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魅了の魔女と皆の王子様

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魅了の魔女と皆の王子様

20 - 魔女と過去と因縁と

2025年12月01日

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足を踏み出すと、さくりと小気味よい音が響く。視界一面に広がる紫の花々が、崖から臨む遠い街並みを鮮やかに彩っていた。

「…アメシスの森に、こんな場所があったんだな」

「村の方角とは外れますし、ご存知でない方が多いようです」

俺、腐っても今代の森の主なんだけどな…という言葉は飲み込んで景色に目を向けた。花祭りはグラナートゥム全域で一斉に行われる祭りで、日が沈みかけることで薄暗くなった世界をほそぼそとした祭りの灯が照らしている。幻想的な景色にほうと息を零すが、やはり完全に現実から目を背ける事はできなかった。

どさりとその場に腰を下ろして無言でフランチェスカを見上げると、彼女も何も言わずにその隣に腰掛ける。しばらくお互いに無言の時間が続き、手慰めに紫色の花を摘み取ってはするすると編み込んでいく。

そんな沈黙を破ったのはすっかり日も沈み、辺りを持ってきたランタンが照らす中。消え入りそうな程小さなフランチェスカの声だった。

「やはり、お上手ですね」

ついと視線を上げても目は合わない。彼女は長い睫毛を伏せ、懐かしそうに俺の手元を見つめていた。

「最近思い出した俺はさておき、そんな昔の事をよく覚えてるな」

「大切な思い出ですから。ずっと伝えられなかったけれど…助けてくれて、ありがとうございます」

ふと目と目が合った。それはあの日と何ら変わらない、煌めきを閉じ込めたガーネット。

黒い木々に囲まれた花畑で見たガーネット。

あの日草むらを掻き分けてやって来たのは、小さなお姫様だった。花冠を作ってやると瞳を目一杯輝かせて笑って、それを見てると何だか嬉しくって…浮かれた俺は、そこに現れたレオンスの様子がおかしい事に気付けなかった。

「そういうお礼は、そんな苦しそうな顔で言うもんじゃないだろ」

「…私のせいですよね。私があの日、会合を抜け出して貴方に出会ったから。貴方の呪いが解けなくなってしまったのも、貴方の人生を歪めてしまったのも…私のせい」

ぽつりと呟かれた言葉はいつもよりも重い。

「…まぁ、一端にはなってるかもな」

突然目の前の少女を害そうとした師匠を止めるのは、人として当然のことだろう。その結果がこの身に巣食う刻印であり、俺の人生はその解呪の為に捧げられていると言っても過言ではない訳だが…しかし。

「俺の人生なんざ、レオンスに拾われた時点ですっかり歪んじまったからなぁ」

そもそも、刻印はフランチェスカと会う前から刻み込まれている。ぐちゃぐちゃになって手がつけられなくなったのがあの日というだけで、あんな男の元に居たらいずれは遅かれ早かれこうなっていただろう。予想というより確証。あんな奴をほんの少しでも理解なんざしたくないが、あいつの執着の強さはなんとなく分かる。

「俺がアイツの元で何て呼ばれてたか、覚えてるか?」

大嫌いなその名前を自嘲しながら吐き出す。

「オルタ。オルタンシアの代替品オルタナティブって訳だ。本当、ふざけんなって話だよな 」

不安定に瞳を揺らす彼女を、少しだけの胸の痛みを感じながら更に揺さぶってみる。

「なぁ、メルフィンってあんたの祖父?」

息を呑む音がした。

「そこまで…ご存知なのですね」

「んー、そうだな。魔力の記憶って奴だと思うんだが…俺の魔力はまるっとアイツの物と同質だからな。元々魔力なしの俺じゃ俺の魔力として変質できねぇし」

「…… 」

黙り込んだフランチェスカは、今度こそその柔らかな茶色い頭を地に着けた。

「我々の事情に巻き込んでしまい、大変申し訳ございませんでした」

メルフィンとは、俺の予想通りフランチェスカ達の今は亡き祖父、言い換えればグラナートゥム前国王のことらしい。結ばれる事こそ叶わない恋だったが、凱旋後オルタンシアは紫水晶の呪術師としてかの王を見守り続けた。そこに横恋慕していたのがレオンス。それは禁呪を使い続ける要注意呪術師として、昔馴染みのメルフィン王が話をしに行った時に発覚したという。

