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最終話 人格
通報を受け、坂田たちは現場へ急行した。
住宅街の一角。
規制線の向こうに、一人の女子中学生が倒れていた。
「被害者は中学三年生。」
「死亡確認。」
坂田は遺体を見つめる。
「……橋本優太は?」
「現場付近の防犯カメラに映っています。」
またしても容疑者は橋本優太だった。
しかし。
坂田は遺体を見た瞬間、違和感を覚える。
「制服じゃない……。」
私服だった。
これまでの推理が、一瞬で揺らぐ。
⸻
警察署。
坂田はホワイトボードの前に立っていた。
「復讐が動機なら。」
「三人を殺した時点で終わっている。」
藤堂が頷く。
「今回の事件は説明できません。」
坂田は資料やメモを再確認する。
その時、あのメモを見つける。
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『『橋本たちは、いつも決まった七人で遊んでいた。』』
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「……七人。」
坂田は呟く。
橋本優太。
満島凛一。
鈴木大知。
死亡した女子中学生三人。
「六人……。」
坂田の手が止まる。
「もう一人いる。」
その瞬間、全員が息を呑んだ。
「今日、殺された女子中学生。」
藤堂も気づく。
「七人、全員繋がっていた……。」
つまり。
復讐相手は最初から四人だった。
⸻
しかし。
坂田はすぐに首を振る。
「いや……違う。」
「何がです?」
「俺たちは今まで。」
「何を探していた?」
藤堂は答える。
「人格が入れ替わるトリガーです。」
「雨。」
「制服姿の女子。」
「全部違う。」
坂田は静かに言った。
「小学生時代。」
「橋本は女子児童ともトラブルを起こしていた。」
「でも、その頃はいじめなんて起きていない。」
「制服姿の女子に反応する理由なんて存在しない。」
制服姿の女子 がトリガー
それで説明がつくのは、全て今の話。小学生時代は 何がトリガーで問題を起こしていたのか。
資料を机へ置く。
「今回の被害者は私服だった。」
沈黙。
そして。
坂田は、ゆっくり口を開く。
「……俺たちは。」
「最初から存在しないものを探していた。」
「トリガーなんて。」
「最初から、無かったんだ。」
⸻
坂田たちは橋本家を訪れた。
母親は、すべてを悟ったような表情で椅子に座る。
「もう……隠せませんね。」
静かな声だった。
「優太は、多重人格者です。」
「それは知っています。」
「でも。」
「皆さん、一つ勘違いしています。」
坂田は顔を上げた。
「勘違い?」
「優しいあの子。」
「あの人格が主人格じゃありません。」
部屋の空気が止まる。
「……何ですって。」
「あの子の主人格は。」
「昔から。」
「怒りっぽくて。」
「乱暴で。」
「人を傷つけても何も感じない子でした。」
坂田は言葉を失う。
「じゃあ……。」
「あの優しい子は。」
「主人格を隠すために表へ出てきた人格です。」
⸻
「小学生の頃。」
「問題ばかり起こしていたのは。」
「主人格のまま生活していたから。」
「中学生になって。」
「あの子は自分で主人格を隠すようになりました。」
「だから普段は優しい。」
「でも。」
「別人格で居続けるのにも限界があります。」
「疲れるんです。」
「だから時々。」
「机を叩いたり。」
「口調が変わったり。」
「主人格が顔を出してしまう。」
坂田は、あの日の取調室を思い出した。
雨の日。
突然暴れた橋本。
そして気絶。
「あれも…」
「人格を偽り続けた反動…。」
「無理に抑え込んだから。」
「気を失っただけ。」
坂田は静かに目を閉じた。
雨も。
制服も。
全部。
警察が勝手に作り上げた仮説だった。
⸻
「知っていたんですね。」
坂田は母親を見る。
「ええ。」
「昔から。」
「主人格が危険なことも。」
「全部。」
「……それでも。」
「止められませんでした。」
その沈黙が、何より重かった。
⸻
だが、一つだけ。
坂田には残る疑問があった。
「満島凛一。」
「あの子は。」
「誰が殺した。」
母親は首を横に振る。
「分かりません。」
「優しい人格は知らない。」
「主人格は話さない。」
真実は闇の中だった。
坂田は事件資料を閉じる。
「もしかすると。」
「鈴木大知の復讐という理由も。」
「ただ人を殺すための口実だったのかもしれない。」
「同情される理由を作り。」
「殺人衝動を正当化するための。」
「……免罪符。」
証拠はない。
ただの推測だ。
しかし、その考えを否定する証拠も、もう残されてはいなかった。
⸻
その日の夜。
橋本優太は再び逮捕された。
取調室。
坂田は静かに向かいへ座る。
「橋本。」
「君は誰なんだ。」
優太は、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「……分かりません。」
その笑顔が。
本当に”優しい人格”だったのか。
もう坂田にも分からなかった。
⸻
数か月後。
法廷。
橋本優太は被告人席に立っていた。
争点は、一つ。
責任能力はあったのか。
多重人格は、罪を免れる理由になるのか。
傍聴席には坂田が座っている。
裁判長が判決文を開いた。
「判決を言い渡します。」
坂田は静かに目を閉じた。
二十三日間。
彼はずっと”トリガー”を探してきた。
雨。
制服姿の女子。
午後。
どれも違った。
本当の引き金は。
外には無かった。
橋本優太、そのものだった。
「判決は――。」
コメント
1件
読み終えました……。最後の最後で「優しい人格が主人格じゃなかった」という母親の告白、本当に衝撃的でした。今までのすべての推理がひっくり返る感覚。そして「トリガーは存在しなかった」という坂田の気づきも、重くて静かな余韻を残します。橋本が最後に見せた笑顔が、どちらの人格なのか——読者にも永遠にわからないままなのが、逆にこの物語の真実らしいと思いました。素晴らしい幕切れでした🌷
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如月 未澄斗
216
#刑事もの
鬼霧宗作
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