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そのまた翌晩
健一は私の指示通り、キャバクラ「ルナ」の開店前の更衣室に里奈を呼び出した。
手には、かつて二人が不倫の最中に撮り溜めた写真や
彼女に買い与えた安物のアクセサリーが入った袋。
「……何よ。また靴でも磨いてほしいの?」
里奈はガムを噛みながら、小馬鹿にしたように健一を見下ろす。
健一は震える手で、その袋をゴミ箱に投げ捨てた。
「……里奈。俺、もうお前とは会わない。お前との過去は全部ゴミだ。…俺には、奈緒とナオミさんさえいればいいんだ」
一瞬の静寂
里奈の顔から笑みが消え、どす黒い怒りが湧き上がるのが、陰から見ていた店長のカメラ越しにも伝わってきた。
「は……? ゴミ? あんた、今なんて言った?」
「お前は俺を壊した。でも奈緒は、俺を再生させてくれるって言ってくれた。…もう二度と、俺の前に現れるな!」
健一は、私に「言わされている」言葉を必死に叫んだ。
それを聞いた里奈は、狂ったように笑い出した。
「再生? あはは!おめでたいわね、健一、あんた、本当に気づいてないの?あの『ナオミ』っていうインフルエンサーの正体をさぁ!」
カメラの向こうで、私の心臓が僅かに跳ねる。
健一が凍りついたように動きを止める。
「……正体? 何の話だ。ナオミさんは俺のパトロンと繋がっている、女神のような人だ」
「女神?違うわよ! あの女、あんたが捨てようとした奈緒よ!!あんたが『終わってる』って笑った奥さんが、仮面を被ってあんたを踊らせてるだけなのよ!!」
里奈の叫びが更衣室に響き渡る。
健一は目を見開き、首を激しく振った。
「はっ?!う、嘘だ……!そんなはずない! 声も、姿も、全然違う……!」
「声なんてボイスチェンジャーでどうにでもなるわよ! あの女、私にも連絡してきてたの。『サレ妻の味方』って名乗って、あんたを追い詰める方法を私に教えたのは、全部奈緒よ!!」
健一の視界がぐにゃりと歪む。
かつてナオミとして囁かれた甘い言葉。
里奈が絶妙なタイミングで現れたあの修羅場。
パズルの一片が、最悪な形で噛み合っていく。
「……じゃあ、俺が必死に働いて、這いつくばって……それをあいつは、笑って見てたのか……?」
「そうよ?あんた、一生あいつの掌の上で転がされてるのよ。……ざまぁないわね、健一!」
里奈は健一の顔に唾を吐きかけ、部屋を飛び出していった。
更衣室に残された健一は、崩れ落ちるように膝をついた。
その様子を、私は自宅のモニターで、最高のワインを口に含みながら眺めていた。
(……あら。里奈さん、ついに言っちゃったのね)
でも、それで終わりだと思ったら大間違い。
私はスマホを手に取り、ナオミとしてではなく、「妻・奈緒」として、健一の番号へ電話をかけた。
「……もしもし、健一さん? バイト、もう終わる頃かしら? 今日はあなたの大好物を用意して待っているわね」
電話越しの私の声は、どこまでも優しく、そして逃げ場のない冷たさを孕んでいた。
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#大人ロマンス
#サレ妻