「憎しい憎しいメルフィン。他でもないオルタンシアが悲しむから手は出さないよ。だけど、あぁ、次は無いと思いな」

メルフィン王は間もなく病で倒れた。

誰のせいでもない、ありふれた病だった。

「オルタンシア様から貴方を保護したと連絡があった時、大変失礼ながら貴方の出自を調べさせていただきました。けれど、貴方とオルタンシア様の繋がりは何処にもなかった。…本当に、無関係だったのです」

頭を上げようとしない彼女の顔は分からない。けれど、その声は震えていた。

紫の花達に囲まれた頭を見下ろし、いつもより冷えた心で手を伸ばす。指先がさらさらと揺れる毛先に触れ、そのまま手の平で髪を撫でた。

「何を言っても頭を下げるな、お前は」

心地よい通り風に乗って俺の声が広がる。地に着けられたままの頭が少しだけ身動ぎしたかと思えば、またぴくりとも動かなくなった。

「下げなくてはいけないことです」

「そもそも、俺を身勝手に巻き込んだのはレオンスであってお前達ではないだろ」

「だとしても、我々の事情に巻き込んでしまったことは事実でしょう」

「頑固だなお前も…」

許しを受け取らない事も、顔を上げようとしない事も。意志が強くて敵わない。

「百歩譲っても、悪いのはレオンスの凶暴性に気付けず放置したオルタンシアとメルフィンだ。…つっても、それも百歩譲った話。俺にとって一番悪いのは禁呪に手を出し理想を押し付けて、挙げ句人様のことを身勝手に滅茶苦茶にしたレオンス。その他なんざ、遠い話過ぎて知ったこっちゃねぇよ」

「ですが…っ」

ぱっと顔を上げた彼女の唇に手を当て、強引に言葉を止める。

「それに、俺の被害が一番甚大ってだけで、俺もお前も等しく上の世代の尻拭いに巻き込まれてるだけだろ。傍迷惑な話だけどな…つうことで許すも何もねぇけど、俺はお前を許します」

堂々と言い切ると同時に指を離す。すると彼女は唇を震わして その丸い目元をくしゃりと崩した。

「…優しすぎます」

「一番弟子には優しいんだよ俺は」

花冠を作ってやって、その反応に気を良くした在りし日の俺はフランチェスカ相手に呪術の基本をつらつら説いた。フランチェスカはフランチェスカで、それを心底興味深そうに聞いていた。その談義はレオンスがやって来るまで続いた。可愛らしくも立派な師弟関係の出来上がりである。

「ありがとう…ございます」

それはいつもの温かく花開く様な笑顔ではなく、唇を引き結んで照れた様な、何かを堪える様な、そんな余りにも人間らしい笑顔だった。

「それで、お前の懸念は晴れたか」

「はい…」

もぞもぞと起き上がるフランチェスカの頭には何も乗っていない。土下座した拍子に落ちてしまったらしい。その頭に手編みの冠をそっと乗せてやる。

紫色の冠は紅い瞳によく映えた。

「じゃあ…今度は俺の番だな」

俺としては、フランチェスカを俺を巻き込んだ加害者だとは認識していなかった為ちょっとばかし面食らっていた。だから、本当はこっちの話が俺の本題。

何度も口を開いては躊躇って何も言い出せない俺の事を、急かしもせずにじっと隣で待ってくれる。そんな健気な姿にもっと心がブレーキをかける。こんなこと、言うべきじゃない筈なんだ。分かっている。それでも聞かずにはいられない。

「お前…本当に俺のことが好きなのか?」

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