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深夜一時
健一は、まるで魂をどこかに落としてきたような足取りで帰宅した。
玄関で出迎えた私の顔を見るなり、彼は激しく震え出し、その場にへたり込んだ。
「……奈緒。お前……いや、お前なのか……? ナオミさんは……」
私は手に持っていたスマホの画面を、彼に無言で見せた。
そこには、健一が今さっきまで縋り付いていた「ナオミ」の管理画面。
「……嘘だろ。嘘だと言ってくれよ……」
「嘘じゃないわよ、健一さん。あなたが『理想の女神』だと崇めていたのは、あなたがゴミのように扱った私」
「……ねえ、電話越しの私の声、あんなに熱心に聴いていたのに、気づかなかったの?」
私は「ナオミの声」で囁き、彼の耳元で冷たく笑った。
健一の顔から、一滴の血の気も引いていく。
「お前は、俺が這いつくばって、里奈に靴を磨かされるのを……どんな気持ちで見てたんだ」
「どんな気持ちって? 最高に決まっているじゃない。あなたが『刺激』だと言って欲しがった屈辱。それを、私が特等席でプロデュースしてあげたのよ」
私は優雅にソファに腰掛け
足元の健一を、まるで壊れた玩具を見るような目で見つめた。
「パトロンも、再起のチャンスも、全部嘘。……あなたは、私が描いた地獄の脚本の上で、ただ踊らされていたの」
「ふふっ……滑稽だったわよ、健一さん。里奈と私に挟まれて、死に物狂いで生き延びようとするあなたの姿」
「……う、うああああああああ!!!」
健一は絶叫し、畳を拳で叩いた。
自分の人生のすべてが、一人の女の「暇つぶし」のように弄ばれていた。
その事実は、彼の最後のプライドを、細胞の一つ一つまで焼き尽くした。
「……離婚だ。離婚しろ!お前は悪魔だ! こんな家、一秒だっていられるか!!」
「いいわよ、離婚しても。……でも、健一さん。忘れたの?あなたが会社の経費を使い込んで、里奈さんに貢いだ証拠」
「それから、ナオミとしてあなたから受け取った『裏金』のやり取り。……すべて、警察に届ける準備はできているのよ?」
「……っ!!」
「離婚して家を出た瞬間、あなたは『横領犯』として全国に指名手配される。……そうなれば、入院しているお母様は、どうなるのかしらね?」
健一は、振り上げた拳を力なく下ろした。
逃げ道はない。
この家を出れば、社会的な死と実刑が待っている。
この家にいれば、自分を憎んでいる「悪魔」に飼い殺される。
「さあ、選択して。……警察へ行く?それとも、私の『可愛い家政夫』として、ここで余生を過ごす?」
健一は、もはや涙も出ないほど枯れ果てた目で、私のヒールを見つめた。
そして、ゆっくりと、震える唇を開いた。
「……掃除…でも、何でもする。……だから、警察だけは……」
「いい子ね、健一さん」
私は彼の顎を掬い上げ、優しくキスをした。
その唇は、死人のように冷たかった。
仮面劇は終わった。
ここからは、仮面を脱いだ「真実の地獄」が始まる。
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#大人ロマンス
#サレ妻