眼、口に並ぶギザギザの牙、振り上げた前脚の先には鋭い爪が並び、ルナの今の姿は恐ろしい化け物のようだった。

 いや、事実僕にとっては化け物以外の何者でもなかった。

「なかなか面白かったぞ。ちょっと驚かせただけで気を失ってしまうのだからな」

 にんまりと笑うその顔は、昔どこかで見た絵本やアニメに出てくる――なんだっけ、チェシャ猫?にしか見えなかった。

 まさに化け猫だ。

 そんなことより、とルナは再び元の姿に戻ると、窓の桟へ飛び乗り、

「早くしろ。芽衣も真帆も、お前を待ってる」

「わ、わかったよ。でも、行くってどこへ」

「案内するから、早く来い」

 ルナはぴょんっと再び飛び上がると、窓の外へと飛んでいった。

「遅いよ、天満」

 眉間に皺を寄せながら、両手を腰に当てて唇を尖らせる潮見。

 その隣には真帆さんの姿があって、さらにその横には、

「――え、陽葵?」

「おはよう、ハルト」

 笑顔で手を振ってくる陽葵に、僕は当然のように戸惑ってしまう。

 なんで、陽葵までこんなところに。

 いや、陽葵だけじゃない。

 陽葵の斜め後ろには、千花もいる。

「えっ、千花も?」

「おはっ、天満」

 なんだよ、いったいどういうことなんだよ、これは……

 思いもよらないふたりの姿に、僕は戸惑いを隠せなかった。

 なんで、どうして?

 戸惑っていると、真帆さんが一歩歩み出て、

「人手は多い方が良いかと思って、メイさんのお友達にも手伝って頂くことにしたんです」

 そう言って、にっこり微笑む。

「手伝ってもらうって、それって、つまり――」

 僕は真帆さんと潮見、それから陽葵と千花の姿を何度も交互に見やってしまう。

「陽葵も千花も、潮見と真帆さんが魔女だってことを」

「――うん、まぁ、びっくりだよね」

 苦笑する陽葵に、

「まさか、本当に魔女なんてものが存在するなんて思わなかったよ」

 と千花も肩を竦める。

「しかも、真帆さんだけじゃなくて、メイまで実は魔女だっていうんだもの」

 そんなふたりに、潮見はくすりと笑みながら、

「まぁ、別に秘密にしてなきゃいけないことってわけでもなかったんだけどさ。普通、そんなこと暴露したって、それこそ天満みたいに信じてくれないでしょ? だったら別に言う必要もないかなって、ずっと黙ってただけ」

 それからすぐに真剣な面持ちで、

「でも、今回ばかりはそうも言ってられないみたいだから、昔の友達に正体?を明かして、手伝ってもらおうって思ったわけ」

「昔の友達って――今の友達は?」

 なんか、学校でも派手な感じのグループとつるんでいるようなイメージだったけれども。

 すると、潮見は少しばかり困ったような表情で、

「あいつらは……ちょっと違うから」

「違うって、何がだよ」

 訊ねる僕に、潮見は深いため息を一つ吐いてから、

「……色々あるんだよ、あたしにも」

「……色々?」

「そ、色々」

 なんか、どうにもよく解らないし、腑に落ちない。

「色々って、例えば――」

 もう少し突っ込んだ質問でもしてやろうかと口を開いたところで、

「ハイハーイ! それでは皆さん、よろしいですか?」

 間に割って入るように、真帆さんが大きな声で手を振った。

 僕と潮見、そして陽葵と千花が、揃って真帆さんの方へ向き直る。

 それを確認してから、真帆さんは一つ頷いて、

「それでは、作戦会議を始めましょう!」

 声高らかに、宣言したのだった。

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